46.青と黒
「よし…」
ポワールは小さな声でささやくと、自分の胸の前で両手を合わせた。
そして、ゆっくり手を離すと、尾の長い青い鳥が姿を現した。
晴天の空のような美しい青色の羽根。
「行け」
静かに命令を下すと、鳥はポワールの周りを一周する。
そして、ヴァニーユとフレーズが力を込めている柱の中へすっと消えていった。
次の瞬間、柱から大量の青い鳥が登場し、城の壁を突き抜け、遥か彼方へと飛んで行った。
「成功したか?」
ヴァニーユが鳥の行方を目の端でちらりと追った。
「多分」
ポワールは短く答えると、胡座をかいているペッシェを見下ろした。
「ペッシェさん、まだですか」
「うーん、なんかインスピレーションが湧いてこなくて」
「そんな事言ってる場合ですか」
腕組みをして首をかしげるペッシェに、ポワールの語気も強くなる。
「ちょっとぉ、大丈夫なんですかぁ」
フレーズも柱の陰から声を上げる。
「まあまあ。ペッシェさんはポワール同様、魔法生物に強いから。俺より上手いと思うよ」
ヴァニーユがフォローすると、ペッシェの顔に笑顔が広がり、ポワールはますます苦々しい表情になる。
「あのさぁ、イコちゃんはどう思う?」
「えっ?」
突然話しかけられ、イコはあわてて反応した。
「兎頭と対峙する者…狼とか熊とか…なんかありきたりかなぁ」
「そうですね…」
イコもいろんな動物を思い浮かべてみる。
「じゃあ…黒い兎頭なんてどうですかね。向こうは全部白い兎ですし」
「なぁるほど!」
ペッシェはその提案が気に入ったようだ。
すぐさま立ち上がると、胸の前で手のひらを合わせて、一瞬で開いた。
すると、そこにはタキシードを身にまとった黒い兎頭の姿かあった。
じっくりと集中して、ゆっくりと手を離したポワールと違って、圧倒的なスピード。
「な?」
驚きを隠せないポワールとフレーズにヴァニーユは微笑む。
「行っといで〜」
ペッシェが手をひらひらさせると、兎頭はスタスタと柱の中へ消えていった。
そして、何十という数で出てくると、そのまま城から出て行った。
「さて。フレーズ、もういいよ」
それを見届けてから、ヴァニーユはフレーズに指示を出し柱から離れた。
「これできっと、向こう側から何かリアクションがあると思う。あっちの悪夢の中に青い鳥と黒い兎頭が現れて、良い夢を感染しようとするんだからな」
「つまり、リアクションがあった方が良いってことか。向こうで叩き潰されたり、無視されたら終わり…」
ヴァニーユの言葉にポワールは遠くを見る目つきになった。
床に腰を下ろしていたイコは、小さな振動を感じた。
揺れてる…?
キョロキョロする彼女にヴァニーユはすぐさま気づいた。
「どうした?」
「なんか…揺れてる気がして…」
イコは立ち上がると外を見た。
「あっ!!」
先に大きな声を上げたのは、フレーズだった。
「何、あれ!?」
空には真っ赤な鳥の大群。
陸には白い耳で埋め尽くされた兎頭の群れ。
彼らはこっちを目指して真っ直ぐ向かってきている。
「早いリアクションだなぁ。成功した、と考えていいのかな?」
ペッシェは腕まくりをし、唇をペロリと舐めた。
「うちの〈工場〉を潰すつもりか」
「〈城〉!」
ポワールの言葉にフレーズが抗議するが、華麗にスルーされた。
「ヒルトたちの姿はないね…」
イコは群れに目をやる。
彼らの禍々しい魔力も感じない。
〈ヴァニーユ!大変だ!〉
突然、城の中に男性の声が響いた。
〈村が襲撃されている!強力な魔法銃を持った男だ!結界を破ろうとしている!〉




