表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
44/54

44.またすぐに会える

「これは…桜?」


夢の中の世界は満開の桜が空を覆っていた。


青空に薄いピンクの花弁。


あまりにも綺麗な光景にイコはそれを見上げたまま、口をぽかんと開けてしまっている。


「そう。ここは満開の桜並木の夢だ」


ヴァニーユが幹に触れながら、答えた。


「とりあえず、悪夢を防ぐ結界を張りましょう。そして、ゼムさんを探す」


ポワールが空に向かって、手を伸ばした。


「あんまり仕切らないでくれる?」


フレーズも手を伸ばしながら毒づくが、彼は全く相手にしない。


「それにしても…ヴァニは聖服が似合うから良かったよなぁ」


ペッシェはワンピース姿に変わっているヴァニーユを見て、しみじみと言った。


ポワールは顔をしかめ、


「ペッシェさん。失礼ですよ」


「いや、マジでさ。俺がもし第1能力者だったら、俺がワンピース姿を引き継ぐんだろ。ないわぁ。あ、ポワールだったら似合いそうだな」


ペッシェは屈託無く言って、笑った。

中性的な容姿で、美青年とも言って良いポワールとヴァニーユと違って、ペッシェは筋肉質な体つきで、愛嬌のある笑顔を持っている。


大型犬や熊のぬいぐるみ、そんな雰囲気だ。

とてもワンピースが似合いそうにもない。


「ペッシェさんが第1能力者になれるわけないじゃないの」


「フレーズ、お前ほんっとに生意気だな!」


「ペッシェさん、子供相手にムキにならないで下さい」


「子供じゃないし!何よ、ポワールなんていつもスカしててさ!」


「はぁ?」


ヴァニーユは深くため息をつきながら、空に手をかざした。


フレーズとポワールも一時休戦して、集中する。

最後にいたずら小僧のような表情をみせてから、ペッシェも両手を空に向けた。


瞬間、4人の手の平から淡い光が放たれて、空全体を覆っていった。


眩しい太陽を遮るレースのカーテンのように、世界を優しく包んでいく。


「凄い…綺麗…」


光の粒はきらきらと輝き、イコは小さな感嘆の声を上げた。


「これで良し。次はゼムを確保して、あいつをアンテナとして、『良い夢の工場』を作る」


ヴァニーユはそう宣言して、


「で、あいつは今どこにいるかな。イコ、探索できるか?」


と振り向いた。


フレーズが「そんなことできるのかしら?」と瞳だけで雄弁に語ってくる。


「やってみる」


イコはそんな彼女を見ないようにして、しゃがみこむと地面に両手をつけた。


夢の中の祖父の魔力を味方につけ、ゼムの存在を感じてみる。

すると、頭の中にクリアな映像が浮かんできた。


イコは立ち上がり、走り出す。


「おい、イコ!」


この先の土手に小さな小川が流れている。


そのすぐ横の花弁の絨毯の上にゼムが横たわり、目を閉じている。


その映像に突き動かされ、イコは足を前に進める。


「いた…!」


転がるように土手を降り、横たわってるゼムに駆け寄る。


「ゼム、大丈夫?」


「…大丈夫だよ」


鼻の上に舞い降りた花弁を邪魔くさそうに払って、ゼムは微笑む。


「ここ、綺麗なところだねぇ。川のせせらぎが聞こえて、ふかふかのベッドで。空は青くて、ピンクの花は綺麗で。ここがいいなぁ」


ゆったりとした口調で続ける。


「ここがいいと思うんだ。ね、ヴァニーユ」


イコが振り向くと追いついたヴァニーユが白い顔で立っていた。


「この場所を工場にして」


ヴァニーユは立ち尽くしたまま、動かない。


「なんて顔してるんだよ」


ゼムはぷっと吹き出し、それから目を閉じた。


「早くしてよ」


両手を組んで、お腹の上に乗せる。


「またすぐに会えるよ」


早口でそう言った。


仕方ないけど…これしか今は方法が浮かばないけど…本当はこんなこと、したくない。


そんなヴァニーユの気持ちがイコには痛いほど伝わった。


その時、ペッシェの厚い手の平がヴァニーユの背中を打った。


「痛っ!」


「自信がないのか?お前」


ヴァニーユはペッシェを見つめ返した。


「お前がゼムを助けて、世界を救うんだ。その為に俺たちもいる。迷うな。最善を尽くしてこうぜ」


ペッシェの真っ直ぐな瞳にヴァニーユも頷いた。


「あの人のああいう所…素直にすごいと思いますよ」


「ねー」


ポワールとフレーズもささやきあった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ