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メダリオン~白と黒の協奏曲~  作者: たんぽぽ
第一部 第三章 『現実化への一歩』
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第五十五話『襲撃翌日その五・固める決心』

 既に日をまたいだ時刻は午前一時過ぎ。オレは目をこするグレースを宿屋の屋上に呼び出してベンチに座るが、先ほどの口論もあってかかなり不機嫌な様子だ。


「……なによもう、もう少し早く呼んでほしいんだけど」


「ごめん、ちょっと話したいことがあるんだ」


 既にイーヤは寝たようで、彼女が出てくることはなかったが、用があるのはグレースだけだ。

 屋上からはリリヴィオラの夜景が半分ほど見える良いビュースポットなのだが、二人でロマンティックに語らう気など毛頭ない。すぐに話を切り出すことにしてグレースに冷えと眠気防止にカップに入ったコーヒーにブランケットを渡す。


「さっきのこと覚えているか?」


「アレスティアのこと?」


「ああ……」


 星を眺めるグレースは髪を指に巻き付けてため息をついた。


「確かにね、なるべくなら早く取り返したいとこだけど、レナちゃんにも匙を投げられたもの。正直言ってここで暮らすことも考えていたけど、のうのうと他のプレイヤーが酷い目に遭わされるのを見過ごすのも嫌よ……」


 彼女の表情も苦々しいものだ。よほど悔しい思いをしたのは同じなのだろう。だからこそグレースには伝えたいことなのだ。


「だからさ、オレは一人でも……」


「私も一緒に行くわよ」


「えっ?」


 予想外の言葉なだけに、瞬間俺は何を返したらいいのかわからなくなっていた。「あー」とか「うー」とか必死になってどう言おうか考えていたのだが、彼女は話を続けていく。


「私もあの時危ない目に遭わされたわ。確かに今はレナちゃんだったり、シズクちゃんにまた会えて嬉しいけど、結局は私とセイリア君のホームタウンはあそこなのよね」


 それは紛れもない事実だ。しかし、それを取り返すのは途方もなく長い道のりだろう。

 レナには首を横に振られ、ミラには話を聞かれるだけ聞かれてあっさりと切り上げられた。力を貸してもらうことが取り戻すために第一歩というのに、これでは先にも進まない。


「それにあの街で私に話しかけてくれたプレイヤーがいたの覚えてる?」


「ああ、ご飯食べた後だったな」


 あの時の二人組はかなり印象深かった。グレースのことを【蒼弓】と格好のいい名前で呼び、当の本人は赤面している。そんな一場面が頭に思い浮かんだ。


「そんな人たちが悪い奴等にこき使われているって考えると虫酸が走るわよ。それに、あいつらの大半は大したことなかったし、もっと味方を増やせれば充分に対抗できるし、セシリアさん辺りに頼めばデモリテなんて楽勝じゃない?」


「でもレナからは力を借りれないぞ。それでも一緒に来てくれるのか?」


 あえての質問だった。オレにしてはどうしても成し遂げたいことではあったが、彼女にしてみれば迷う点も多い。


「当然よ。私だってあいつらには恨みがあるもの、全力の矢をあいつの頭にぶちこんでやりたいわ」


 彼女の目は決心に溢れていた。こちらから視線を逸らさず、決意がありありとこちらを捉えている。


「レナに断られて、オレてっきり一人で仲間を探すって思ってたけどな……」


「君一人で何かできるの?」


「ううむ、一応は各ホームタウンで相談してみるつもりだったけどな」


 当然だが、俺一人ではどうにかなるような相手ではない。フーリエさんですら俺らを引き連れていたお陰で逃げることで精いっぱいだった。もっと強い人の助けが必要なのは言うまでもないだろう。


「もう、君はどうしてこう計画を立てられないのよ……」


「ははは、何分こういうことに慣れてなくてな」


「その話聞かせてもらったぞ!」


 そこの現れたのは黒衣に身を包む二人組。片やつば広の魔法帽子の奥で赤い瞳を煌めかせる少年に、方やドクロの眼帯を外して緑のくせ毛を揺らす少女だ。


「悪の巣窟か……そんな不埒な輩は闇に堕ちし(ブラック)運命(ディスティニー)が……」


「もういいわよ。つまんないわよそれ」


 口上をグレースに遮られて憤慨するクラヴィスは地団太を踏む。


「なんだとっ! 貴様も元は……」


「……でもありがとう」


 グレースから出てくと思わなかった感謝の言葉にクラヴィスは瞬間硬直する。


「へっ?」


「ほら、もういいでしょ! とっとと部屋に帰りなさいよ!」


 再度聞き直した彼に、グレースはそっぽを向いてつんけんした言葉を浴びせた。


「ふんっ、貴様のような裏切り者は地獄の業火に焼かれるがいい!」


「そうだ! 暗黒の薔薇に命を吸い取られればいい!」


 二人は小物的な捨て台詞を吐いてから階段を下りていくが、二人はどこか嬉しそうに肘で小突きあっている。どうやらしっかりと聞いていたようで、それを察していたのかグレースも「ふんっ」と鼻を鳴らすだけだ。


「グレースも大変だな、あの二人によく吹っ掛けられてな……」


「もう慣れてきたわよ。正直鬱陶しいけど、あの二人は楽しそうにやってるから我慢我慢ね」


 二人を見送る彼女はどこか安どしているかのようだ。こっちとしても仲間が多いのは心強いし、信頼してもらえているからこそ遠くまで来てくれるのだろう。一度は遮られた話の道を元に戻すべく、ベンチに座り直すと肩に何かがぶつかる。


「私も行くよー」


 そこにいたのは月明かりに輝く銀色の髪を風になびかせたイーヤの姿だった。

 寝ていたはずの彼女もまた、オレらと共に来てくれるというのだ。


「イ、イーヤ!?」


「セイリアたちをいじめたやつは許せないよ」


 両手で拳を作って鼻息を荒げている。気合たっぷりな姿を見せるが、グレースは彼女のことを心配なことがあるらしく、表情は明るくない。


「でもイーヤちゃんは街で仲間が待ってるでしょ?」


「いいの、こうして旅ができて、強くなれたのはセイリア、グレース、フーリエのおかげなの。恩返しだよ」


 いつの間にか上手になっている日本語で話すイーヤもまた真剣だ。夜風になびく髪を整え直してからグレースもこちらを向いた。


「……ここまで言われると断れないよね?」


「はは、そうだなぁ」


 オレの気の抜けた返事にグレースは頬を膨らませるも、後ろからは前向きな声が聞こえてきた。


「いいじゃないか、それだけこの旅で得られたのは大きいってことだ」


「フーリエさんも?」


 見ると、フーリエさんも寝間着にナイトキャップを被る姿で立っている。隣には水でかたどられた召喚獣ルネがふわふわと浮かんでいる。


「ああ、今の僕には帰る場所もないからね。折角だし新しい仲間の力にはなりたいさ」


「でも取り戻した後はどうするの?」


「そこはそうなってからだ。また旅をするのも面白いし、この世界にはまだまだ面白いことが山ほどあるだろうし、楽しいことには事欠かないさ」


 月を眺めてから、復興作業を切り上げるプレイヤーらに視線を変える。そこには現実と何ら変わりない協力する人たちの姿がそこにはあった。


「それに僕は攻略とかよりも、困った人を助ける方が性に合っている。自由気ままが僕のモットーなのさ」


 そういってあっという間に階段を下りて行った。こうして代わる代わる旅を共にしたみんながやって来ると、口裏を合わせて励ましてくれているようにも思える。


「……フーリエさんらしいな」


「うん、でも本当にみんなが助けてくれるね」


 言葉の出ない俺らだったが、フーリエさんと入れ違いに現れたのはミラに宿を案内していたレナだった。まだライトメイルに白のケープを羽織る日常の姿のままだったが、彼女の様子はどこかバツが悪そうだ。


「ああ、ここだった。さっきは申し訳なかったわね。でもやはり私にはこれ以上の支援は出来そうにないわ」


「そっか、こっちもさっきは取り乱してごめんね」


「断っておいてなんだけど、取り返すための当てはあるの? 他の場所も環境を整えるのに手を焼いているようだけど」


「……無いけど、アレスティアから悪い奴らは追い出さないとな。その為に力を付けて、味方を増やして、いずれは戦いを挑まなくちゃオレとかグレースに帰る場所が無いわけだ」


「そんなの別にここで良いじゃないの? グレースはもちろん、あんたを含めたパーティーなら全員住む場所も確保は……」


 手に持っていたコーヒーのカップを傾けて提案するレナだが、オレにとってそういった言葉に魅力はすでになくなっていた。


「それは違う。あそこには捕まった人もいるし、旅の途中でセシリアさんから捕まった人たちがデモリテ一派のレベリングの為に無理やりこき使われているって聞いた。そういう人たちのことをオレは一度見捨てたんだ」


「でもそれは仕方の無いことだって……」


「初心者だったオレがこうして強くなってきた。それなのに酷い目にあった人たちを見捨ててはおけないよ。一人じゃ出来なくても、仲間を集めれば絶対に勝てるはずだ」


 自分の気持ちを正直にレナへと伝えると、彼女もそれを察していたのか、腰に手を当てて一つ息を吐く。


「……やっぱり初めて会った時と変わらないわね。それでも私にはここで頑張る初心者たちが気掛かりなのよ」


 街を眺める彼女もまた、低いレベルながらも卓越した能力をフル活用してこの世界の攻略を考えているのだ。


「ギルドの人じゃないし、面識もそこまで無いけど、面倒を見ている皆が私のことを慕ってくれるの。だから……せめて代わりのレベリングのリーダーを育成するまでは、クリスタルローズのギルマスとかは抜きにして頑張りたい」


「レナちゃん、本当に面倒見良いよね」


「こんな状況なのよ。攻略頑張りたいって言うプレイヤーの為にやれることはしておきたいの」


「……その言葉をオレと出会ったときのお前に聞かせたいな」


 ここに来た初日を思い出す。お金稼ぎに使うポーションを買い占めてまで探索を強硬しようとしていたのだ。他を切り捨ててまで帰還の方法を探そうとするような尖っていた彼女と今はかなり違いがある。


「何よ、あの時はすぐに脱出できると思ってたからこその行動なのよ?」


「ふむ……ならばレナの代わりに私が行くとしようか」


 月をバックにして手すりに鎮座していたのは正しく【忍猫】の名にふさわしいシズクの姿だった。彼女も口元にマスクをしていたが、それを外してから宙返りを華麗に決めてからグレースを一目見てうなずく。


「ありがとう、でもレナちゃんと会うのがもともとの目的じゃ?」


「仲間を助けるのは至極当然だ。リアルでの仲だろう?」


「シズクちゃん……」


「偵察ならシズクはトップクラスよ。でも結構課題は多いわね」


 するとレナの人差し指がこちらを向く。あのレイピアのような鋭い瞳に一歩後ずさるほど、慣れないプレッシャーだ。


「何だよ?」


「セイリア君、レベルはいくつかしら?」


「ええと……三十四だな」


 ガルディルと共に戦ったとは言っても所詮はレナがメインアタックを担当していただけだ。低いのは重々承知なこともあり、手厳しい言葉に覚悟してレナの様子を伺っていると、案の定返って来たのは彼女の得意技である【トライデント】の如く強烈な刺突だ。


「それでよく最大レベルの八十のプレイヤーに勝とうなんて思えるわね? はっきり言って無謀なのよ、それって」

 

「うぐぐ……」


「レナちゃんだってセイリア君くらいのレベルの時は、大会でカンストプレイヤーに勝ってるじゃないの。彼もそれなりにセンスはあるし、もうちょっと強くなれば多少のレベルの差は覆せそうだよ?」


 横からのグレースの言葉に、レナはしばし言葉を止める。以前アレスティアでグレースから聞いていた話で、こちらとしては是非ともその話を聞かせてもらいたいが、実際にそれを成した本人は腕組みをして唸っていた。


「あれは私のこと嘗めてたやつと戦った時でしょ? うちのギルドのことだって馬鹿にしてたし、あの時は有名ギルドを集めてクエストをしてた時よりも集中してたのよ」


「すごい! レナカッコいい!」


 言葉を選んでいたのか、どこか途切れ途切れに語るレナにイーヤが目を輝かせていた。レナと出会ってからというもの、先輩プレイヤーである彼女に何かしら尊敬の念を抱いているのか?


「はっきり言って普通は絶対勝てないわ。私に負けたやつも配信者みたいで、あの後はしばらくかなり馬鹿にされてたようだし」


「今ならその人に勝てる自信あるのか?」


「もちろん、負ける気しないわよ」


 即答だった。つい昨日、NPCであろうガルディルにオレと二人がかりで勝てなかったというのに、ずいぶんな自信だ。そのことをレナに問いただしてみると、手を振ってから答える。


「あいつの方がよっぽど強かったわ。パワーで押し切られたし、そもそもの戦闘のテクニックもそうだけど、心持ちからしてまるで違うもの」


「レナちゃんがそんな風に言うなんて……」


 グレースも目を丸くしていた。その時はグレースはオリジナル・アーツの反動によって戦闘不能になっていて、オレらの戦いには参加していない。

 すると、レナはこちらを一瞥してから大きくため息を吐いた。


「というか、フレリアの方が恐ろしかったわよ。あの人たちにレベルの概念があるのか知らないけど、手も足も出なかったし」


「確かにな……オレもマナの扱いを教わるときに一度見せてもらったけどさ、剣の一振りでゴーレムを真っ二つだったもん」


「そうだよねー。一度戦ってみたかったのにゃ!」


 特徴的な言葉遣いと共に現れたのはエレノアさんだが、その場所が不可解なものだったのだ。


「これはまたすごいとこにいますね」


 レナはエレノアさんがいたのは屋上に立てられた半径十数センチのポールの上だったのだ。かなりのバランス力と体幹の強さがあってできる芸当だろう、先ほど手すりに乗って現れていた【忍猫】の異名を持つシズクですらも感心した様子だ。


「すごいな……どっかの怪盗みたいだ」


「んふふぅ、忍者さんに認められたのにゃ」


 ひらりと着地してからどや顔を披露したエレノアさんは、改まった表情で


「で、聞かせてもらったのにゃ、セイリアっちレベルが低すぎだよねー」


「そんなストレートな……」


「それとそこの銀髪ちゃんもかな?」


「む、言ってくれるね」


「にゃはっ、ごめんごめん!」


 口では謝っていても、その事実はオレらの前に高い壁となって立ちはだかっている。

 イーヤはもともと戦闘についてはかなりの技量だが、オレの実力は並以下のものだろう。

 初めての対人戦ではレナのスキルに対応したものの、それはあいつがオレのことを侮っていてくれたからであり、実際に同じ実力の相手と戦った時にははっきりと勝てるなんて言えるのだろうか?


「ちょっと銀髪ちゃん来るのにゃ。私がここで実力を見たげるのにゃ」


「え?」


「今の言葉がどれだけ重いものか、体感させてやるのにゃ! このゲームは確かにスキルとかプレイの比重が大きいけど、レベルだって差があるとキツイってところをね!」

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