第九話 最終話(6)
いったい、何が始まったというのだ? レディは、すぐさま後方を顧みた。
すると、そこには、警官たちに取り囲まれて一人騒ぐ大門寺の姿があった。奴が意識を取り戻し、何か筒状の物を手に持って叫んでいたようだ。しかも、周りの警官たちの様子もおかしく、おろおろと慌てた仕草を見せていた。
(はて? 何を……)
そして、そう思った次の瞬間、漸く彼女も理解する。いつの間にか、大変な事態を迎えていたということを……
――何と、大門寺が、火のついたダイナマイトを掲げていたのだ!――「お前ら全員、死ぬんだ! 死ぬんだ。ふぁふぁふぁふぁ――」しかも、まるで憑かれたかのように大声で叫びながら。
(仕舞った! 気がふれて最後の暴挙に出たかッ!)
となれば……早く取り上げればならないぞ!
だが……駄目だ! この場の指揮官である工藤は、顔を引きつらせ、「おい、早く奪い取れ!」と命令するだけで全く用を成さず、同じく他の警官たちも咄嗟の出来事に尻込みするばかり? もう、どうにもならない。
このままでは、本当に全員が噴き飛んでしまうぞ!
万事休すだァー!
……と思いきや、突如鎖分銅が空を切る。
いいや、まだだ! 見かねたレディが、決死の覚悟でその場を鎮めにかかった。
大門寺の手から爆薬を弾き飛ばし、宙に舞い上がったところを鷲掴みしたなら、(結局はそうなる運命だったか?)そのまま捨て身の行動に出たのだ!
――何と、崖に面した窓を突き破り、硝子の砕ける音が響く中、彼女はダイナマイトとともに飛び降りたではないかァー!――
「…………」
えっ? そんな、まさか、レディが自分の身を挺して他の者たちを救った? これが……彼女の終末?
――何てことを!――
「レディ、M!」
工藤は、すぐさま窓枠に近づき、大声で叫んだ。しかし、返事を得られるはずなく、無情にも崖の下から凄まじい爆発音が轟いただけ……
その場は、忽ち緊張感に包まれた。
そして、レディの最期を見届けた者たちの悲嘆が続こうとも、慌しく駆け回る人々で溢れだす。
時刻も、気づかぬうちに過ぎて、窓の外を覗けば、鮮やかな赤色を帯びた夕日が傲然と山の尾根に消えようとしていたのだった――――




