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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
26/54

26.廃墟

「どれどれっと…」


ヴァニーユの沈黙をOKの合図ととったのか、ショコラも自分の手鏡を取り出し、少女にあてがった。


「不安定だけど…〈スィートピー〉に似た魔力を感じるなぁ」


「確かに。やはり〈スィートピー〉は攫われ、利用されてると考えた方がいいか」


リモーネも彼女の手鏡を覗き込み、自分の顎に手をやる。


「スィートピー?」


「盗まれた魔物の名前よ」


ゼムが聞き返すと、ショコラは大げさにため息をつく。


「もう絶滅寸前の悪夢を生み出せる魔物よ。交配の勉強もして、大事に育ててきたのに」


「スィートピーの力とおじいちゃんの夢を使って、悪夢を作成している…」


イコが呟くと、ショコラは頷く。


「そこのお兄さんの体を使って実験中ね」


ひらひらと指を動かし、リーグを指し示す。


そしてその指を次は手鏡へと向けた。


紫色の光が彼女の体を包み、指先から鏡へと流れ込んで行く。


それらはわずか一瞬の事で、すぐさま光は消え失せる。


「アンドロイドに悪夢を送るなんて初めてだけど…土台があればやれるものね。これ、なかなか良いビジネスかも」


「…ショコラ」


ヴァニーユは冷たい声と共に睨みつける。


「だってそうでしょ?人間はいなくなる。人間以外は夢を見ない。あたしたちの仕事や存在意義がなくなるじゃないの。アンドロイドが夢を見るようになったら、仕事が増えるし」


「いいんだよ、俺たちは滅びゆく種族だ。人間だろうが魔法使いだろうが、寿命は来る。アンドロイドとは違う」


挑戦的な言い方をするショコラにヴァニーユは静かに返した。


「…悟っちゃてつまんないガキ」


ショコラは吐き捨てると、手鏡で大きな円を描いた。


「行くわよ、リモーネ!」


「あぁ」


「俺たちも行くからな」


ヴァニーユはイコに視線を送り、イコも頷いた。


「どうせ、あたしたちだけじゃ信用できないんでしょ」


「まあな」


「あ、僕は残って様子を見てるよ」


ゼムが片手をあげる。


「あたしたちじゃなくて、あの坊やも怪しいところあると思うけど。さっきの博士の指摘も一理あるんじゃないかしらぁ?」


ヴァニーユが言い返す前に、ショコラとリモーネはひらりと夢へと侵入していった。


「いってらっしゃい〜」


ゼムはとくに気にする様子も見せずに、あげた手を振る。


「…行くぞ、イコ」


「行ってきます」


彼に挨拶をして、円で出来た空間に飛び込む。


光に包まれ、目を開けると…。


木造の建物の中だった。


床も壁も所々穴が空き、ボロボロと崩れている。

窓ガラスもヒビが入っていたり、粉々になっているものがある。


窓の外は真っ暗で何も見えない。


建物自体が死んでしまっている感じで、イコは不気味なものを感じた。


「良いでしょぉ、廃墟」


背後からショコラに話しかけられて、思わず飛び上がる。


「あたし、好きなのよ。こういうタイプの悪夢。迷路のような廃墟で、外に出られない。逃げても逃げても追ってくる何か。たまんないわよねぇ」


ショコラはうっとりとした表情で辺りを見回す。


「悪趣味」


「黙れ」


ヴァニーユがボソリと言うとすぐさま目を釣り上げた。


「とりあえず、マーガレットと赤い鳥と兎頭を確保したいところだな」


「何よ、マーガレットって」


「この夢を見てる少女アンドロイドの名だ。ベット脇に書いてあった」


リモーネはいつの間にかチェックしていたらしい。


「兎頭を見つけて尋問出来ないかしら」


「赤い鳥を八つ裂きにしたら敵の本体が出てくるかもな」


ショコラとリモーネの物騒な相談にヴァニーユとイコは微妙な表情をした。



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