24.無駄のない動き
「ゼムはアンドロイドの体や人工知能についての研究施設で働いてたんだ。人間で言うところの医療機関に近いかな」
イコの戸惑いを見てヴァニーユが説明する。
「もう僕はそこを飛び出した存在なんだし、急に困るよ」
『で、ですが、博士も興味が湧く内容かと思います!』
今にも電話を切りそうなゼムに、男性は早口で対抗する。
「興味?」
『はい、実は離れた場所にいたアンドロイドが同時刻に倒れました。〈出生地〉も違いますし、共通点はありません』
「で?」
『その二体のアンドロイドはただ単に停止してる状態です。故障の原因もわかりません。一番近いのは…眠ってる状態、夢を見ている状態です』
イコたち3人は目線を合わせた。
『アンドロイドが突然夢を見るなんてありえない。私たちはそう思いましたが…博士は夢の魔法使いと行動を共にしてますよね?是非、協力をお願いしたいんです!』
ゼムはヴァニーユが頷くのを確認すると、
「わかった。その代わり、こっちもお願いするよ」
『出来ることがあれば何なりと』
「研究室を1つ用意して、その倒れた二体を運んで。あと…」
そして、リーグのいるこの家の住所を言う。
「ここのリーグ氏も収容して。似たような症状があるから。奥さんがちょっとうるさいから上手く対応お願い」
『わかりました。速やかに行動致します。では後ほど』
電話は切れ、部屋に静寂が戻った。
「うちの商品を使わずに夢を…?」
真っ先に口を開いたのはイコだ。
「まだ実験の段階だろうけど…成功したようだな」
ヴァニーユがリーグに視線を送る。
「まぁ頭ん中を覗いてみて、原因と対策を練るしかないねぇ」
ゼムは相変わらずあっけらかんとしている。
「黒幕はアンドロイドか人間か、魔法使いか…。目的は何なのか」
ヴァニーユは誰にという訳でもなく、呟いた。
「…ちょっと…ちょっと、なんなのよ!」
そこへ意識を取り戻したユリアが鋭い声を上げた。
「うっ…頭痛い…」
次の瞬間、顔をしかめてこめかみを抑える。
「大きい声、出さない方がよろしいですよ」
すぐさまヴァニーユが余所行きの振る舞いになった。
「なんなのよ…一体…。主人はどうなったのよ?」
「政府関係の施設に移動し、そちらで処置をすることになります」
「政府関係…?」
頭痛のせいでユリアの美しい顔は歪んだままだ。
非難の混じった目をイコがゼムに向けると、
「…効果絶大だからその反動が出るの。しょうがないんだよ」
小声で言い訳してくる。
「安心してください、設備が整ったところですから」
「設備って…目を覚ますんでしょうね?」
「もちろん、その為の場所です」
2人がやりとりを続けてると、家の前に車が数台止まる音がした。
そしてなんの声もかけずに、黒いスーツにネクタイの男たちが部屋へと上がってきた。
「な、なに!?」
「奥様、どうぞこちらへ。お話がございます」
驚くユリアを1人が階下へと有無を言わさず連れて行った。
「こちらがリーグ氏ですね?」
「そう」
残った男たちがゼムに確認をし、無駄のない動きで担架に彼を乗せて行く。
「博士たちのお車も用意しています。すぐご移動を」
そのテキパキとした仕草に、3人もつられて足早に動く。
リビングには大量の札束を用意されて、固まったままのユリアがいた。
去って行く3人の姿を見る余裕もなさそうだった。




