表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

その4 これではまるで強盗ではないか

「ハハッ!ハハッ!」


 牙をむき襲いかかってくるネズミ。その甲高い鳴き声からは想像もつかない恐ろしい形相でこっちに向かってくる。

 立ち向かうライカ。失禁まであと一歩の俺とは違い怖がるそぶりは一切ない。かなり素早いうえに標的も小さいがやはり勇者。その剣で数々の窮地を乗り越えてきたに違いない。


「くたばれクソネズミ!」


 勇者らしからぬセリフと共にライカの拳がネズミに突き刺さる。

 ん?拳?


「見ましたかトオルさん。あれがアネゴの異能、刑罪領域パーソナルスペースです!」


 異能でも何でもねー!


「ていうか何だ‘ぱーそなるすぺーす’ってそのダサい名前」


「ダサい名前とは失礼な!これでも数時間悩んだんですよ!?」


 考えたのお前かよ!


「私の考えた‘ぽちょむきん’のほうが絶対良かったわ!」


「ネーミングセンス腐ってるな」


「何ですって!?」


「ハハッ」

 

「笑ってんじゃねえぞクソネズミ!」


 怒りのままにラッシュを叩き込むライカ。はっきり言って絵面がヤバイ。動物虐待の現場にしか見えない。動物愛護団体とビデ倫を同時に敵に回すレベル。


「…なあ、何であいつ剣使わないの?」


「非殺傷主義のアネゴは脅迫の時しか剣を使いませんよ?」


「そんなのは非殺傷主義とは言わない」


 何であいつ勇者やってんの?


「そもそもあれのどこが異能なんだ?普通に鬱憤うっぷんをネズミではらしてるようにしか見えないんだが」


刑罪領域パーソナルスペースはいわば守るための異能、要はバリアをはる力です」


「そうか、俺たちを守るためにバリアを」


「いえ、ボクシングのグローブみたいにしてます」


 守りたいのは自分の拳か。よくよく見れば何か赤いのが拳の回りに見えるけどあれバリアだよね?違うよね?血とかじゃないよね?


「返り血を浴びつつ戦うその姿こそアネゴが‘紅の舞姫’と呼ばれる由縁です」


「血でしたかー」


「はーすっきりした」


 戻ってきたライカ。背後にはキラキラと幻想的な光を放ちつつ消えていく肉片が目に入る。

 小動物を撲殺し顔にケチャップ()をつけたその表情はまさに悪魔の微笑み。間違っても舞姫といった感じではない。


ーーーーーーーーーー


 城下町にやってきた。この世界に来た時に見えていた町だ。綺麗に整備されたレンガ造りの家々が並び、大通りのむこうには大きな城が見える美しい町だ。


「さて、町に来たらまずやることは一つよね」


「そうですね」


「何をするんだ?」

 

「ま、RPGじゃ定番のやつよ。キモオタのあんたならすぐわかるんじゃない?」


 一言余計だ。初めて来た町でのRPGの定番といえばやはり住民に話しかけ情報収集か。


「ごめんくださーい」


さすが勇者、慣れた様子で民家の戸を開き


「よっこいせ」


 壺を叩き割り、タンスを漁る。


「ヘーイ待て待て」


「何よ」


 これではまるで強盗ではないか。いや、ごめんくださいの時点で剣をちらつかせてたし強盗そのものだわ。確かにRPGの定番っちゃ定番だがリアルは駄目だろ。

ほら、住人の親子めっちゃこっちみてるよ!完全に犯罪者を見る目をしてるよ!


「何ぼーっとしてるの。あんたも探しなさいよ」


 何でこいつには人間性というものはないのか。普通勇者ってバファリン以上に優しさで出来てるもんだろ。仲間から甘い、とかお人好し、とか言われるもんだろ。


「ちっ、しけてるわね」


 何だあれ。人んちの家具叩き割って悪びれるどころか唾を吐き捨てる始末。ここまでの悪行は魔王だってしねえよ。


「何やってるの。壷くらいはやく割りなさい。世界に平和を取り戻すためなのよ」


 今まさにぶっ壊されてるところだよ。

 しかしこいつに逆らうと俺もあの危ないネズミと同じ末路を辿ることとなってしまう。それに一応助けてもらってる身なんだ。壷を割らないがまあタンスを開くくらいならまだマシだろう。充分犯罪行為だが。


「…ん?」


 開いたタンスの中には何かほんのりと光を放つ袋が入っていた。袋を手に取ると同時にライカが目を輝かせてこっちにやってきた。

 

「いいもん見つけたじゃない!それは‘星空の砂’って言ってね、けっこう高い値段で売れるのよ!」


 要は換金アイテムか。この金の亡者がいきいきしてるのが少しムカつくが確かにラッキーだ。とりあえずもって帰ることにしよう。


「ねえママ…」


 はて?今までだんまりだった親子が急にぼそぼそと何か話しはじめた。


「ゆーしゃさまは、あれを持ってっちゃうの?」


「そうよ」


「嫌だよ。あれは引っ越しちゃったヨシコちゃんのだもん。宝物だから…大事にしてって!」


「静かになさい!勇者様は世界を、救うために戦ってるのよ!世界のためなのよ…!ほら泣かないの!ヨシコちゃんに…笑われちゃうわよ…!」


 持っていけるかーっ!!!


「いらないなら私が持ってくわ」


 ライカにあっさりと持ち帰った。あまりにもスムーズかつ非人道的な行動に開いた口がふさがらない。きっとこいつに人の心はない。


 民家の外で待機していたマイは妙に上機嫌だった。というかライカも換金アイテムを手に入れ満面の笑顔で民家から出てきたので浮かない顔をしているのは俺だけだったりする。二人ともまあ笑顔。真実を知らなければ今のライカもマイも最高に可愛い顔をしている。


「何でそんなに嬉しそうなんだ?」


「ダンジョンです!ダンジョンに行きましょう!」


次回、新キャラ登場!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ