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■第3話 缶ビール


 

 

キタジマとマコトとキヨ3人で昼食をとった後も、マコトは再び午後もキタ

ジマのアトリエに居座り、日が暮れて夕飯時になってもまたまるで当り前か

のようにキヨ宅の食卓についていた。

 

 

 

 『お前んトコの祖母ちゃん、寂しがんねぇ~の?』

 

 

 

あまりにキヨ宅に入り浸るマコトに、キタジマがマコトの祖母ミチを思って

チラリ横目で流し見ながら訊く。

 

 

すると、

 

 

 

 『うるさい、って。 あたしがいると。』

 

 

 

マコトが何処吹く風といった涼しい顔で、さらりと言った。


大き目の煮物のかぼちゃを箸でカットもせず思い切り口に頬張り、もぐもぐ

と息苦しそうに咀嚼中だというのに、もう箸は次の里芋を掴んでいる。

 

 

元々、物静かなミチ。”穏やか ”というのはこういう人を言うのだと思う様

なタイプだ。孫マコトの四六時中落ち着きのない言動に、24時間ずっと一緒

にいるのは無理だと、初日でもうギブアップ宣言が出たようだった。

 

 

 

 『ウチのばあちゃんにも言われた。


  ”外で遊んで来い ”、って・・・。』

 

 

 

そのデジャブの一言に、飲んでいた食後の麦茶を吹き出すキタジマ。

背中を丸め、慌てて口元に垂れたお茶の雫を手の甲で拭う。


肩を震わせて笑いながらマコトの様子を眺めるも、本人はなにも気にしてい

ない風で、居間のレトロな扇風機の真ん前にドシンと胡坐をかき目を瞑って、

短い髪の毛を緩い風になびかせている。

 

 

そして、

 

 

 

 『アラサーですよ、ワタクシ。

 

 

  アーーー ラーーー サアアアアアアアアアア・・・。』

 

 

 

その声色は、扇風機の風の揺らぎに共鳴して機械音のように響く。

首を振る扇風機に付けたビニール紐が、マコトのそれに併せてピラピラと

なびいて揺れる。

 

 

マコトが継いだ二の句に、更にキタジマが大きく麦茶を吹き出した。

 

 

 

 『ぉ、おまぇ・・・ もう喋んなって。』

 

 

 

電話台に置いてあるティッシュを取りに立ったキタジマが、苦い顔をして

鼻をかんだ。麦茶が思い切り入った鼻の奥がツンと尖った痛みを発する。


これ以上マコトの話を聞いていたら、茶色い鼻水が流れること必至だ。

 

 

まだ扇風機前で胡坐をかき、ぬるい風に目をつぶる少年のようなアラサー

女の首後ろに、キタジマは冷蔵庫から持ってきた冷えてキンキンのビール

缶を半笑いでくっ付けた。

 

 

 

 『冷たっ!!!』

 

 

 

目を見開いて肩をすくめ振り返るマコトへ、『飲む?』と缶を小さく放る。

 

 

すると、マコトは缶ビールを手にまじまじと目を落とす。


両手で包んだそれを、俯いて瞬きもせず。なんだかそれは感情の読めない

虚ろな目で。

 

 

 

そして、ポツリ。聞き取れるかどうかの声で、小さく呟いた。

 

 

 

 『もう、解禁だったんだ・・・。』

 

 

 

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