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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
20/54

20.湿度

「ゼムはしばらく待機。場合によっては合流してもらうかもしれない」


「承知〜」


ゼムはバッグからいろんな道具を取り出しながら、返事をする。


「イコは一緒にきてもらう」


「は、はい」


仕事モードになったヴァニーユは凛とした眼差しになり、イコは思わず背筋を伸ばして返事をした。


そして彼はゼムの夢に入った時に使った手鏡を取り出し、リーグの頭に近づけた。


鏡が水面のように揺らめき、景色が映る。


「あれ…」


すぐさまイコは違和感に気づいた。


「リーグさんはいつも借りてる『世界の絶景』を見てるはずなのに…」


鏡に映る景色は、暗い鬱蒼とした森だった。


ヴァニーユは手鏡で宙に円を描く。

そこに広がる世界も陰鬱な森。


「行くぞ」


ヴァニーユは毅然とした態度で、そこへ飛び込んで行く。


「行ってらっしゃい〜」


ゼムの呑気な声で緊張が和らぎ、イコも慌てて飛び込むことが出来た。


大量の光に包まれ、足元にガサッとした感触が生まれる。


光が消えて、眩しさから解放されると、落ち葉を踏みしめてる音だったとわかった。


周りは木に囲まれて、見上げた鉛色の空も葉や枝に隠されよく見えない。


どんよりと暗い世界に不快な湿度が肌を包む。

『世界の絶景』とは程遠い。


「夢が書き換えられてる…?」


思わずイコはそう呟く。


ラベンダーのワンピース姿へと姿を変えたヴァニーユは、木の幹を叩きながら辺りを確認している。


「イコ、とりあえず進もう。この夢の中のどこかにリーグ氏がいるだろう」


「うん、そうだね」


この夢の世界でリーグさんは迷って彷徨い、助けを求めているかもしれない…


それは想像するだけで、ゾッとする程の孤独だ。


しばらく森の中を進むと、ヴァニーユは手頃な木を見つけて、器用に上り出した。


「ヴァニーユ、ちょっと!」


「上から地形を見る」


「スカートだから、裾を押さえないと!」


思わずイコがそう忠告すると、彼は「はぁ?」みたいな表情を浮かべただけで、そのままズンズンと上っていった。


見た目が美しい少女なだけに、なんか違和感…

イコは割り切れない気持ちになる。


「なんだ、あれ」


スカートの中を見ないように下を向いていたイコの頭上で、ヴァニーユの訝しげな声がする。


「イコ、木登りできるか?」


「田舎育ちだから、少しくらいは。ヴァニーユのところまでは行けないけど」


「じゃあ、出来るところまで来てくれ」


幸いにも枝は太くて、階段のようになっている。


パンツスタイルのこともあって、両手両足を使ってよじ登る。


「あの、右奥の方見えるか?光ってる」


森が続く中、ヴァニーユが言う方角の一部だけ、白い光が鼓動を打つように規則的に光っている。


「ほんとだ。もしかして、リーグさんはあそこにいるのかも知れない」


「行こう」


2人は木を降り、その方向に向かって歩き出した。時折木に登り、進んでる道を確認する。


光に近づくにつれ、森の中に塔が立っていて、それが発光してるのだとわかった。


「この夢はいつもリーグさんが借りてた。それなのに中の夢が書き換えられてる…どういうこと?」


ヴァニーユに、というより、自分自身に疑問を呟く。


「書き換えられたか、すり替えられたか、だな」


「すり替えられた…そっか、そういう可能性もあるのか…」


店内で、もしくは帰り道で、家で。


夢をすり替えるチャンスはいくつかある。


やがて、ようやく塔の付近へと到着した。


石造りの重厚な塔で、規則的に光っている。


2人は木々に隠れながら、様子を伺った。


「あっ」


イコから掠れた声が漏れた。


塔にある小さな窓から、数十羽の赤い鳥が飛び出して来たのだ。

鳥はどんどん上昇し、途中でフッと姿を消した。

今までの夢では一羽しか見かけなかったのに…


じっとりと汗をかいたのは湿度のせいだけではなさそうだ。





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