第4話 怒りの救出ー4
その場は、まさに戦場と化した。
そんな中、おクウたちを気遣いながらも、レディは後ろを顧みて様子を確認する。
そうすると、皇虎たちの慌てふためく姿は言うまでもなく、その背後に、爆発の物凄い威力ですっかり車両が消え去り、燃え盛る火の手だけが地面を覆っている爆破跡も見えた。何とか彼女の策略が成功したようだ。バイクの内部に仕込まれた爆薬、要は自爆装置を作動させたお陰で、奴らを混乱の真っ只中へと陥れることができた訳だ。
しかし、これだけでは状況が好転したとは言えない。彼女の真の目的が、別にあることは明々白々……。それ故、彼女はひたすら待つ!
すると、漸く高速で近づいてくるエンジン音を耳にしたか?
(やっと……来たようだ!)
そう、ここぞとばかりに燃え上がる炎を押し退け、爆発で出来た車列の隙間を走り抜ける――機捜隊UPのトラック!――これが彼女の狙いだった。要は、工藤の乗った大型車が、一直線にレディたちの元へ突進できるように策を講じていたという訳だ。
「M、受けとれ!」さらに工藤の、叫び声と同時に荷台の後部ドアから身を乗り出してホルダーベルトを高々と投げる動作も見えた。
よって、阿吽の呼吸だ。彼女の方もそれを受け取るために空高くジャンプする。
ところが次の寸刻、銃声が鳴り響いた! トラックの出現に気づいた男たちが、焦る素振りを見せつつも発砲し始めたからだ。[銃弾の雨がトラックを襲う]
……とはいえ、レディの方も、それを黙って見過ごす訳がなく、すぐさま反撃に転じた。宙でベルトを掴んだなら、電光石火の早業だ、腰に巻いた途端――唸るシューター!――敵に向かって投げつけていた。男たちの非道な銃撃など許さんとの気概で、飛び来る弾丸をも弾き飛ばし、「ぎゃー!」一人二人と連続投擲で腕の骨を叩き折った。
そして、次なるは皇虎への攻撃だ。体を独楽のように回転させて……投げた! 二機のシューターが空を駆ける。
が……駄目だ! 一機は捕捉され、奴の振り下ろした腕で無念にも叩き落された。
それでも、もう一機は捉えられない? 「うぐぅ!」皇虎の腹へ直撃を食らわせたぞ! これには、多少のダメージを与えられたに違いない。
なおもレディの攻めが続く。その間に映る、お空と雅を急いでトラックに乗せようとする工藤たちの救出劇。それを垣間見ながら、
「てやーぁー!」彼女の後ろ蹴りが、皇虎の喉を捉えた。次いでバク宙して、奴の脳天に蹴りを見舞った。レディの鮮やかな攻撃だ。それを受けては、皇虎も為す術ないか?……。されど、奴の目は獲物を狙うような危険な目をしていた。
と、その時、右フックが音を立ててレディの顔面に飛んできた!
強打した……のか? いいや、掠っていた! 咄嗟の反射神経で彼女は顔を退くも、被っているフルフェイスヘルメットのシールドを擦る。
忽ちシールド部が、木っ端微塵に破裂した! そのせいで彼女の目元が露わになってしまったという。
何と凄まじい破壊力なんだ! 掠っただけなのに……。しかもその時、皇虎と目が合った。顔を見られたか?
「M、戻れ!」そこに突如、工藤の撤退を指示する声が聞こえてきた。
どうやら、救出は済んだみたいだ。
――ならば、もうここには用はない。今回は仲間の救護が最優先なのだから――そこで彼女は、工藤の指示に従い、すかさずトラックの後部ドアへ向かって走った。
だが、言うまでもなく、その逃亡に皇虎が黙っているはずもなかった。「このやろう! 逃がすものか」と言うが早いか、追いかけてきた。
やはり、すんなりとは帰してくれなさそうだ。結局のところ、最後は逃走劇に発展したのだった。
レディは懸命に走る。もう既に、セブンたちを乗せたトラックは動き出していた。
一方、皇虎も、後方から一心不乱に迫ってきていた。しかも、その走りは一級品だ。レディが必死に走れど、奴は超人的な速さで見る見る差を縮めていった。
となると……逃げきれない?
――駄目だ! このままでは、捕えられてしまうぞ――然しものレディも、この時だけは観念した。
そして、そう危惧した数秒後、とうとう奴の手が、レディの首元を掴んだかッ?
……と思ったが、次の瞬間。
――鋭い、空気を切り裂く音が鳴った!――皇虎に向かって、何かが放たれたよう。その追尾を阻止するために、鋭利な物が勢いよく飛びだしたに違いない。
よって、ただちに皇虎は進行を止めた。奴はレディをだ捕するどころか、その場で身を伏せ飛翔体をかわすしかなかったようだ。
そう、つまり敵を跪かせたのは……言わずと知れたボウガン! トラックの荷台に立つセブンの姿が見えた。彼女が、車内に搭載されている予備の矢で敵を蹴散らしたという訳だ。そしてその隙に、レディの方は車の中へ退避するという絶妙なチームワークも展開されていた。
これで漸く、全員の救出に成功したのだ!
後は一先ず退散あるのみ。トラックは一気に走り抜けていった――
「ク、クソッ! 追え、追うんだ」片やその結末を前に、皇虎の方は怒声を発していた。去り行く車体を目にしながら、その顔には無念の色を浮かべて。
それでも、諦めはしなかった。ただちに手下の車に乗り込み、タイヤが擦れる甲高い音を立てたなら、猛スピードで発進していた。
続いて残りの手下たちも、同様に車内へ戻り、次々と連ねて走りだした。
皇虎たちは、全力でトラックを追尾するのであった。




