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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第4章 最高のメイクは笑顔です

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124.特別課題は男役

気づいたら二ヶ月強も開いてしまいました。新章ではありませんが(分けたほうがいいかな?)、名前を付けるなら舞踏会編のスタートです。

 十一月も半ばを過ぎた。


 萌香はミアの侍女(コンパニオン)――十五歳のモエカとして次々投げられる課題をこなし(その間に、やっぱり課題として開かれたお茶会と小さなパーティーも一回ずつこなし)、あとは最終課題の舞踏会(ダンスパーティー)を残すのみとなった。

 後々聞いたところによると、本来なら半年はかけるであろうというような課題の量だという。他の生徒にとっては復習の意味合いが大きいため萌香も必死だったが、ミアもユリアも、それから入れ替わり立ち代わり参加していく女の子たちもよく頑張ったと思う。三年分は学んだ気分だと言っていたミアの言葉も、あながち間違いではないだろう。


 そしてカリン先生曰く、「最終課題」だという舞踏会で、萌香は意外な「役」をすることになった。



 帰るためにトムの迎えを待っていたある日。

「ねえモエカさん。最後の舞踏会で男性を演じてみない?」

 ふと思い出した、とでも言うような口調のカリンの発言に、萌香は目を瞬かせた。

「私がですか? カリン先生を男装させるのではなく?」

 ――あ、本音が出ちゃった。


 そのころ舞踏会用にと、ミアとユリア、それからスザンヌとメイクについて打ち合わせをしていた。以前のように萌香がメイクをしてもいいのだけれど、どうせなら専属の侍女が(ほどこ)せた方がいいだろうということで、それぞれのドレスに合わせたヘアメイクをみんなで研究し、専属侍女に教えるなんてことをしていたのだ。その中にカリンは含まれていなかったけれど、彼女はすらりと背が高く、男装してもきっとかっこいいだろうなぁなどと思っていたからだろう。驚いてつい思ったままを口にしてしまった萌香に、カリンは面白そうに口の端をあげた。


「私の男装? ふむ。それも面白そうだけど、今回はモエカさんに頼みたいんだよね」

 カリンは萌香の失言に気を悪くするでもなく、「私の男装はまた次の機会にね」と軽く流し、にっこりと笑った。


   ◆


「ということで、今日の私は十六歳の男の子ですよっと」


 部屋に一人なのをいいことにそう呟いた萌香は、大きな姿見の前に立ち、自分の姿を入念にチェックした。鏡に映るのは夜会服を着た少年の姿だ。

 最後の課題だというのに、モエカではなく別人として参加するのも不思議な感じではあるが、正直ワクワクしていることは否めない。ある意味舞台を作り上げるに他ならないからだ。



 あの日カリンが口にしたのは十五歳のモエカにではなく、大人の萌香(エリカ)に対する相談だった。彼女は最初から萌香の事情を理解している一人だ。


「実はね、ロナのことなんだ」


 ロナは最後の週に参加した十六歳の少女だ。ミアの父親がバルトが選んだ生徒の一人でミアたちとも初対面だったが、人懐こく、あっという間に場に溶け込んでしまった。


「ロナさんがどうかしましたか?」


 礼儀上そう尋ねはしたものの、ロナの名前と男装依頼ということで、萌香はカリンの言いたいことにピンときていた。

 今回の舞踏会は小規模だけれど、最終課題ということでかなり本格的に行われるという。これもバルトの提案だそうで、ミアがとても楽しみにしている。

 参加者は今回の生徒と教師、そしてそのパートナーや身内の一部だけと限られたものだ。十代半ばの女の子がメインということで開催時間は早いものの、基本は大人のそれと同じ催しだ。愛娘のためとはいえ、かなり大がかりである。


 ちなみにパートナーはそれぞれの婚約者や恋人が務めるが、いない人は父親や男兄弟がその役をする。メラニーにはトム、ユリアにはルドといった具合だ。

 十五歳のモエカには該当するパートナーがいないため、カリンの従弟(いとこ)に頼むことになっていた。(ちなみにアルバートはミアのパートナーだ。彼も参加できるようにと、ミアが気を利かせてくれたらしい)


 そんな風に皆パートナーが決まっていたはずなのだが、小さなトラブルが起こった。ロナがパートナーだった幼馴染の少年と喧嘩をしたというのだ。萌香たち大人目線だと「微笑ましい」喧嘩だが、当人たちには大ごとだ。

 あげくロナは、

「私はパートナーなしで参加します! それでも問題ないですよね? パートナーのいない人も参加するんでしょう」

 と、一人で参加する宣言をしてしまった。


 もちろん一人でも問題はない。実際交流を目的として、親戚縁者関係だが、同世代の少年少女が何人か招待されている。

 しかしこれは最終課題。

 エスコートされての入場から審査だと考えると、一人参加は大きな減点だろう。ミアたちは「ロナはああ言ったけど、きっとすぐ仲直りすると思いますわ」と気楽に構えてたのだが。


 ――どうやら、そう簡単ではなかったみたいね。



 どうしたのかという萌香の問いに、カリンはすべてを察したように苦笑した。

「うん、そう。モエカさんの考えてる通りだよ。どうも仲直りは難しいらしくてね。一応その彼も参加の返事は来てるんだけど」

「そうなんですね?」

「うん、まあ。実を言えばその彼って、私の末の弟なんだよ。いくつになっても子供っぽくて困る」


 ――あら。世間は狭いのね。


 小さな驚きに目を瞬かせた萌香は、次いでふふっと笑みをこぼした。困ると言いつつ、彼女が弟を可愛がってるのがよくわかる。カリンもロナも授業の間幼馴染だと感じさせることはなかった。二人とも公私がきっぱり分けられるタイプのようだが、それはそれ、なのかもしれない。


「ということは?」

 萌香が先を促すと、カリンは少しいたずらっぽい表情を浮かべた。

「うん。ロナのパートナーになってほしいんだ。どうかな?」

「面白そうですね」

 間髪入れずに答えた萌香に、カリンが一瞬目を丸くして吹き出す。


「すぐ同意してもらえるとは思わなかったよ」

「えっ? もしかして男役だと課題を受けたことにはならないんですか?」


 これは仕事なので不合格でも問題ないのだが、それはそれ、である。ここまでやってきたからには皆と一緒に合格したい。


「気にするのはそこ? いや、立ち居振る舞いを見るわけだから関係ないと言えば関係ないよ。ただ、一曲は踊ってもらうことを考えると、ダンスの男性パートを急いで覚えてもらわなきゃいけないけど。ああ、その分ボーナスポイントはつけるよ」

「まあ、それはお得ですね」


 おっとりと微笑んだ萌香は、パチンとウインクして見せた。


「私、男性パートも踊れますから」


 アルバートになんでだよと突っ込まれながらも、しっかりマスターしたことが役に立つ日が来る。

 さすがにお嬢様の立場でサムズアップはできないが、ニコニコ微笑む萌香に今度はカリンが目を丸くした後吹き出した。ツボに入ったらしく肩が震え続けてる。


「カリン先生。ロナさんのパートナーなら、どんな男の子がいいですかね?」


 トムみたいな王子様タイプ。ルドのような好青年タイプ。それともアルバートみたいなクールなタイプ?

 ロナが小柄なため、萌香が少年役をしても少し身長差ができる。見た目に関しては服装に気を付ければいいだけで、肝心なのは、彼女の隣に立つのがどんな人物であるか。

 萌香の質問にカリンは少しだけ不思議そうにしながらも、少し考えて口を開いた。


「弟はおっとりしてるのに意地っ張りな子なんだ。――そうだな。快活な感じがいいかな?」

 浮かんだ涙を指で拭ったカリンの回答に、萌香はイメージを膨らませる。脳内に浮かんだのは中学一年生の時の舞台。唯一役を与えられて舞台に立った時の男の子役だ。


 ――夜になると息を吹き返す人形たち。あの少年人形の名前はトムだった。


 あの役を選んだのは偶然だったけど、心のどこかに残っていたのかもしれない……。

 息を小さく吸いイメージを広げる。快活で、でも少しだけ意地悪で神秘的な少年。

 まとめていた髪をいったんほどき、後ろで一つに束ね、前髪をかき上げる。ずっとしまい込んでいたその役を引っ張り出し、萌香の意識を後ろに置いた。




 カリンは笑いの発作をおさめ、キョロキョロと周りを見回した。

 光や空気が変わったような不思議な感覚。しかし部屋の中で特に変化は見られないと首を傾げつつ、カリンは目の前にいたはずのモエカに視線を戻し息を飲んだ。


 さらっと前髪をかき上げたモエカ――いや、モエカに似た少年は、不敵な表情でクスっと笑った。女性の服を着ているはずなのに、それが見えていながらなお、カリンには目の前にいるのが十代半ばの少年に見えてポカンとする。


「え……?」


 そこだけ光が当たってるような不思議な感覚。目の前の萌香だったはずの少年は一瞬目を伏せ、チラリとカリンを見た。


「カリン先生。こんな感じでどう?」


 声変わりしたばかりのようなハスキーな声。その不思議な色気にカリンの喉が上下する。


「驚いた……。完璧ね」

●お知らせ

この回で萌香の回想にでてきた舞台は

「スポットライト~魔法にかかった舞台~」

https://ncode.syosetu.com/n9746fb/

で、描かれています。主人公は萌香の部活仲間で、彼女から見た萌香の話ともいえるでしょう。

6000字弱の短編ですので、よかったらご覧くださいませ。

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