第2話 ファーストバトル(3)
2 強敵
前から、ゆっくりと進んで来るジープ。それに乗った二つの影が見えた。屋根のないオープンカーであるため様子が分かり易い。
助手席にいるのは、バズーカ(特殊加工されていて、弾の挿入口にでかいカートリッジがついている。つまりはロケット弾を連射できると思える)を持った女? 目元を隠したベネチアンマスクを掛け、星のマークを散りばめた、どこかの国旗を模したコスチュームで男勝りの仮装をしていた。それともう一人、隣で運転する、マスクや服の柄は同じだが、どう見ても身長百八十センチメートル以上はありそうな……しかも、驚くことに、腕、足、腹の筋肉が異常に発達し、それは最上級のボディビルダーさえも敵わないほどの盛り上がりで、その体を赤裸々に見せつけているつもりなのか、上半身は胸だけ隠し、下半身はハーフパンツをはいた、恐ろしく強靭であろうと思える肉体を持った、女? が乗っていた。
片やレディの方は、白煙が漂う中、バイクに跨ったままじっと奴らの動向を探る。
すると、早速その巨漢がジープから降り、徐々にこちらの方へ近づいてきた! さながらその姿は、怒れる象のごとく、目は狙いを澄ます豹の様相で、瞳が赤く輝いていた。
どうやら戦いは避けられそうにない状況か? レディは敵の迫力にたじろぎながらも、暫し気合を入れ直す。けれど、その間にも奴はどんどんと接近してくるのだから、悠長にしている時間はなさそうだ。ならば、仕方ない。お手並みを拝見するとしよう。
彼女の手が、素早く動いた。空を切る飛音とともにシューターを、投げたのだ!
忽ち、鈍い音が鳴る! 強烈な衝撃で相手の腹に命中した。よし、これで決まったぞ!……と思えど、えっ、何? 駄目だ! 奴は平然とその場に立っていた。一瞬歩みを止めただけで全く傷ついていないという。
何ということ、骨すら砕く破壊力を受けても平気なのか? これには驚くライダー。としても、気落ちしている暇はない。もう一度、自分の腕力を信じて渾身の力でシューターを投げつけてみた!
ところが、円盤がまさにぶつかろうとした瞬間、その巨漢は丸太のような腕を振り、いとも簡単に払い除けた。結果、軌道を変えられたシューターは、破壊音を立てて道路脇のブロック塀を直撃し、大穴を開けてしまう。
「うっ?……」やはり効かないのだ! 並の攻撃など一切通じない。
さらにこの時、ジープの車内に残っていた女も、予備カートリッジの装填をし直したみたいだ。またもレディに向けて発射しようというつもりか?
これで目の前には、迫り来る巨漢と、その後ろから砲弾による襲撃が待ち構えていることになる。同時に両方の攻撃を受けては、いくら最強のMであろうと防御さえ敵わない!
それでも彼女は、臆することなく、標的を巨漢に絞って体当たりを仕掛けようとハンドルを握り締める。最後まで戦う気構えだ。
よってスロットル全開、エンジンの爆音を轟かせた。スピードを見る見る上げて突っ走った!
……とはいえ、本当に勝ち目があるのだろうか? 相手は底知れないパワーを持つ化け物。そうそう簡単に倒せるはずもない。そのうえここで、恐れていた通り砲弾も発射された! 真正面から凄まじい速さで突っ込んでくる。このままでは撃破されるぞ!
しかし、レディは、そんな危険など顧みることなく次なるシューターを掴んだ!――目前に迫り来る巨漢の姿と、その真上で白煙を吐きつつ向かってくるロケット弾を凝視して――
そして……投げた! 円盤が唸り飛ぶ。すると……
――忽ち、爆破音が轟いた!――何と、砲弾の爆発が起こったのだ! レディが、巨漢の頭上で、ロケット弾を破裂させたという訳だ。つまり、これこそが彼女の狙い、巨漢の真上で爆破させたなら、奴は無防備な体勢にならざる負えない、と踏んでいたからだ。[凄まじい破裂で舞い散った火の鉄粉は、爆風のエネルギーを受け取ってまるで弾丸のように突き刺さろうとするため、何人であろうとも反射的に回避行動を取るであろう]
故に、その思惑は見事に的中する。巨漢は、頭を抱えて屈んだ。
……とくれば、後は最後の仕上げだけ。
――強音が響いた!――重量級のバイクで容赦なく突進して、諸に跳ね飛ばしたのだァー!
奴は、ただちにジープの側まで吹っ飛んで倒れ込む。嫌というほど道に叩きつけられたに相違ない。そのため、
「くくっ、きさま! よくも」と悔しさを口にした。
レディの奇策が、まんまと成功した瞬間だった。加えて、バズーカを構えた女の方も、この一部始終を唖然とした表情で眺めていたようだ。こんな光景を見たことがないと言いたそうに。
だがその後、巨漢は、その女の心配を余所に、すぐさま立ち上がり、
「大丈夫だ。私に任せろ、もういいからお前は見物していなさい」と退くことを命じた。
やはりこれぐらいで参る訳はないか? まだまだ、余裕の態度を示した。レディも承知の上だ。本当の戦いはこれからだった。