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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
21/54

21.チューブ

「…塔に近づくぞ」


ヴァニーユがささやいた。

イコは上手く声が出せそうもないので、小さく2度ほど頷いた。

異様な雰囲気に飲まれそうになる。


2人は辺りを見回しつつ、足音を忍ばせて塔の下へと進む。


入り口らしいものは見当たらず、石がただ積み重なっているだけだ。


それらを注意深く観察していたヴァニーユは、やがてイコの肩を叩き、唇に人差し指を当てた。


そして、その指を足元の方へと向ける。


そこは石が一部崩れていて、隙間から光が漏れていた。


2人はゆっくりしゃがむと、隙間から内部を見ようと顔を近づけた。


塔の外側同様、塔内も規則的に光で照らされ、そしてまた消えて、を繰り返している。


明るくなる瞬間、中に数名の兎頭がいることがわかった。


じっと立っているもの、中を動き回っているもの…。


兎頭たちは何をしてるのだろうか…?


瞳をくるくる動かして、小さな隙間から塔内を見回すよう、努力する。


部屋の壁などから、沢山のチューブが伸びてるのがわかった。


それらは中央のカプセルにつながってるようだが、1人の兎頭がその前に立っているため、詳細がよく見えない。


しばらくすると兎頭はその場を離れ、壁の方に移動した。


瞬間、イコは息を飲んだ。


透明のカプセルに入ってるのは、目を閉じたリーグだった。


現実世界で横たわる本人同様、彼は目を閉じ、卵型のカプセルの中で立ち尽くしている。


それに繋がる、沢山のチューブ。


行き交う兎頭たち。


規則正しい光は、まるでリーグの鼓動のようだった…。


ヴァニーユはすくっと立ち上がると、イコの腕をつかみ、来た道を指差す。


今見たことのショックに、彼を見返すことしか出来ないイコの腕を引っ張り、森へと歩き出す。


「…ヴァニ」


「一旦、夢から離脱する」


ヴァニーユは早口でそう言って、足を早める。


「想像以上にやべぇ事になってるじゃねぇか」


そう吐き捨てるように言うと、空を見上げた。


「ゼム、ゼム、聞こえるか」


『…聞こえるよ。見てた』


すぐさま、返事が響いてきた。


「一度離脱して、少し考えたい」


『その方がいいかもね』


ゼムも、いつもの呑気で陽気な声ではなく、低いトーンだった。


「兎頭たちは…リーグさんに何をしてたの?」


イコは塔を振り返りながら言った。


「夢の中に閉じ込めてる。だから、ずっと目覚めることができかったんだ」


「じゃあ…じゃあ、戻って助けないと」


イコの気持ちとは裏腹に遠ざかっていく塔。


「沢山のチューブを見たろ?」


ヴァニーユは小さな子供に言い聞かせるように、穏やか口調になった。


「あれで奴らはアンドロイドの夢を解析してるんだろう。それで得た情報で、夢に悪夢を感染させてるのかもしれない」


「この夢を…リーグさんを母体にして…」


「そうだ。そこまで深く彼に繋がってるのなら、あのチューブが外れた瞬間、彼のデータが無くなってしまうかもしれない。アンドロイドにとっての死だ。迂闊に手を出せない」


イコは振り返るのをやめ、唇を強く噛み締めた。


「本来なら、夢を見ている本人を目覚めさせて離脱するんだけど…別パターンでやらないとな。ゼム、薄くなってるところ、あるか?」


『そっから100メートル位先かな』


「了解。夢が薄くなってるところへ移動する」


「薄くなる?そんなことがあるの?」


「夢にも輪郭があるからな」


当たり前のように言うヴァニーユ。

イコはそれ以上聞くのをやめ、あるがままを受け入れようと思った。


『あっ!何かが高速で近づいてきてる…あ…だ…』


雑音が入って、プツリとゼムの声が途切れた。


ヴァニーユは片手で剣を取り出し、片手をイコを庇うように広げる。


イコは周りを伺い、その時を待った。



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