第2話 ファーストバトル(2)
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夜の十時、学園から黒塗りの高級車二台が、闇に紛れて走り出した。そして前車には、オールバックの髪型をした、中年にしては品のある紳士風の男が、後部座席にどっかりと座っていた。
「例の件だが、取引先はいつ来る予定だね」
「はい、数週間後には来られるとのことです」とすぐに隣の秘書が答えた。
「そうか。その時は君の娘たちにも、ご足労願おうか」
「はい、もちろんそのつもりでいます。出来栄えを見て頂けばきっと気に入ってもらえますよ」
謎の商談? とも思える話をする、北条靖忠たちだ。夜が更け、道路には車の数も少ない。悠々と二台の車が商業地の裏道を流していた。
だが、暫くすると、その後ろに……奴らの行動を見透かして、一台のバイクが登場する。フルフェイスメットを被ったライダーが、つかず離れず、一定の距離を保ち並んで走りだした。この状況では、前車からもその存在を知られ易いが。
すると思った通り、北条たちを乗せた二台の車のうち、後方が異変を察知したか? 突然、片側のサイドガラスを全開まで下げて……何! 拳銃?
その途端――数発の銃声!――警告もなしに発砲してきた。バイクに向かって撃ってきたのだ! これは非情な悪道。
しかし、そんなことは既にお見通しとばかりに、華麗なハンドル捌きで縦横無尽にバイクを操れば、容易に弾丸をかわす。……としても油断は禁物か。今度は車の両サイドから容赦のない銃声音が鳴り響き、激しい銃撃に晒された!
これには、確かにライダーも危険を感じた。そのため、一気に間を詰め、車の即真後ろにつけた。この位置なら一時は弾丸の死角になると判断したからだ。そうして後は、これほどの〝歓迎〟をタダで帰す訳にはいかないと、ライダーの〝お返し〟が始まった。走行中であろうとも、バイクの座席に立ち上がったなら、シートを蹴って宙に舞い上がり、バイクの遥か上空で、あたかも空間に寝そべるような仰向きの体勢を取った直後……唸る投擲音! 超合金シューター(円盤状の飛び道具)をその強肩から投げ出したのだ!
よって、銃を持つ二人の腕の骨が――唐突に鈍い音がする――もろくも砕けた! 続いてフロントガラスにも、シューターで大穴を開けたため、車は道を外れ急停止する。一方、その間にライダーは、難なくバイクに着地した。
そう、まさにこの戦術は……レディMの常套策だ。彼女がある計画の元で理事長を襲撃していたという筋書きだったのだ! ただし、言うまでもなく本番はこれから。彼女は真のターゲットである前車に焦点を合わせ、再び突き進む。
バイクのスピードをどんどんと上げた。忽ち、うまい具合に奴の車を目前に捉える。
そして、ちょうど射程距離内に入ったところで、この機を逃さない、運転手目掛けてシューターを投げようと……
だが、その時、突如けたたましい音が耳に入り、何かが白煙を吐きながら近づいてきた? 彼女は不穏に思い、動きを留める。
……と、次の瞬間、「げっ!」その正体が明らかに。
――何と、あれは砲弾だ!――よもやロケット弾が、レディを標的に突っ込んできただと? その唐突な狙撃には、言わずもがな彼女も仰天した! とはいえ、即座に回避行動を取らなければならないのだ。彼女は車体を翻した。
――途端に、爆破音が轟いた!――ギリギリ真横の地面に着弾して、一瞬で炎と黒煙を激烈に噴出し破裂していた!
危機一髪だ、どうにかかわした。彼女の人並み外れた反射能力のお陰か。……だが、どこから? どこから撃っている。それを確認しようとする間もなく、なおも続けざまのロケット弾が、レディに向かって飛んできた!
堪らず左右に蛇行して懸命に逃げるライダー。砲弾は彼女を掠め、近々の地表で炸裂した! 石つぶてと爆風が容赦なく彼女の体を包み込む。こうなると流石に、周囲が煙幕と砂塵で霞すみ、前が見辛くなった。
そのせいだろうか、敵の発砲も、この時だけは止んでいた。
前方は、既に理事長たちの車が去った後。……ただここで、新たな車が薄っすらと目に入る。攻撃を仕掛けた奴らが、登場してきたのであった!