第7話 怒りの果てー4
ところが、その時だ!
――突如、大爆音が耳を劈いた!――ゲートの柵が、爆風で脆くも噴き飛んだかッ! さらに、空を切る音も耳にしたかと思ったら、皇虎に迫ったよう。[まさしくそれは、鋭利な矢の飛翔]そう、やっと工藤たちの登場を迎えたという訳だ。素早い動きでグラウンドに雪崩れ込んできた。
……となれば、流石に皇虎も、一旦退くしかないと見える。体を伏せ辛くも矢をかわし、その場から離れた。ただし、それとは入れ違いに北条の部下たちが闘技場内に乱入して向かっていったか?
とはいえ、機捜隊UPも準備は万端? 工藤の滅茶苦茶なマシンガンの発砲で迎え撃ったため、「ぎやー!」「うわー!」と手足を撃たれて泣き叫ぶ部下たちの悲鳴が瞬く間に場内を埋め尽くす。加えておクウも、見事な鉄拳を披露して一人二人と敵をなぎ倒し、セブンの方はその間にレディの元へと駆け寄ってくるという、絶妙なチームワークを展開させた。
つまるところ、一瞬でこの場は、けたたましい銃撃戦の交差する戦地へと変わっていたのだ!
一方、この唐突な来客に北条たちも動揺を隠せない様子だ。
「おい、逃げるぞ」と部下に指示して、急いで逃走用の通路へ向かおうとしていた。
だがこの時、秘書の大門寺が、
「皇虎を残して行くのですか?」と北条に訊いた。親として心配したのであろう。
すると北条は、「いや、一先ずこの場所から去るだけだ。後で戻るつもりだよ。それにあいつらを片づけられるのは皇虎をおいて誰がいると言うのかね。……見たまえ。彼女も状況を分かっているから、言わなくても出口を護っているじゃないか」と答えた。
事実、奴の言う通り、皇虎はゲートの前で工藤たちを見据えていた。これを目にしては、大門寺も納得するしかない様子。よってその後は、全員北条に従ってそそくさと移動しだした。
「待ちやがれ! てめえらー」ただしその逃走を、工藤の方も勿論気づいていた。彼は怒声を上げながらすぐに追いかけようとした。……が、何故かグラウンドから客席に上る階段がない。どうやら、闘技場の外側に通路が存在するみたいだ。
それなら、今度は慌ててゲートを出ようと振り返ったところ……これもまた、すんなりと行きそうになかった? 出口を塞ぐかのごとく、目の前に忽然と佇む皇虎の姿があったのだ。しかもそこに、苛立たせるような北条の指示する声までも聞こえてきたという。
「皇虎よ、わしらは一時、この場を離れるが心配するな。後で必ず迎えに来る。それまでに片をつけておくんだ」と。
そしてその声を聞いた皇虎の方は、察しがいいと言うべきか、「先生、分かってます。こんな者たちは、私一人で十分です」と返答していた。
――ええい、邪魔なヤロウだ!――工藤は、ただちに憤慨した。
「こいつ、どきやがれ!」それ故、奴らの会話を遮るように銃を発砲した。皇虎を排除するため、やたらめたら撃ちまくったのだ。……としても、奴の動きは速く、そのうえ射撃が下手な工藤とくれば、命中させることは至難の業か? さらに続いて、セブンの矢も加勢に入ったが、それ以上に皇虎は素早く、名手の彼女でさえも、射ることはできなかった。要は、なかなか仕留められないうえに、工藤たちがゲートを潜ろうとしようもんなら、容赦なく奴の拳が飛んでくるという始末。避けるのに必死で、全く外に出られなかったという訳だ。
ならば、別のゲートを手榴弾で噴き飛ばせばいいのでは?……と考えてみたが、疾うに北条たちの姿は掻き消えていた。今から追うにも、彼らだけでは手勢が少な過ぎる。皇虎を捕えるだけで精一杯な状況だ。工藤は不本意ながら追跡を断念するしかないと感じていた。
そんな中、余裕の口調で話す、皇虎の声が耳に入ってきた。
「ふふふ……この、のろまな平民たち。ここでくたばるのがお前たちの運命だ!」と。
奴はたった一人、工藤たちの前に立ち塞がって暴言を吐いていたのだ。
ただしこの情勢を鑑みて、彼はふとある思いに至る。
「馬鹿な奴だ。一人残されて……。結局、てめえも利用されてるだけだろうが!」皇虎ですら、北条にとって道具でしかないということを見抜いていた訳だ。彼は半ば憐れむ気持ちを込めて、そう戒めた。
ところが、奴の方は、
「何? 私が利用されてるだと? ふざけたことを言うな! 何も知らんくせに。私は将来、この国の軍高級指揮官になることを約束されている身だぞ」と興奮気味に、しかも聞き捨てならない話を口にした?
これには、一瞬工藤も戸惑う。どう考えても疑問符が付く返答であったからだ。そこで次に、
「軍高級指揮官?……北条が言ったのか? 日本に軍隊などないがねっ」と念を押して訊いてみると、奴はさらに語気を強めて言った。
「ははは、だから何も知らんと言ったんだ。この国の未来をな。さあて、それも当然か、お前のような平刑事が耳にできる話ではないのだ。私たち、選ばれし者だけが、この世に君臨する使命を与えられたということよ。下等な庶民は全員滅びろ! お前たちの末路は既に決まっているのさ。わはははは、わっはははは――――」とうとう常軌を逸した形相で、殊の外語りだしたという。それはどう見ても異常な姿だった。
工藤は、その振舞いを前にして、諦めにも似た言葉を出す以外、もうできることはないと思った。彼はポツリと、
「……狂ってやがる」と呟いた。




