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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
42/54

42.状況

そして、それだけ言うと彼女は顔を引っ込めてしまった。


「フレーズ?おーい」


ヴァニーユは改めて大きな声を出す。


「彼女はあの大賢者の孫娘だよ。知ってるだろ?うちの村にもかかわりがある…」


そこまで言った時、壁の一部が長方形に光った。

それは扉となり、小さくこちら側に開いた。


その隙間からフレーズは顔を覗かせ、じとーっとした重たい視線をイコに向ける。


「ふぅん…大賢者の孫」


「フレーズが心配する関係じゃないよ。…今のところは、だけど」


ゼムが楽しげに言うと、彼女は勢いよく飛び出してきて、イコの前に仁王立ちになった。


イコは圧倒されて見つめ返すことしか出来ない。


次に彼女はヴァニーユの腕に自分の腕を絡めて、グイと引き寄せた。


「私はフレーズ。ヴァニ様の婚約者です!」


「えぇっ!?」


驚きの声を上げたのは、イコではなくヴァニーユ本人だった。


「いつからそんな事に?」


「いつからって…」


目を見開くヴァニーユにフレーズは呆れた声を出す。


「どう考えても、そうに決まってるじゃないですか。村ではヴァニ様に次ぐ実力があって、歳の頃もちょうど良いのは私だけ。私は信じて疑っていません!」


「えぇ…」


「ヴァニ様、久しぶりに会えて嬉しい…」


困惑する彼の肩に体を預け、フレーズの甘えた声を聞いてると、イコは頭と心が冷えてきた。


「ヴァニーユ、そんな事より早く。時間がなくなってしまう」


「ああ、そうだな。村に入っていいよな、フレーズ」


ヴァニーユはフレーズを引き剥がそうとしながら、扉へと向かう。

フレーズはうっとりとした表情を浮かべながら、特に反対はしない。


その後を強張った顔のイコと、口笛を吹くゼムが後に続く。


「イコ、イコ」


口笛をやめたゼムが急に囁く。


「なに?」


「今のところは、って思ってるんだよね、本当に」


「なんの話?」


「うわー、久しぶりだなぁ!」


ゼムは話を終わらせ、無邪気に村を見回した。


イコは口を尖らせながらも、村の様子に目を奪われた。

白い細かな砂が引き詰められている地面に、石造りの家々。

それらを彩る色とりどりの花たち。


ゆっくりと時間も流れているような、長閑な村だった。


「ヴァニーユ!戻ってきたのかい!」


庭先にいた高齢の女性が近寄ってきた。


「外の世界は大騒ぎなんだって?」


「そうなんだ。俺はそれを解決したくて…」


「放っておけ。必要ない!」


鋭い声がヴァニーユの言葉を遮った。


「オヤジ」


息子の帰還を感じ取ったのか、いつのまにか背後に1人の男性が立っていた。


ほっそりとしたヴァニーユの輪郭とは違い、四角い顔をしたがっしりとした体型。


ヴァニーユは母親似らしい。


「アンドロイドたちがこれで共倒れになっても、俺たちには関係ない。全てが終わるまで、ここに留まれば良い」


「奴らはアンドロイドを征服して、その頂点に立ったら次は俺たち魔法使いを征服するだろう。この世界で今起きてることなんだ。関係ないことないだろう!」


父親は黙って息子の言葉を受け止めている。


「それにゼムだって…俺の友達だってアンドロイドなんだぞ!関係ない訳ねぇじゃん」


太い眉毛の奥で、父親の瞳が少し揺れた。


「あ、あの…初めまして」


イコは前へ進みでて、勇気を振り絞った。


「イコ・ガーランドといいます。祖父がこの村で学んだ魔法が…今のこんな形で悪用されてしまって…私もなんとかしたいと思っています。彼らはアンドロイドの頭に魔法使いの体を持った者と、魔法使いの頭に機械の体を持った者です。一筋縄ではいきません。どうか、お力と知恵を貸していただけませんでしようか?」



父親はじっとイコの目を見つめた。

瞳の奥の奥を探るように。


そして、口を開いた。


「ヴァニーユ、状況を詳しく話せ」





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