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第6話 囚われの身-2

 工藤は、勇んでおクウたちの待つトラックへと帰っていった。

 続いて荷台に入るなり、「よし、分かったぞ」と言ったところ、彼女たちの質問が矢継ぎ早に聞こえてきた。

「北条はどこにいるのですか?」

「Mの行方は?」

「おいおい、まあそう焦るな」これには工藤も、一先ず彼女たちを制するしかなかった。その後、自分の気持ちも静めようと備え付けられた椅子にどっかりと座り込み、それから話し始めた。

「奴は、米軍基地跡だ。植松のヤロウ、北条の側近を買収してやがった。そのお陰で、俺たちも居場所が分かったがな」

「郊外の、あの米軍基地跡ですか?」

「そうだ。北条は防衛大臣の時のコネを使って借りてるらしい。たぶん皇虎も、そこだな。だから警察が捜しても見つからねえ訳だ。基地跡といっても米軍の領地だ。地位協定で捜査できねえ場所だからな」

「しかし、よくすんなりと聞き出せたものですね?」

「……いいや、苦労したさ。ある程度、あいつにも情報を握らせたって寸法だぁ」

「まさか、話したのですか?」

「しょうがねえだろう! そうするしかなかったんだから……」

「でも、工藤刑事。事件が発表されたら大変な騒ぎになって世間が大混乱しますよ。それにあなただって罪に問われます。いいんですか?」

 すると彼は、天井を見上げてポツリと言った。

「ああ、先刻承知だ。まあ、後のことはなるようにしかならねえだろうよ」

 確かに、そんな未来の難題は知る由もない。……が、現時点でこれだけははっきりしていた。レディが敵に捕まり命すら危険に晒されているという事実だ。それを先ず解決しなければならない、彼女の救出が急務なのだ! そのため、為すべき行動をとったまでと、彼は後悔などしていなかった。

「今は、Mを救い出すことだけに集中するさ」工藤は前を向き直り、力強く言い切った。

 これで漸く、彼らの向かう場所が決まったのだ。

 そこには、一気呵成にトラックを走らせる機捜隊UPの姿があった。


        2 前夜祭


『おねえたん。ぼくねえ、べつのおうちへいくんだって』

『えーっ、なんで! ふうちゃん、どうしてー?』

『えんちょうせんせいが、よかったねえってぇ』

『いやよ、ふうちゃん! いっちゃーいやよ』

『でもね、ぼく、やくそくしたの……。だから、おねえたん、またね。バイバイ。おねえたん』


「ねえさん!」

(…………むっ?)

「ねえさん、起きてくれ! ねえさん」

 立て続けに声が聞こえる。

 その声に漸く、「……ううっ!」レディが気がついた。どうやら夢の中で彷徨さまよっていたところを現実の世界へ引き戻されたみたいだ。

 彼女は、すぐさま自分に背負わされた苦境を把握しようとした。

 いったい今、どこにいるんだろうか? ぼんやりする中、ゆっくりと目を見開く。

 すると、頭はふらつき、体は鉛のように重く、かなりの虚脱感に襲われていた。……それも当たり前か、全身に爆風を浴びて強打撲を負ったのだから。とはいえ、一方ではあれほどの凄まじい爆撃を受けたにも拘らず、五体はほぼ無傷のまま、生きていられるのも不思議なぐらいだった。全く、幸運としか言いようがない。……否、本当はそうではないのかもしれない。あの危機を回避できたのは、ひとえに彼女の並外れた身体能力の為せる業ではなかったのか? つまりレディは、ロケットが着弾する一歩手前で、逃げ切れないと判断したため、自身の直撃だけは避けようとバイクから逸早く宙に飛び出していたのだ。言わばバイクを身代わりに撃破させることで――その時、既に彼女の方は爆心地より数メートル以上離れていた――上手く逃れられたという訳だ。

――(まさにMの称号を持つ者、そうそう容易にくたばりはしないのさっ!)

「ねえさん、大丈夫かい?」

 そして、さっきから聞こえている声の主は……康夫だ。彼は少し離れた所で、柱に縛られながらも懸命に話しかけていたようだ。

 ならば次に、レディは自分のいる場所も把握するため、辺りを見回してみた。彼女が寝かされていたのは、まるで廃墟の部屋、崩れたコンクリート壁さえ散見できる、狭い拘束所のような所だった。しかも彼女は、その部屋に設置された鉄格子の檻の中に入れられていた。さながらその扱いは、猛獣のごとく。

 続いてレディは、ゆっくりと立ち上がってみた。案の定、体が節々痛んだ。けれど、それを堪えて腹式呼吸をゆっくりと入念に行った。心身ともに最上級の渇を入れる呼吸法だ。そのお陰で、少しずつ彼女の目に生気が戻ってきた。

 それから、やっと康夫を目にして言葉を返した。

「ああ、大丈夫だ。お前はどうだ」と。

 そうすると、「心配ないよ。だけど、何でねえさんまで捕まったんだい? それに、ここはどこなんだ?」と康夫は言ったものの、不安そうな様子だ。

 レディは、彼を落ち着かせるためにも、己の素性を話しておくことにした。

「康夫、今まで言わなかったが……俺は、ある組織の一員だ。北条の悪事を暴くため、学園に潜入捜査していたんだ。漸く奴の動きも読めて、あと一歩で逮捕にこぎつける」と。

 ただし、その暴露はさらなる疑問に繋がったみたいだ。

「どうりで、何か違うと思ってましたよ。もしかして、雅を殺ったのも、北条の爺ですか?」と訊かれてしまった。

 彼女は、返答に迷った。康夫のことを考えて慎重に伝えなければならないと感じたからだ。そこで、

「いいか、よく聞いてくれ! お前はこの事件に関わらないほうがいい。だから、できるだけ何もするな。きっとその間に俺の仲間が助けに来るから、必ず来るから、それまで辛抱してくれ」と康夫に言い聞かせたのだった。

 とはいえ……彼女の真意が伝わったかどうかは定かでない。彼は、か細い声で「へえ……?」と返事するのみだった。

 そうするうちに、段々と空が白み始め、窓を通して淡い光が入ってきた。そろそろ夜が明けそうだ。ということは、まだ数時間は何も起こらないだろう。敵が動くまで、焦ることなく待つとしよう。

 レディは、少しでも体力の回復を願って、再び眠りにつくのであった。




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