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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
49/54

49.ボクの体

「ヴァニーユ!」


再び夢の中へと戻ったヴァニーユとイコに3人はホッとした表情を浮かべた。


「どうだった?」


「ヒルトから魔法銃を与えられたペールだった。リモーネとショコラが参戦してくれて、奴は悪夢に囚われている」


ペッシェからの問いにヴァニーユが短く答えると、その表情は驚きに変わった。


「あのショコラとリモーネが村に帰ってきたのか?」


「村では裏切り者の扱いなのに…」


ポワールも小さく呟く。


「なんにせよ、2人のお陰でペールを捕らえることができた。で、今の状況は?」


ヴァニーユは多くは語らず、3人を見回す。


「現状維持!にらみ合い〜」


フレーズは片手をあげてから発言する。


「ある一定の場所で奴らは立ち止まっている。何かの合図を待つ様に」


ポワールが遠くの兎頭と赤い鳥を見つめながら補足した。


「何かの合図…ヒルト?」


イコはヴァニーユの横顔を見つめた。


「だろうな。あいつはどこで何をやってるのか…ペールの事もお見通しなのか…」


ヴァニーユは自問自答のように言葉を絞り出す。


「あ!見て!」


突然フレーズが大きな声で叫んだ。


通常の赤い鳥より10倍くらい大きいものが、優雅に羽ばたきながら近づいてきた。


「…ヒルトだ」


禍々しい魔力にすぐ気づいた。

鳥の背にはヒルトの姿があった。


「…派手な登場で」


ペッシェがため息と共に吐き出す。


巨大な赤い鳥は大きく旋回すると、立ち止まっている兎頭の前にふわりと着地した。


ヒルトはその背からひらりと飛び降りると、芝居がかった仕草でお辞儀をした。


「どうも、皆さんこんにちは」


相変わらず口元は微笑んでいるが、瞳の奥は暗い色をしている。


「困っちゃったよ、ボクの工場が狂い始めてきて。相容れない幸せな夢とやらが侵入してきちゃったんだ。お陰で世界のバランスが歪んできてしまってる。夢の世界の固定が危ういんだ」


ほとんど息継ぎもしないまま、流れるように一気に喋る。


「危ういのはここも一緒だよ?ここも、悪夢と吉夢が混在している。ギリギリのバランスだ」


「そっちが引っ込んでくれたら、話は早いぞー」


なんの躊躇いもなくペッシェが声をかけた。


ポワールが苦々しい顏でそれを見やる。


「そっちが引っ込んでよ」


ヒルトがにっこりしながら続ける。


「幸せな夢なんか、居心地が悪いんだ。そんなのは嘘だらけだからね。悪夢と現実は同じものだ。だから、いいんだよ」


「なんなの…あいつ、気持ち悪い…」


フレーズが怯えながらつぶやく。


「感情のないアンドロイドってあんな感じなのね…」


「え?感情めちゃめちゃあるじゃん。主張強いし」


ポカンとしながらペッシェが言った。


「んもー、何見てるんですか。あれは本当にただの機械ですよ。人間ともゼムくんたちとも違う、ただの機械!」


「いてっ!」


フレーズの拳がペッシェの腕にあたり、彼は彼女から数歩距離を置いた。


「相棒のじーさんのことはいいのか?」


そして再びヒルトに呼びかける。


「どうやら現実世界で敗北したようだね。でもボクは始めから期待してた訳じゃない。所詮時間稼ぎだよ。そもそも、ペールの魔法が宿った体だけが欲しかったからね。後はおまけだったんだ。ペールの存在でさえも」


ペールの話が出ても、ヒルトには動揺は見えない。


「ただ、これは老体だから本当は若い魔法使いの体が欲しいんだ。君たちのうち…誰がボクの体になってくれるのかな?」


朗らかに微笑みながら、イコたちに視線を順番に送る。


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