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悪夢フラストレーション  作者: 源小ばと
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1.夢を売る少女

端末の表面を指で滑らせると、色とりどりの情報が飛び込んでくる。


今期流行のファッション。

新商品のコスメ。

美味しそうなスイーツ。


それらを笑みを浮かべながら眺めていると、自動ドアが開く。


少女はちらりと客人に目をやると、再び端末に目をやる。


「イコちゃん。せめて、いらっしゃいませくらいは言ってよ。客商売でしょ」


入店した男性はわざとらしく困った顔を作りながら、少女に抗議した。


「うちに来るのは常連さんばっかりじゃん。変わり者のいつものメンバー」


イコと呼ばれた少女はカウンターの奥に座った状態で、端末から目を離さず言い返す。


「そうだけどさぁ。つれないなぁ、イコちゃんは」


男性は甘えた声を出しながら、店の中に並んだ棚の列に消えていく。


しばらくすると、男性が戻ってきてカウンターに白いケースを置いた。

手のひらにすっぽり収まるような小さなものだ。


イコが端末をそれに翳すと、小さな電子音が鳴った。


「『絶景の世界』また買うの?好きだね」


「なんだかんだ、これが一番好きなんだ」


「おっ、リーグ。来てたんだ」


店の隅にあるピンク色の暖簾をくぐって出てきた男が、陽気に声をかける。


「エイト!そこから出てきたってことは…お前…まさか…」


「そう、桃色のやつを選んできた」


「信じられん、若い女の子がいるのに堂々と…」


「エイトさんはいつもえっちぃやつばかりだよ。リーグさんも気にせずどうぞ」


イコはあっさり言うと、エイトが持ってきたケースにも端末を当てる。


「イコちゃんお年頃なんだからさぁ、あのピンクのコーナーやめたら?」


「お前、余計なこと言うなよ」


エイトがリーグの腕を押す。


「でも、おじいちゃんが一番儲かるって」


「さすが、大賢者…」


男2人は唸る。


アンドロイドは眠る時、夢を見ない。

そもそも眠ると言うか、充電をしてる状態だからだ。

そして、ここはそんなアンドロイドに夢を売る店だった。


かつて、人間とアンドロイドの間で戦争が起こった。

生身の肉体を持つ人間が勝てる訳もなく、アンドロイドの勝利で終わった。


どちらの味方もしなかった、魔法使いの種族たちは世界の片隅で戦いが終わるのを待っていた。


イコの祖父は大賢者と呼ばれる程の魔法使いだった。


アンドロイド中心の世界になり、アンドロイドに役立つ魔法を編み出し社会に貢献していた祖父が、面白半分で作った店が、『夢を売る店』。


夢を見なくてもどうということもないが、彼らの中では面白がって買いに来るものもいた。


祖父も両親もいなくなったイコだが、祖父の莫大な財産がある。

この店を続けることは暇つぶしと、大好きだった祖父へのお礼みたいなものだった。


そして、常連たちは夢を買う以外にも、イコと会うことを楽しんでいた。


基本アンドロイドたちは男女ともに美しい容姿をしていた。

白いつるりとした肌に、高い鼻。

ツヤツヤに輝くシルクのような髪。

笑えば自然に優美な微笑みとなる。


しかし魔法使いの孫といえども、人間のイコは。

無造作なショートボブに、低くて丸い鼻。

つんつんと唇を尖らせたと思ったら、ふいに目がなくなる程笑う。


その完璧とは程遠いきらめきに惹きつけられてしまうのだ。


「ちょっと、ちょっと!」


そこへ自動ドアが開くのももどかしく、隙間に体を押し込みながら、女性が入店してきた。


「バーバラさん」


花の香りを身にまとった彼女は、忙しなくカウンターにやってくる。


「あたし、昨日間違って夢を買ったかしら?それとも、陳列ミス?」


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