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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
12/54

12.ゼムの夢

「却下」


簡潔にヴァニーユに拒否され、イコは目を見開いた。


「でも、あの夢を売った自分にも責任があるし…どうにかしたいって思うし…」


「足手まといだ。それに何も魔法は使えないんだろ?」


「…」


それを言われると黙るしかない。


「いいんじゃないの〜」


空気を変えたのはゼムの朗らかな声。


「まずはお試しってことでさ。とりあえず僕、あの夢の実、試してみたいんだよね」


「えぇ…」


ヴァニーユはあからさまに嫌な顔をする。


「ヴァニだって、本当はもっと夢の実について調べたいと思ってるんでしょ。僕が使ってみて、イコと2人で夢に入ってきたらいい」


「…それには世界の固定が必要だ。お前できるのか?」


「夢を夢だって確信できるかって?できる、できる。僕、天才だもん」


ゼムは余裕たっぷりだ。


「…天才なのは本当なんだ。そういう風に作られたアンドロイドらしい。ただ天才すぎて、人間になりたいと思ってしまった馬鹿なアンドロイドなんだ」


ヴァニーユは諦めまじりの口調でイコに説明した。


「固定された世界で侵入者を倒すと、夢から覚めることができる。だけど、こないだはヴァニとイコを会話させるため、僕が外で夢を引き延ばしてたんだ」


「確かにそんな会話をしてたけど…夢を引き延ばすなんて、できるの?」


「僕は天才だからねぇ」


「…そうじゃなくて」


ヴァニーユは乱暴にゼムの頭に拳を置いた。


「魔法道具をゼムに貸し出しただけだ」


「それを使えるってことは、天才だから」


ゼムは拳を振り払って椅子から降りた。


そして、ポケットからカードを取り出す。


「『豪華ホテルで過ごす休日』の夢。どんなところかな、楽しみ〜」


「いつの間に…」


ヴァニーユとイコの声がハモった。


「じゃ、おやすみ。夢の中で会おう」


ゼムは手近にあったクッションの下にカードをいれ、床に大の字に横になった。


そのままピクリとも動かなくなり、スリープモードに入ったのがわかる。


2人はとりあえず、その様子をじっと見つめる。


「…さっき夢の木を見させてもらったが、とくにおかしなところはなかった」


「木が病気になったわけじゃないってこと?」


「そういうことじゃなさそうだな」


ヴァニーユは何もないところから、銀色の手鏡を取り出した。


そしてゼムの頭付近に近づける。


鏡は揺らめくと景色を映し出した。


大きなベッドが2つ並んでいる、広い部屋だ。

映像は淡い色調で時折、水面のように揺れる。


「これは今、ゼムが見てる夢?」


「そうだ。アンドロイドの場合は世界が固定されても、俺にはよくわからないから、これで様子を見る」


しばらく鏡を覗き込んでいると、ホテルの廊下を赤い鳥が横切った。


「この赤い鳥!」


思わずイコの声が大きくなる。


「この赤い鳥が現れたあと、兎頭が現れたの」


次の瞬間、鏡に映る映像がクリアで鮮明になった。


「固定されたな。行くぞ」


ハッとしたヴァニーユが手鏡で円を描く。


すると宙に夢の映像が大きく映し出された。


ヴァニーユは躊躇いもなくその中に飛び込み、イコも

置いてかれるまいと、勢いよく後に続いた。


一瞬、大量の光に飲み込まれ、その次には、足の裏に柔らかい感触があった。


小さな自宅から、赤い絨毯が伸びるホテルの廊下にいた。

クリーム色の上品な壁に触れると、硬さも手のひらに伝わってくる。


ここが…夢の世界。


「さっさとゼムと合流するぞ」


隣にいるヴァニーユはラベンダー色のワンピースという正装姿になっている。


「…仕方ないんだよ。この服には代々伝わる護符が組み込まれてたりして」


言い訳のように口ごもる彼に、


「大丈夫。似合ってるから」


イコはキッパリと言い切った。




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