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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第二章 この世界はすべて舞台

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29.天空都市にて(アルバート視点)

 天空都市ラピュータは、エムーアの中心の海上より三千メートルほどの高さにある。上から見ると道路や水路が蜘蛛の巣のように見える正六角形の島だ。

 島の中心にある王宮の中には、王族の住まいや研究所や図書館、劇場や競技場があり、王都は王宮を中心に放射状に水路がのびている。そしてその水路をつなぐように同心状に環状道路が作られ、その間にカラフルな住宅が所狭しと並んでいるのだ。

 そろそろ日が沈むころ合いである王都は、夕刻の日を受け建物が長い影を伸ばし、仕事を終えた人々が各々家路へと向かっていた。


  王宮を出たダン・アルバートが足早に歩いていると、ふいに自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。声のした方を振り返るとイチジョー・トムがにこやかな笑顔で大股で近づいてくる。

「やあ、アル。相変わらず足が速いな。急用でもあるのか?」

 からかうような口調で話すトムはアルバートと同じ二十四才で、とび色の髪のハンサムな男だ。人材育成学院であるイチジョーの後継ぎである彼はなかなかに忙しい男で、全国を飛び回るアルバートがこうしてばったり会えるとは、まさに奇遇であった。


「いや? 報告が終わったから、さっさと部屋に戻ろうと思ってただけだ」

 アルバートが素っ気なくそう答えると、トムは全く意に介さない様子でニコッと笑い、

「じゃあ時間があるんだね。どうだい、一緒に食事でも。いい店を見つけたんだ」

 と誘ってくる。彼の言ういい店は大体アルバートの好みにも合うので、もちろん快諾した。急いで帰ったところですることがあるわけでも、ましてや待ってるものがいるわけでもない。せいぜい酒の一杯もひっかけて、シャワーを浴びて寝るだけのつもりだったのだから。


 トムのいう「いい店」は、ラピュータの西に新しくできた小洒落たレストランだった。決して広くはないが、食事をしていても客同士が顔を合わせないような作りで、落ち着きがある。注文をすれば女性の給仕係が酒を選ばせてくれ、ゆったり酒も飲める仕様だ。会話の邪魔にならない程度に音楽が流れているのは、最近のはやりか。

「なかなかいい店が出来たじゃないか」

 素直に感心してそういうと、トムは自分が褒められたかのようににっこりする。

「だろ? まだできて一か月だから、アルは知らないと思ったんだ」


 二人でチキンのハーブ焼きや蒸留酒を楽しみ、互いの近況を尋ねあう。実際はトムがほとんど話をしていて、それにうまく乗せられたアルバートが答えていくだけだったが、それは出会ってから今までいつも行われてきたことだった。


「そういやアル、来週イチジョーの茶会に出てくれるんだってな。今日ロデアから戻ったんだろ? そのままイチジョーに滞在してから帰って来ればよかったのに」

「ああ、それなぁ」

 何と答えようかとうめくように声を出し、結局本音を言うことにする。

「できることなら、行きたくないのが本音なんだよなぁ」

 微かに情けない音をにじませるアルバートの声に、トムは訳知り顔でニヤリと笑う。

「だが、母上の命には逆らえないって?」

「そういうことだ」

 肩をすくめて、アルバートは酒のおかわりを注文した。


 トムの言うイチジョーの茶会とは、ロデアにあるイチジョー学院の卒業試験のことだ。アルバートは母親からこの茶会、つまり学生の卒業試験の実習に「客役」として出るよう命令されていた。普段なら母だけなのだが、今回は裏に秘密があるためアルバートが駆り出される羽目になったのだ。


「なあトム。俺が行っても仕方がないとは思わないか?」

 ため息をついてトムを見ると、彼は少し眉を上げて笑って見せた。

「アルはそんなにうちの妹が嫌いか? なかなかの美人だし、気立てもいいぞ?」

「だがフリッツの元婚約者だぞ」

「まあな。でもとっくに解消してる」

 苦々し気に眉根を寄せるトムに、アルバートは同情の目を向けた。


 今回の茶会は、トムの妹エリカには秘密の見合いの場なのだ。今回の客役に混ざって、何人もの候補者が送られるのだという。母はアルバートにその一人になるようにと命じたのだ。

 母から命令されたときは何の冗談かと思った。自分が行かなくても、彼女に見合う男は山ほどいるのだ。よりによって自分が行くことはないだろうと抵抗さえした。だが母はそれを良しとしない。よっぽど彼の婚約が決まらないことに業を煮やしたのか、むしろ気合を入れて行けとさえ言われてしまった。

 だがアルバートは、昔からトムの妹が苦手なのだ。


 出会ったのは五年程前だろうか。フリッツの婚約者として紹介されたエリカは、まだ十三歳だった。年相応の幼さが残る顔立ちにもかかわらず、どこか大人の雰囲気を持つ女の子だと思ったことを覚えている。しっかり躾けられた隙のない令嬢といった風情で、笑顔を絶やさず、学生時代は学園の太陽の女神と呼ぶ生徒さえいたそうだ。


 フリッツはトムと同じく昔からの友人だ。学生時代はよく三人でつるんでいた。

 フリッツはエリカをことのほか大事にしていたし、トムはどちらが兄だかわからんとよく笑っていた。

 だがアルバートはどうもこのエリカが苦手で、あまり接触しないよう心がけていた。親友の妹であり、もう一人の親友の婚約者だから、どうしても会う機会は多い。会話が多少嫌味っぽくなりはするものの、決して嫌いなわけではない。だが生理的に合わないと言えばいいのか。エリカは会わなくて済むなら会いたくない女性だった。


 だが半年ちょっと前、フリッツとエリカが婚約を解消したときは驚いた。世間には公表されていないが、この時にはフリッツは、後の新しい婚約者であるデボラを愛していたというのだから!

次は「婚約解消⁈(アルバート視点)」。

フリッツから直接、婚約を解消するというニュースを聞かされた二人は……

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