第6話 囚われの身ー4
3 お披露目
米軍基地跡の広い敷地内には、点々と建造物が存在していた。とはいえ、見捨てられた建物ともなれば、ほとんど至るところで老朽化して、コンクリートの崩壊は勿論、基礎の鉄骨が露出した部分さえあった。
そしてそんな中に、さながら中世のコロッセオを思い起こさせる――若干小さめで野外ステージ程の広さを持つ――闘技場もあった。兵士たちの力自慢の場なのか、それともリクレーションとして獣たちの闘争を見物していたのか、詳細は分からないが、土砂が敷き詰められた演舞場の回りを高さ数メートルの石壁が取り囲み、その上に数百人は観覧できるであろう客席が配置されていた。
するとそこに、雑談をしつつ観客席へと近づいていく一団が現れた。
北条たちだ! 北条は、自ら一番見晴らしのいい場所へと三人の外国人を先導していたのだ。サポート役の大門寺を従えさせ、恰もすばらしいショーが開催されるかのような口振りで客人たちに話しかけていたという。
そうして、数名の部下が周りの安全を確かめた後、全員が指定の座席に着いたところで準備が整ったか? [ちょうど目の前にも、防護用としての強化硝子板が、グラウンドとの間を遮る形で設置されている]
よって早速、北条が部下に指示を出した。
「お客様がお待ちかねだ。すぐに始めなさい」と。
そうすると、第一のゲートが開き、グラウンド内に五名の強面たちがのっそりと現れた。《はて? この男たちの登場は何を意味する? どう踏んでも、その面を見る限り招待状は貰ってなさそうな連中だが……》そう、確かに、北条も客として招いたつまりはなかったという。だが、彼らにはそれなりの仕事が与えられていて、なくてはならない人材だった。それ故、強制的に登場させられたのだ。
続いて、闘技場内に男たちを残してゲートは閉められる。これで言わば籠の中、彼らにとっては逃げられない状況となった。
となれば、当然ながら男たちは訝しがったであろう。辺りを見渡しながらうろうろと歩き回り、どう対処すべきか思案しているかのような振舞いを示した。……が、その後、とうとう一人の男が痺れを切らしたか?
「おいおいおい、俺をこんな所に連れてきて、何やらせようって魂胆だ!」と肩を揺らし粋がるような仕草を見せて不平を漏らし始めた。
さらに別の男も、「おう、何者か知らねえが、俺たちのもてなしがこれか? てめえら、ただで済むと思うなよ」と勇んだ態度で、北条たちに向かって毒づいた。
ただしその直後、男たちがある一点を凝視し始めると状況が変わったか? どうやら気づいた様子……
〝ゲートの脇のテーブル上に、彼らにしてみれば想定外の代物――何とそれは、マシンガンを初め、拳銃、日本刀、サバイバルナイフ等々――が無造作に並べられていたのだ!〟
流石にこれを目にしては、彼らも顔を緩ませ良からぬことを考えたであろう。
するとやはり、粋がる男が動き出したか?
「おっと、いい頃合いにハジキが置いてあるじゃねえか」と言うが早いか、拳銃をひったくった。そして、全く何の警告もなしに――銃声音が響いた!――発砲してきたではないか!
仕舞った! 不用心にも程がある。このままでは北条に命中するぞ!……と思えど、いやいや、大丈夫だ。弾は甲高い音とともに弾かれた。まさしく、防弾硝子によって護られていたという話だ。
北条はこの結果に、勿論満足した。
一方、撃った男の方は、何故かヘラヘラと笑い出した。まるで『ただのおふざけだ』とでも言いたそうに……
〝とんだ、茶番劇を演じていたのだった!〟
そうして、そんな些細な出来事が済んだところで、北条がそそくさと話を進めた。
「さて、皆様。これから取って置きのショーを開催します。じっくりと御覧下さい。忘れられない一日になることでしょう」と言いながら、両腕を広げてグラウンドを指し示した。[それは恰も、この上ないほど待ち望んだ剣闘士を迎えるかのような身振り]
するとその途端、第二ゲートが開いた。
その場に、一人の戦士が現れる。〝バズーカを抱えたその背に、煌々と日の光を浴びながらの登場か?〟
――そう、言わずと知れた、龍子だ!――
遂に、人並外れた強者の狩が、今幕を切ろうとしていた!




