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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
39/54

39.次はあの身体

ヒルトはぷっ、と吹き出し、面白くてたまらないというように笑い出した。


「面白いね!凄く良い」


笑いが止まらない彼をペールは嫌なものを見るような目で眺めた。


「それで…我々はお前の店の商品である夢も解析した。エイトといったか?あのお喋りな常連に近づき、夢を奴から借りたんだ」


変わってペールが説明を続ける。


「そして我々は新しい『夢』を作った。実験体として、店から出たリーグの夢とすり替え、抜けられない悪夢に固定した。夢には動き回れる兎頭と感染を仕事とする赤い鳥を配置した。これは第1段階。第2段階では赤い鳥は悪夢を抱え、店の中にある夢の兄弟たちへと遊びに行けるようになった。第3段階ではアンドロイドの頭へ直接飛んでいく。今はまだ安定してないが、恐怖と不安が広まれば、簡単に感染するようになるだろう。我々は何も手を下さなくても、アンドロイドたちは勝手に自滅する…って、いつまで笑ってるんだ、お前は」


お腹を抱え、苦しそうになっているヒルトに、ペールは呆れながら突っ込む。


「だってさぁ…凄く…良いと思ったんだ…」


ヒルトは苦しげに息をつきながら、震える人差し指で、イコを指した。


「あの小さな体にはまだ膨大な魔力が眠ってる…。次はあの身体が欲しいなぁ…って思って」


その目はもう笑っていなかった。

冷たい輝きだけがある。


「自分の首から下が女の体ってのも…変な感じはするけどね」


呼吸ももう整っている。


「リモーネ!」


ショコラが叫んだ瞬間、目の前が深い霧に覆われる。

そして次には体が凄い力で後ろに引っ張られた。

反動でゴム毬のように地面に転がる。


「やるじゃない…狙いがわかった?」


目を開けると、うつ伏せになったショコラが荒い息を吐きながらリモーネを見上げていた。


「勿論です。だけど…良くそんな力が残ってましたね?」


「悪意よ…あいつらの悪意を魔力に変換してみたの」


「さすが悪夢専門家」


茶化したヴァニーユの声にも安堵の色がにじむ。


ヒルトもペールもいなく、さっきいた場所とは景色が全然違う。


ショコラの魔法で視界を塞ぎ、リモーネの魔法で一瞬にして距離をとったのだろう。


イコはそれを理解した。


「で、これからどうする?早いところ、母体であるこの体をどうにかしなくてはならない」


リモーネは皆の顔を見回した。


「そうだけど…こっちはアウェーで招かれざる客…厳しいわねぇ」


ショコラは悔しそうに唇を噛む。


「おじいちゃんは…アンドロイドたちに悪夢を見せたいんじゃない…。日々の楽しさや幸せや…そんな夢を見せたかったのに…」


イコは誰に、というわけでもなく、ポツリと呟いた。


「…それだ」


ヴァニーユが真っ先に反応した。


「え?」


「それだよ!」


イコの両肩をぎゅっとつかむ。


「向こうが赤い鳥なら、こっちは青い鳥作戦だ。向こうが兎頭なら、こっちはなんだろ、狼頭か?うん、そうだな」


「ヴァニ?」


「悪夢に引っ張られ、悪夢の土俵で戦う義理はないんだ」


ヴァニーユの目は希望で輝いてた。


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