第5話 まさかの爆撃ー2
それから数週間が過ぎた。
「しかし、厄介な者に目をつけられたな。噂通りの秘密警察、レディMかぁ……。あんな連中が、組織されていたとはな」
「はい。なかなか裏から力を加えても、及ばないみたいでして」と北条のぼやきを聞いた大門寺が、呼応するように答えていた。
ちょうど都内を走る車の中で、北条たちが話し合っていたのだ。
「それで皇虎の今後だが、この件がすみ次第、外国へ逃がす予定だ。いいかね?」
「申し訳ありません。先生にご迷惑おかけいたしまして」
「いいんだよ。当然のことだ。元来、彼女のような優秀な人間こそ、世間に必要とされねばならん人材だ。たかが最下級の下民を処分したぐらいで罪になるという、法律の方が間違っとる。社会の中で人は平等だと、戯けたことをぬかす者がいるが、わしに言わせたら愚の骨頂だ。人は生まれた時から、もう環境や待遇の差別を天から受けとるわ。そんな現実も理解せんで、馬鹿な理想主義者どもは言いたい放題喚き散らすだけ。全く、何の役にも立たんくせに……。ええっ、そうだろう? 苦労もせんで、わしらエリートに向かって批判さえしていればいいと思っているんだから。それに第一、あいつらがのうのうと生きていけるのも、わしらが心底働いてどうにかこの国を発展させてやったお陰じゃないか。その恩を忘れて旺盛に文句を言いやがる。この世から消えるべきは、先ずあいつらの方だ。無価値な奴がいなくなるだけで、世界の発展に繋がるぞ」と息巻く北条だった。
「先生の仰るとおりです」それに対して大門寺も、手放しで相槌を打つ。
そうするうちに、車の方は随分と走ったことで、漸く外の景色に空港が映り込んできたようだ。つまり、目的地は都心に近い某国際空港であったという訳だ。
そして、空港に到着したなら、車はそのまま専用ゲートに進入し滑走路の脇で停車した。後は、到着を待つばかりか?
すると、その数分後、遥か上空で爆音が轟き、一機の小型ジェット機が姿を見せた。それから徐々に降下を始めたかと思ったら、難なく着陸を完了し、ゆっくりと北条たちが乗る車の側まで機体を寄せてきた。そして最後に、機内のドアが開いたところで……中東のアラブ系らしき人物、髭を生やし、カフィーヤを頭にかぶっている、三人の男たちの登場となる。やっとお目当ての客との遭遇だ。
よって、北条靖忠と秘書の大門寺はアラブ人を出迎えた。彼らと親しげに握手をしてから全員高級車に乗り込んだなら、部下の車二台を引き連れて彼方へと走り去っていったのだった。
……と、ここまでのシーンを秘かに見つめる、怪しげな視線も存在していた! 滑走路沿いの道路からカメラの望遠レンズを使って、具に覗いている者がいたのだ。ただ、その姿は身軽な旅行者を装った、一般人らしいラフな格好だったが。
次いでその者も、北条たちの車を追いかけるように、同じく車で移動し始めた。
2 招かざる客
北条が目の前の客に向かって話しかけた。
「どうでした? 飛行機の旅は」
「エエ、カイテキデシタ」とその外人は片言で答えた。
前後を部下の車に護られて、走る車両の内部では、三人のアラブ人と北条たちが向かい合わせに座っていた。豪華なリムジン仕様だ。
次にアラブ人が、心配そうに訊いた。
「ソレデ、クスリハ、ダイジョウブデスカ?」と。
「オッケイ、準備はできています。明日、成果をお見せいたしますよ」大門寺がそう答える。
「これさえあれば、あなたの国の軍隊は最強になるますよ。敵国の排除なんかいとも簡単にできる。長年の戦争も勝利間違いなしだ」と北条もつけ加えた。
「ソレハ、ナイス。コチラモ五億ドル、ヨウイシテマス」
「ハハハ、ミスターアリーム。これで契約成立ということですな」
どうやら、邪魔立てする者も現れず、順調に取引が済んだようだ。
そして、そんな会話が済んだ後、外を覗けば、もう暗夜になっていた。既に時刻は六時を回っていたのだ。
車は都内にある高級ホテルの前に止まった。アラブ人の宿泊所に着いたということだ。
すぐに外国人たちは、車から降りてホテルに向かう。
同様に、北条たちも入口まで付き添い、彼らを見送っていた。