■第5話 忘れる方法
ふたりでアトリエを後にし、何処へ行くでもなくフラフラと真昼の田舎道を
進むと、子供の頃よく肝試しをした墓地が見えてきた。
今日も天気がいい。絵に描いたような真っ青な空とカリフラワーのような雲。
初夏の太陽は容赦なく辺りを照り付け、脇を流れる小川の水面がキラキラと
反射する。あまりの眩しさに、そっと目を細めたふたり。
『肝試ししたよねぇ~・・・。』 マコトが懐かしそうに呟いた。
『あたしよりシュンちゃんの方が怖がってたよね?』
片頬を上げ厭らしくニヤつきながら、キタジマを覗き込む。
傾げた頭に合わせて、顎の辺りで切り揃えられた髪の毛がサラリと揺れた。
カラーも何もしていないナチュラルなマコトの黒髪も、陽に反射して輝く。
すると、『・・・んな事ないだろ。』
バツが悪そうに照れくさそうに、キタジマは横を向いてタバコの煙を吐いた。
正直、本当にそれほど怖がった記憶はないのだが、しっかり互いの手を繋い
でいたのだけは覚えている。あの時はマコトの事は ”弟 ”だと思っていた
のだけれど。
マコトはそんなキタジマを横目に、愉しそうにケラケラと笑っている。
そして笑い声が段々デクレッシェンドするのと同時に、ポツリと呟いた。
『 ”死 ”なんてさぁ・・・
遠~ぉい未来の話すぎて、
あの頃は、な~ぁんにも気にしてなかったなぁ・・・。』
どこか虚ろな目で遠くを見つめるマコト。
その横顔はなんだか夢の中のそれのようで、目の前にいるのに儚く感じる。
『・・・ごめん
聞いちゃったんだ。
・・・奥さんのこと。』
偶然ではあったがゴシップのように耳に入ってしまったそれに、マコトが申
し訳なさそうに声を落とす。
キタジマは背を丸めるマコトをチラリと見て、『別に、隠してないし。』と
小さく笑った。
数年前に、突然の事故で最愛の妻を失ったキタジマ。
ひたすら妻の元へ逝くことだけ考えて過ごした日々を久しぶりに想い返し、
少しだけ胸が切なく痛む。
すると、
『・・・ねぇ、訊いてもいい?』
マコトがキタジマを真っ直ぐ見つめた。
『どうやって忘れたの?
乗り越えたの・・・?』
涙を堪えるようなたまにノドにつかえるような、痛みを伴ったその言葉に
キタジマの ”あの頃の想い ”がまざまざと顔を出した。