第8話 最後の決戦-2
「くぁ、かかか、うわっはははは――」
ところが、その時だ! 突然、不気味な笑い声が辺りに満ちた。壁に開いた大きな穴を通して伝わる、皇虎の声?
どうやら、奴はまだ健在のよう。決着はついていなかったのだ!
レディたちはすぐさま穴を通って隣の部屋へと駆け込んだ。
すると、その場には、『HY9』の液体が入ったボトルを持ち――残りの一本は腰につけたまま――手にして笑う皇虎の姿があった。レディの一撃を食らっても、まだまだ余裕の表情で……。しかも、残念なことはそれだけでなく、一縷の望みを託して撃ち込んだ抗ウイルス剤も効果がなかったみたいで、その容姿に変化が見られなかった。やはり、奴のような長期にわたっての感染者には効かないのだろうか? 否、まだそう結論付けるには早過ぎるような。もしかすると、効力が発揮されるのに多少の時間を要するのかもしれない。レディたちはこの後の進展に希望を託した。
だが、そんな機捜隊UPの淡い期待を打ち消すかのごとく、次なる警鐘が皇虎の口から発せられた。
「とうとう、私を本気にさせたねえ。何をしたか知らないが、私の細胞の進化をそうそう簡単に止められはしないわ。それより、もっとすばらしい変異を見せてあげましょう。……これ以上『HY9』を打てば、もう人としては生きられない可能性もあると研究者から言われて自ら禁じてはいたけれど、こうなれば仕方がない。私は最終進化を遂げて、お前たちを一人残らずこの世から消してやるわ!」と。
そしてそう言うや否や、手に持っていたボトルを自分の太腿に突き立てた! 忽ち、透明な容器の内部に見えていた緑色の液体が減り始め、奴の体に取り込まれる。――おそらく、注射針も仕込んでいるのであろう――
……と、その直後、「うおおおおぉぉーー!」突然、皇虎が吠えた。早々と、変態が始まったのだ!
原始の巨大獣へと進化するかのごとく、筋肉が今まで以上に盛り上がったかと思ったら――その光景を、唯々レディたちは呆然と静観するだけかッ!――見る見るうちに霊長類大型類人猿と見紛うほどの肢体に変貌を遂げるとともに、その顔もいつの間にか額が膨れ上がり、まるで黒ミサを司る山羊のような人とは思えない異様な顔の輪郭になったうえ、瞳の色までも無敵の証であると言わんばかりのゴールドへ変化していた。そう、疑いようもなく、〝魔物〟が誕生したのであったァー!――こんな化け物に一時だけでも睨まれたなら、即座に身が竦んでしまうであろう――
「ドウダァ、コレガ最終進化ダァ。全員カカッテ来イィ!」次いで奴の雄叫びが、おどろおどろしく聞こえてきた。
これには、流石に機捜隊UPも、交戦することを躊躇した。
それでも、必ず倒さなければならない相手……
よってレディは、この期に及んで怖気てなるものかッと奮起した! 先陣を切って、「てやー!」ただちに超硬合金ヒールで渾身の蹴りを奴の首に見舞ったのだ!
だが、今回は……何ということだ! 平然と仁王立ちしたままで、全く効いていないという。
さらにおクウが、鋼鉄サポートの膝で皇虎の胴に跳び蹴りをかましたものの、駄目だ! ピクリともしない。
次にセブンのボウガンが唸れど、ことごとく弾かれた。筋肉組織が増加して硬化ゴムのようになっていたのだろう。
つまり三位が一体となって、彼女たちの壮絶な攻撃を仕掛けようとも、まるで通用しなかった。(まさしく、信じられないほど驚異的な戦闘能力よ!)
しかもその後、逆に、「ウオオオッー!」皇虎の超強烈な反撃を受ける羽目になってしまった! 奴の左右の拳が振り下ろされた途端、稲妻のようなエネルギー波が発生して、レディたち全員が一瞬で吹き飛ばされ床に叩きつけられたのだ! 要は、全く人間業とは思えない凄まじい衝撃波を浴びせられて手も足も出なかったという訳だ。
「くっうううっ……」レディは、這い蹲って痛みを堪える。おクウたちも同様か? そして、もはやこれ以上の素手や飛び道具は意味をなさないと悟った。
となれば――ここでレディは、腹を決めるしかなかったかッ!――残された最後の手段は、もうあれしかないということだ!
故に彼女は、決意を胸にすっくと立ち上がったなら、〝まさしく禁じ手である〟赤のシューター二機を両手で掴み、「いくぞ! おクウ、セブン」と二人に注意を喚起した直後、皇虎を目掛けて投げた?……と強攻したいところだったが、ここで突如、奴も予想外な動きを見せたため、彼女の手が止まる。――何と、一気に間を詰め接近してきたのだ!――
「うむむっ?」(つまり、これでは近過ぎる。己の方も諸に爆風を浴びて危険極まりない状況……)忽ち、彼女の顔に当惑の色が浮かんだことは言うまでない。
とはいえ、退くという選択肢は……考えられよか! どんなに危険であったとしても、その言葉は彼女の脳裏になかった。
そのためレディは、ただちに、「えやー!」シューターを投げつけたのであったァー!




