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女の武器

作者: 碧凪詩帆

泣くことは多分、私なりの愛情表現だったのだと思う。


今思えば、なんて昔のことを振り返ってみると、私は人前で泣くことができない子供だった。小さいころ、親に叱られて泣きそうだったときは必ずトイレに引きこもって泣いていた。泣いていることはバレバレではあったけれど、涙を見られたくないなどという変なプライドがあったのだ。親の前でさえ泣けない私は学校でなんて決して泣けなかった。小学生なんて、理由はどうであれ、男子が女子をからかい、結果泣かせてしまうなんてことはよくある。そういうときでさえ、私は何を言われても泣かなかったし、むしろ泣くことはずるいことだと思っていた。原因がどちらにあるとか関係なく、泣いた方が被害者で、泣かせた方が加害者。そんな思い込みがあって、泣けば済むと思っているんでしょう、と泣けない私は思っていた。


大学生になって一人暮らしを始めて、少しだけその生活に慣れてきたころ、初めての彼氏ができた。相手には失礼な話、告白されたときは、そこまで彼のことは好きではなかった。それでも付き合うことになったのは、ライクかラブかわからない少しの好意と、わずかな興味本位な考えがあったからだ。だから、私が彼のことを心から好きになる前に、彼の興味が他のものへ移ってしまったのは、何かの罰だったのだと思う。少しずつ避けられるようになって、私は誰もいない部屋で、独りで、よく泣くようになった。独りでだったらいくらでも泣けると知ったのはこのときだった。けれど、別れ話をした日でさえも、結局私は彼の前では泣けなかった。彼の後姿が見えなくなって、独りになってから、やっと涙がこぼれてきた。やっぱり独りでないと泣けないのだと、異様にさみしくなったのを覚えている。

だから、ある冬の日、あの人の胸の中で涙をこぼしたときは、なぜか悲しかったのに嬉しかった。

彼と別れた私は、もう恋なんてしないと、どこかで聞いたことのある歌のようなことを思いながら、日々を過ごしていた。それでも、好きになってはいけないと、どうせまた独りで泣くことになるのだからと言い聞かせながらも、どうしようもなく私は恋に落ち、あの人と恋人同士になった。幸せだった。けんかもほとんどしなかったし、私がさみしさに埋もれてしまいそうなときはいつも、あの人がやさしく手を差し伸べてくれた。そのたびに、私は涙がこぼれるのを必死で我慢していた。泣いたとしてもあの人はすべてを受け止めてくれるとわかっていても、しばらく人前で泣いていなかった私は、無意識に涙をこらえてしまっていた。

一度こぼしてしまった涙はもう、止まることをしらなかった。私は、あの人の前では泣いてもいいんだと、泣いてしまえるんだと、変な安心感からか、些細なことでよく泣くようになった。涙は女の武器だとよく言うけれど、確かに、相手を弱らせるには効果的なのだと思う。

「泣かれちゃうと俺が悪いみたいになるんだよね」

そう言って、あの人は私から離れて行ってしまった。私がやっと涙を見せることができたあの人。涙のせいで離れて行ってしまったあの人。涙を見せることは、心を許した証拠だったのに、あの人には責められているとしか思えなかったのかもしれない。泣けば済むと思っているんでしょう、とどこかで小さい私が言った気がした。


その時から、もう誰の前でも泣かないと決めた私は、誰かの前で泣きたいと思い続けている。


とても久しぶりに書きました。つたない文章ですみません。

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