第5話 まさかの爆撃ー4
2 突然の襲撃
レディは、いつものライダースーツ姿にフルフェイスヘルメットを被った戦闘態勢で逸早く大通りに出た。
そうすると、数十メートル先で、一人の男が出発しようとしている北条の車を遮り、叫んでいるのが見えた。
「理事長、あんた知ってんだろ。雅が誰に殺されたか? なあ! 違うのかい?」
その声は、やはり康夫だ! どうやら彼は、単独で北条を見つけ出し、話を聞こうと詰め寄っていたようだ。
とはいえ、この行為は……非常に憂慮される、無茶な振る舞いか? 何故なら北条にとって、往来で騒ぎを起こすということは一番都合が悪い事柄、康夫を排除せざるを得ないと判断しかねないからだ。しかも、既にその兆しも見えていた。奴の部下が、早々と車から降りようとしている。
これはいけない。このままでは康夫が危険だ!
レディは、猛然と車に向かって走った。工藤たちの到着さえ待つ余裕はないと結論付けて。
しかし、その甲斐もなく、奴らの暴挙を目の当たりにしてしまう! 康夫が抵抗する間もなく容易に首を殴られ、ぐったりと倒れたところを車の中へと押し込められたのだ。
仕舞った! こうなるとレディも、焦るばかりだ。
「待てー!」彼女は必死に叫んだ。……が、その声など届くはずもなく、車はあっという間に走り去っていった!
何てことだ! とうとう康夫が、連れ去られてしまったのだァー。この結末に、レディは呆然自失となって立ち尽くし、唯々遠ざかる車の影を瞳の中に映し出す。
されど、消沈している場合ではなかった。どうにかして、彼を助け出さなければならないのだから。彼女は、切羽詰まって考えた。
するとその時、後ろから一般人の乗る小型バイクが、タイミングよく近づいてきた。
――ならば、止む無し!――ただちに、彼女は腹をくくった。
勢い勇んで道の真ん中へ飛びだしたなら、両手を広げてバイクの行く手を遮ったのだ! 要は乗り物を得るため、まさに手段を選んでいる暇はないという思いが、彼女を突き動かしていた。
片やそうなると、ライダーの方は驚いたに相違ない。「あわわわーー!」と叫びつつレディを避けようと左にハンドルを切るも……駄目か? 勢い余って、金属の擦れる音も姦しく転倒してしまった!
「いててて」よって男はその場に倒れ込み、バイクは遥か前方へ横滑りしてから停止した。そしてそれを見定めたところで――「おい、何すんだ。俺のバイク!」と言う男の声を無視して――奪い取り、即座に乗り込んだ。
そうして後は、当然ながら、エンジン音も猛々しく吹かせ一気に走り出したのだ!
それから暫くしたところで……やっと工藤たちが姿を現す。されど、時既に遅し! 彼女の激走する後ろ姿だけが目視できた。
工藤は、思わず「あのバカ! ほんとに懲りないねえー」とレディを叱咤した。が、その後、慨嘆している暇などないとの思案から、「俺たちも追いかけるぞ。トラックに戻れ!」とすぐさまおクウたちに命じたのだった。
3 撃破
レディは一心に走る! 慣れない小型車の運転ではあったものの、曲がりなりにも操作していた。
奴らが、大路を避けて人通りの少ない裏道を走ろうとも、そのコースを見失うことなく、彼女も負けじと追いかけていたのだ。
そして、懸命の走りで、やっと目前に奴らの車を捉えたか?
となれば、もうすぐ射程圏内だ!
彼女は、シューターを強く握り締め、さらなる加速を得ようと、スロットル全開にしてエンジンを吹かせる。[ただしそれに伴って、甲高いビート音がけたたましく鳴り響くと同時に、小刻みに車体が震えるという、所謂小型車ならではの不安定な走行に陥った]それでも、必死の追撃で、何とか敵車の側面に並ぼうとしたなら、ちょうど運転席のドアに手が届きそうな距離まで最接近できたか?
――よし、今がチャンスだ!――
よって彼女は、ここぞとばかりに、運転手へ向かって円盤を投げようと……。「うむっ?」いいや、そう容易くはいかない? ここで邪魔が入った。前方から白煙を吐きながら何かが迫ってきたのだ!
そしてそれは、言うまでもなく……〝まさしく、砲弾!〟
龍子のバズーカ攻撃が待ち受けていたのだァー!
ところが、その直後……「うくっ?」弾は近々の地面に着弾して破裂した! レディの素早い反応が勝り、間一髪、ロケット弾を回避していたという訳だ。
「ふうぅー、危なかった」彼女は、溜息をつく。どうにか、この一発目は避けられたようだ、と。
とはいえ――おっと、まだ安心はできないぞ!――次なる弾が飛んできたッ?
これには、流石にレディも焦った。急いで、小型車を操作して逃れようとするも……「うむむっ!」今度は、駄目か? 上手くいかない。勝手違うバイクでは、俊敏に動けなかった!
と……次の瞬間!
(ま、まさかァ?――)
――凄まじい爆発音が轟いた!――
何と、とうとう諸に、直撃されたのだァー! [バイクが爆発炎上して黒煙と炎に包まれる。と同時に、彼女は無残にも爆風で噴き飛ばされ、何十メートルも宙を舞い道路に叩きつけられてしまう]
――まさに、急転直下! レディMが、完膚無きまでに撃破され、生死を彷徨う羽目になったではないかッ!――
《全く、何という悲惨な結末……。こうなることを、誰が想像し得たであろう》
そんな中、射撃手と思える足音が、徐々に近づいてきた。
バズーカを片手に歩み寄る、やはり龍子の姿がそこにあった。北条を護衛するため、別の車で待ち伏せしていたようだ。
そうして、倒れたレディの側まで来た途端、「どうだ、見たか! 殺ったぞ……。私が、Mを倒した! 倒したぞ! くわっ、かははは――」と興奮気味に喜び勇んでいたという。
確かに……そうかもしれない。大いに騒ぎ立てる奴とは対照的に、その足元ではボロ人形のごとく転がるレディの身体があったのだから。
するとそこに、北条の声が聞こえてきた。
「早く、こいつも車内に乗せろ。警察が来ると厄介だ」と慌てた様子で、サイドガラスを開けて叫んでいた。奴は戦いの最中、道の脇に車を止めて静観していたに違いない。
よって、すぐさま部下たちが動きだす。レディを運び入れ、二台は何事もなかったかのように走り去っていった。