38.せっかち
ヒルトは楽しそうに思い出を振り返る。
「ペールの頭部は特殊な液体で満たされた、カプセルのようなものに移された。ゆっくり解凍するイメージだ。そして、会話ができるようになったんだけど…最初は罵詈雑言だらけだった」
「当たり前だろ」
「お前たちアンドロイドを許さない、殺してやる!って凄い剣幕だった。それで僕は言ったよ。そうこなくちゃ。そうしよう、2人でアンドロイドを滅ぼそう。って」
「…こいつはいかれてるって思った。今もだがな」
「僕もこの下らない世界を滅ぼして、一からやり直したいんだって訴えたよ。君の体も作ってあげる、僕なら成功できるって。そしてアンドロイドの体と融合されることに成功した。凄いでしょう」
「ちょっと待て。2人の出会いを助けた助手はどうした?」
鋭い声でヴァニーユが口を挟んだ。
「…順番に話すよ。せっかちだな」
ヒルトは不機嫌そうに顔をゆがめた。
「そして今度は僕の体のパーツをペールのパーツと順に交換していった。まず片腕、そして足、というように…」
彼は簡単に言うが、その異様な言葉にイコはゾッとした。
「助手にも手伝ってもらったが、殆ど僕は一人で行った。そして、ペールと二人、魔法を使えるのはどちらか試してみることにした。使えるのは僕だった。どうやら魔法は脳ではなく、体…皮膚、細胞、そういうものに宿ってるようだった。実験体として、助手はバラバラになりました。おしまい」
明るく無邪気にヒルトは言った。
「お前…」
「助手はどうしたか聞きたかったのでしょう?なぜ睨まれなければならない?」
今にも飛びかかりそうなヴァニーユの腕をつかみ、イコは一歩前に進み出た。
「この世界を破滅させる為にうちの夢を…おじいちゃんの夢を利用したの!?」
「君のおじいちゃんのせいで、沢山の可哀想な実験があったって、さっき言ったよね。君、脳みそ入ってる?」
イコが唇をぎゅっと噛み、溢れてくる感情に耐えていると、ヒルトはふっと小さく笑った。
「そうだよ。大賢者について調べていたら、アンドロイドに夢を見せるなんて面白そうな魔法を生み出していた事がわかったからね。何か利用できないかと思った。そして、そのルーツでもある夢の魔法使いたちについても調べ…可愛がっているスィートピーを拝借して、夢や悪夢についての魔法を解析した」
「よくも…」
スィートピーの名前に反応し、ショコラが小さな声を上げた。
「え?大丈夫?」
ヒルトがわざとらしく耳に手をあてる。
「この魔法を解け!」
リモーネが珍しく大きな声で怒鳴った。
「そういう態度で解く訳ないでしょう?」
イコはショコラを包む網に両手を絡めた。
見た感じ、ヒルトの魔法は完璧に使いこなせていない。力にムラがある気がする。
「…何してんの。魔力を吸いとられるだけだよ」
吸い取れる魔力の量は決まっているだろうか?
私の中の魔力よ、力を貸して!
強く念じた瞬間、両手の平が熱くなった。
そして…網はプツリと切れた。
「はぁ…はぁ…」
まるで全力疾走した後のように心臓は早鐘のようになり、呼吸が乱れる。
それでも、ヒルトへ向き直り、強い眼差しで見つめ返す。
「それで?話の続きをきかせて」




