表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
40/54

40.情熱とさよなら

「そうと決まれば…ゼム!一回ここから離脱できそうか?」


ヴァニーユは天を仰いで声をかける。


〈できるよ。こっちではまた、アンドロイドが3体倒れたっていう臨時ニュースをやってる。奴らはヴァニたちへの鬼ごっこを一旦やめて、計画の遂行をしてるらしい〉


すぐにゼムから返答があった。


「追ってこない…?どうして」


「アタシたちを舐めてんのよ!放って置いても何もできないからってこと」


イコの呟きにはショコラが忌々しげに即答する。


「じゃあ、チャンスだな。夢の輪郭が薄いところまで誘導してくれ」


〈了解。そのまま真っ直ぐ進んで〉


ゼムの声に導かれ、夢を駆け、そして一行は光に包まれながら、現実の世界へと戻ってきた。


「…」


体も心も疲れて、イコは声も出せずに床にうずくまった。

疲労感がずっしりと重くのしかかってくる。


ぐったりとしてるのはショコラもリモーネも同じだった。


「お帰り」


ゼムは少しだけ微笑んでみせ、そんな一行を見回す。


「で?ヴァニーユ、何を思いついたの?」


「俺はずっと、兎頭や赤い鳥を倒して、悪夢から救おうと思ってた」


ヴァニーユは勢いよく立ち上がると、張りのある声で言った。

そこに疲れの色はない。


「でもそうじゃなくて…俺は良い夢、幸せな夢で悪夢を書き換えたいんだ!」


「悪夢を書き換える…?」


イコは重たい唇をなんとか動かす。


「そうだ。恐怖が伝染するのように、幸せな気持ちだって伝わっていくんだ。悪夢に侵されたアンドロイドたちに幸せな夢を上書きする。そして目覚めさせていく。…ヒルトだって、頭部はアンドロイドだ。最終的に奴にも夢を見せる」


「そうは言っても…俺たちは人間専門の夢の魔法使いだ。アンドロイドに夢を見せることは可能か…?大賢者が残した夢の木もない。解析するには時間がかかりすぎる」


強い眼差しで訴えるヴァニーユに、リモーネは小さく首を振った。


夢の木も商品も全部燃えてなくなってしまった…。


「それは…とりあえず一度、村に帰ってみようと思う。一族皆んなで相談して、力を合わせれば…」


「こんなモノ、あるよ」


苦しげに言葉を繋ぐヴァニーユに、ゼムはポケットの中から取り出した物を見せた。


それは1枚のカードだった。


「うちの夢!?」


思わずイコが大きな声を上げた。


「そう、念のために1つ拝借してたんだよねぇ。これを使って解析したら?何にもないより、きっと役にたつよ」


「ゼム!!」


ヴァニーユはゼムに飛びつき、きつく抱きしめた。


「げぇ…苦しいよ、なんなの…」


「助かったよ!よし、それを持って、村に戻る。イコも行くだろ?」


「う、うん」


「僕もいくよ。アンドロイドに夢を見せるなら、僕の身体で実験するのがいいでしょ」


ゼムはさらりと言った。


「お前…いいのかよ?この研究所は?」


「ここにいるよりヴァニを手伝った方が、奴らを食い止められるだろ」


「そっか、それじゃあ…」


「アタシたちはさよならよ」


ショコラが棘のある甘い声を響かせた。


「アタシたちは悪夢専門家。村から出た身。良い夢を見せる作戦には向かないわ」


「ショコラ…」


「よいしょっ、と」


ショコラはリモーネの手を借りて立ち上がる。


「行くわよ、リモーネ」


「ショコラさん」


リモーネはほんの数秒、彼女を見つめるとヴァニーユに視線を送った。


「俺たちはお前たちとは違う。俺たちの成すべきことをするだけだ」


「リモーネ…」


そして2人は部屋をするりと出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ