3.山積みのヒント
まだ小さい実は光を放っているだけだが、大きく育ってるものにはいろんな光景が映像となって浮かんでいる。
イコはそれを収穫し、ジャンルごとに店に並べているのだ。
彼女がしてる作業はそれだけで、この木がどんな魔法で成長してるのかわからないし、祖父が亡くなってからもなぜ魔法の力を失わないのか、わからない。
枝についている夢の実を一つずつ確認しても変わった様子はなく、悪夢の原因らしいものは見当たらない。
イコは落胆して階段を上がり、外へ出る。
ここは街はずれの、魔法使いたちが住む村だ。
今ではアンドロイドたちと一緒に都市の中心部で暮らす者もいるが、昔は差別や偏見があり、魔法使い同士で暮らすのが当たり前だった。
寿命がないアンドロイドたちとは違って、年々人数が減り、過疎化が進む村。
若い世代はイコも含め、ほとんど魔法を使えない者が多い。
機械化が進み、原始的な魔法は廃れていくのだろう、と祖父も口にしていた。
近い将来、世界はアンドロイドたちだけのものになる、とも。
「ヘイゾウさん!」
イコは近所の薬屋に飛び込み、カウンターで煙草を燻らせる老人に声をかけた。
目を閉じたまま、気持ち良さそうに煙を吐き出していた彼は片目だけを開ける。
「なんだ。珍しく大きな声を出して」
「…夢がなんか変なの。そんなはずないのに…悪夢になってるってクレームが2件あって」
ヘイゾウはこの村の長老で、魔法を使って良く効く薬を販売している。
これを求めて、遠くに住む魔法使いもやってくる程だ。
「木の様子は見たか?」
「見たよ。でも変わった様子はないの。木も、夢も、店も、いつもと同じ」
ヘイゾウは再び目を閉じる。
「…ボンちゃんは天才だった」
ボンは祖父の名だ。
「一定の期間がきたら、夢が全て悪夢に変わるよう、木に設定してたのかもな」
「なんのために?」
予想もしていなかった事にイコの言葉がうわずる。
「…アンドロイドたちへの逆襲」
誰もいない狭い店内に低い声が響く。
「冗談だ、そんな顔をするな」
目を開けたヘイゾウは唇を噛み締めてるイコを見て、慌てて微笑む。
「ボンちゃんはアンドロイドと魔法使いの架け橋になるよう、若い頃からずっと頑張ってきてんだ。そんなことはしたりしない」
「そうだよ…ね」
「そうだ。ただ、わしみたいな老いぼれでもこんな事が思いついたんだ。お上にこの話が広まれば、そんな難癖をつけてくる輩も出てくるかもしれん。そうしたら、お前の身が危険だ。気をつけろよ」
ヘイゾウは笑顔を引っ込めると、声を潜めて忠告した。
「うん。でもうちは有名な店でもないし、数少ないお客さんしかいないから、大丈夫だと思うけど…」
「とりあえず、しばらく店を閉めて、ボンちゃんが残した資料がないか探してみることだな」
「…そうだね、そうしてみる」
イコは家に戻ると、再び地下へと進んだ。
夢の木がある部屋の隅には書物が山積みになっていて、その他にも本が乱雑に入った箱が3〜4箱あった。
「うぇ…」
思わず声が漏れる。
この中に何かヒントがあるかも知れない…やるしかない。
イコは覚悟を決めて、埃っぽい床に胡座をかいて、手近な本に手を伸ばした。