37.知恵をくれる頭部
「とりあえず….ゼムの坊や、君は僕に感謝するべきだ。僕がいたから、君が生まれた」
ヒルトは芝居を演じるかのように両手を広げ、天を仰いだ。
〈君が失敗作だったから、だろ?〉
ゼムが明るい声で鋭い一撃を放つと、ヒルトの薄いえみは消えた。
「…両方とも失敗作だ、結局。そうだろう?」
〈それもそうだね〉
冷たい彼の声にゼムも即座に同意する。
「僕は天才的な頭脳を持つ、スーパーアンドロイドを作るという計画で誕生した。そして、アンドロイドや建物を作る上でのアドバイザー的な仕事をしてた。でも…僕は危険思想の持ち主だってことになった」
不服そうにヒルトは呟く。
「そりゃそうだろ。合理的だからって、アンドロイドはいくらでも代わりは作れるんだから、だめだったら壊せ、はい、次、なんて。機械の体でも、人間と同じく感情をプログラミングされてるんだ。お前の周りで働いてたやつは恐怖だったろうよ」
ペールは呆れ顔で、自分の頬をぽりぽりとかく。
「そう、確かに。一緒の研究チームの奴らもバカばっかりに感じて。話が通じないと思ったら即座に破棄してやったりした。そうしたらある日、僕自身が拘束された。そして、頭部だけ残して破棄された。頭部は眠りについた」
黙りこくる周囲にヒルトは順番に視線を移す。
「その間にゼム坊やが作られた。危険思想を持たないように作られたから、人間に憧れる馬鹿に育って、親元から飛び出してしまったけれど」
〈そんなに褒められると照れるなぁ〉
ゼムの言葉にヒルトは反応しない。
「…それでどうなったの?」
イコは続きを促す。
「馬鹿というのはどこまで言っても馬鹿でね。天才坊やがいなくなった後、研究に行き詰まって困ってね。僕の封印を解いた奴がいた。といっても僕はただの頭部。彼に助言を与えたり、お喋りする力しかない」
ヒルトは楽しい思い出を語るように、頬を緩める。
「彼は感謝した。そして度々僕の元にやってきては、助言や知恵を求めた。彼は僕のいる部屋の管理者だったから、誰も不審に思わない。そして、僕は与えられる知識なら、なんだって与えた。…良い機会だったからね」
「洗脳、か」
リモーネがポツリと呟いた。
「洗脳、陶酔、崇拝。わからないけど、彼は僕の言うことならなんでも聞いた。最初は質問の際だけ、封印をとく形だったが、その後、常に封印はとかれた。退屈しのぎにPCを用意して、片腕を作ってくれと頼んだら、それも了承してくれた。僕はそれでオセロ計画の資料を読んだ。ゼム坊やがあのセキュリティを作ったんだろ?簡単に突破できたよ」
〈さすが先輩〉
「それで凄く、興味が湧いた。僕なら成功できるんじゃないかって。そして、データにあった、優秀な魔法使い、ペールに強く惹かれた。彼に機械の体を与え、僕が魔法使いの体を持ったらどうなるか?魔法を使えるのはどっちの体なんだ?科学者として、実験したくなったんだ」
ヒルトの口調に熱が帯びていく。
「そして、彼がやってきた時に協力を要請した。これは偉大な実験になる。君の名も歴史に残るってね。簡易的でもいいから、僕に体を作ってくれ。そして、助手をしてくれ。勿論、彼は即座に頷いた」
「ここから、感動の出会いの話だな」
と、つまらなさそうにペールが口を挟む。
「そう。急拵えの体と彼とで、ペールの体が保管されている部屋と急いだ」




