■第8話 墓地で
ふたりが再びやって来た場所は、肝試しをした墓地だった。
気付けば、橙色のグラデーションが豊かだった夕焼け空には、もう琥珀色
の月が藍空に顔を出しかけている。
マコトがひとり歩みを進め、家の墓の前で膝を抱えてしゃがみ込んだ。
夏草は強い日差しにみるみる成長を早め、先日刈ったばかりなのにもう高
く聳える。それは小さく心細いマコトの体を簡単にすっぽり隠してしまう。
暫く黙ったまま墓石をぼんやり見つめていたマコトが呟いた。
『シュンちゃんにさ~・・・
・・・甘えちゃいそうだからさっ。』
その声色はなんだか自分自身を嘲るように哀しく響く。
弱々しい月明かりが、どこか遠く感じるマコトの横顔を細く照らす。
『ヒトに甘えるのとかって、苦手。
・・・ってゆーか。
どうしたらいいのか、分かんないってゆうか・・・。』
キタジマは何も言わずマコトを見ていた。
夏草の中で小さく縮まる痩せた背中が、増々小さくなってゆく様に見える。
『人の前で泣くのとかって・・・ 苦手。』
そう呟くと、ギュッと目をつぶり再び泣きそうなのを必死に堪えるマコト。
大きく何度も何度も胸を上下して深呼吸をして、胸にこみ上げるものを鎮
めようと必死で。ヒョロヒョロの腕で抱えた擦り傷だらけの膝を、更に抱
きすくめ、その手は子供のようにグーにして握り締めている。
キタジマの胸が息苦しくてジワジワと痛みを発する。
なんて言葉を掛けたらマコトの苦痛を和らげることが出来るのか、どんな
温度で抱き締めたらならマコトに刺さった棘を溶かすことが出来るのか、
いくら考えてみても答えは出ない。その前に、マコトは助けを求めていな
い。ハナからキタジマへ期待などしていのは分かっている。
それでも、抱きすくめようとして思わずマコトに一歩近付いた。
夏の虫の大合唱だけが響くそこに、キタジマのツッカケが雑草を踏みしめ
る擦る音を立てた、その瞬間。
『ダメ。』
マコトが尻餅をつくように一歩後ずさりして、キタジマから離れた。
一歩近付いた分、一歩退かれ、ふたりの距離は変わらぬまま。
『弱く、なっちゃうから・・・
・・・だから・・・ やめて・・・。』
そう呟いてガバっと立ち上がると、逃げるように慌てて走ってその場を去っ
て行ってしまった。
一瞬見えたその顔は下まつ毛に大粒の雫を湛えて、また必死に瞬きを堪える
それで。見ているこっちの方がツラくなる、いつものマコトのそれで。
その哀しい背中を、キタジマはひとり見つめていた。
キタジマの背中もまた、月夜に照らされ哀しくしおれて見えた。




