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メダリオン~白と黒の協奏曲~  作者: たんぽぽ
第一部 第三章 『現実化への一歩』
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第二十八話 『領主候補たち』

 その部屋の広さはそこまで広くは無かった。しかし、張り詰める緊張感というか、プレッシャーはオレの脚を震えさせるのには十分過ぎるほどだった。


 たった四つの椅子と、四つを据えておくには大きすぎる円卓しかないこの部屋は、本来なら十人以上を目的とした会議室なのだろう。


 しかし、そこに座る三人のプレイヤーの雰囲気が一人を除いて重たいものだったのだ。


 二人は男性プレイヤーで、一人は黒地のスーツをピシッと着こなし、顔つきは切れ長の目に高い鼻という、ちょっぴり外国成分の入っているスマートな黒眼鏡を掛けたやり手のビジネスマンの風貌。


 もう一人は三白眼の目付きは悪いが、顔付きは中々に良い若者という雰囲気のプレイヤーだった。

 身に纏った銀色の分厚い甲冑を着こんだ、いかにも壁役(タンク)らしい格好ながらも、歴戦の猛者らしい堂々とした風格は、他を圧倒するほどの圧力を秘めている。


 もう一人は言うまでもなく、自由奔放なエレノアさんだ。


「誰だ、こいつらは?見たところヒューマン族も混じっているぞ」


 鎧の騎士は、レナの後ろに位置するオレたちを一瞥すると、不満げにレナに文句をぶつけた。


「そうですね、でも私の客ですから気にせずどうぞ」


 淡白な返事と共に椅子に座るレナ。恐らくはこの会議の席で一番レベルが下であるはずなのに、その物怖じしない態度はオレも見習うべきだろう……


「んじゃ!会議始めちゃおうよ!」


「そうだな、私としてもこれからの商売に影響する会議を控えている。ここはさっさと終わらせたい」


 エレノアさんの催促に切れ長の瞳をキラリと輝かせて眼鏡を上げる。


 そんなインテリジェンスな雰囲気を持った人は最近会った気がするが一体…… そんなオレの考えを置いていくように会議は始まった。


「まずはそこの奴等についての説明を求めようか」


 すぐに先頭のフーリエさんに指を指す鎧の騎士。そこにのんびりとした声が割り込んできた。


「それよりもね、この人たちがここに来る前に正当な理由があったのにも関わらず、追い返されそうになってたにゃ。わたしがいなかったら絶対に戦闘になってたけど、テッドくん、そこんとこよろしくにゃ!」


 ―― この人がテッドか……


 鎧の騎士ことテッドはエレノアさんに質問を割り込まれてイラッとした様子だったが、肘を机に着いて、その理由を語った。


「なんてこと無いさ、この俺が教えた通りに怪しいやつらを入れないように役割を果たしていたのさ」


「でも、レナっちに直接連絡を取るって嘘ついて、追い返そうとしてたにゃ、わたしは隠蔽(ハイディング)スキルで隠れて聞いてたにゃ」


 まだ明るい夕方、しかも、真っ白ベースのコートとズボンを着ていてどうやって門の近くで隠れていたのか?


 それよりも、エレノアさんが突き付けた事実に、初めて事の顛末を聞いたレナも表情を曇らせた。


「先週の定例会議で、私はこの人たちが来るから、ちゃんと名前と私の事を確認したら通してほしい、とあなたに直接伝えましたが?」


 少々声が荒くなるレナに対してテッドはあっけらかんとしていた。


「そうだな、一応は伝えておいたがあいつらも間違えたんだろ?」


 手を振ってとぼけたような言い方に怒ったグレースが、ブーツを鳴らして話に割って入ってきた。


「でも、その人は、衛兵の隊長に直接レナちゃ……レナに聞いてもらうとまで言ってましたよ! 」


 食って掛かるグレースをテッドは一瞥すると、圧力を掛けるような声で、


「部外者が口を出すなよ……」


 その言葉にグレースも睨み返して応戦するが、それをレナの上げた左手に止められると、


「すみません、あの子、真面目な性格なので、あなたの筋の通っていない説明に少々があったようです」


 グレースを擁護しつつ、それとなくテッドに牽制を加えるレナすると、眉間にしわを寄せたテッドが口を開いた。


「この俺がこいつらをこの街に入れないようにしたって言いたいのか?」


「別にそうとは言ってませんが?」


「お前……俺を嘗めてんのか?」


「いえ、私は単にあなたが指揮している衛兵隊が犯したミスを、どうしてあなたが説明しきれないのか? ということです。最悪衛兵を呼んで話をしたいと……」


 テッドが怒りのボルテージがぐんぐん上がっていくのがオレの目にも分かった。そして、更に言葉を強めるテッド。


「どうして得体の知れないプレイヤーをここに入れないといけねぇんだよ?こっちは早く領主決めねぇと、今後の方針だって決まらないだろうが!」


「領主を決めるのは来月の投票で決めることですよ? 今は情報を得ることが先決ですよね?」


 テッドの言葉もレナの正論で次々に打ち崩されていく。そしてとうとう、


「お前みたいな低レベルが偉そうに喋ってんじゃねぇよ!何がクリスタルローズだ、俺はこのゲーム最大のクロノスで壁役(タンク)隊の一つを任されているんだぞ!」


 冷静さを欠いて、あれやこれやをぶちまけるテッドの鎧に一つの石ころが投げられた。その出どころを見ると、奔放な猫が真剣な目付きでテッドを見ていた。


「てめぇ、何のつもりだ!」


 机を思い切り叩いて脅かすテッドにエレノアさんが静かに言葉を口にする。


「テッドさん、今のは失言だよ。キミの言い分だと領主は力の強いプレイヤーが就くべきだと言う風に聞こえる。もうちょっと物事考えるべきだよ」


 ―― エレノアさん、こんな一面もあるんだな……


 さっきまでの緩い感じの語尾とは異なり、真面目に、そして強い響きで相手をたしなめるエレノアさんの姿に、先程エレノアさんに文句を垂れていたタケルが、ちゃんと慕っている理由がわかる気がした。


 エレノアさんの忠告に対してテッドは引こうとしなかった。フンと鼻を鳴らしてから荒々しく席に着くと両腕を組んだ。


「領主はいわばこのホームタウンを取り仕切るリーダーだ。それならただ仕切っていけるヤツだけじゃなくて、ちゃんと強いヤツがやんねぇとダメだろ?」


 随分と落ち着きを取り戻したか、言葉を荒げてはいなかったものの、依然としてレナを批判するような口振りだった。するとレナは一言テッドに問い掛けた。


「テッドさんは領主になりたいんですか?」


「当たり前だろ!だからこそ、選挙みたいなリーダー決めに立候補しているし、その為に面倒な選挙活動だってやっているんだ!正直早くここから出るためのマッピング作業したいもんだ」


「恐らくなんですが、テッドさん以外の三人は元々領主になる為だけにここにいる訳じゃないと思いますよ?」


 レナが語った意味のわからない言葉にテッドは疑問の表情でまくし立てた。


「はぁ?なに言ってんだよ!?あっちのビジネス眼鏡はどうなんだよ?」


 その言葉に眼鏡のビジネスマン、カルヴァンは不満そうにテッドを睨んだ。


「私は領主になると面倒が増えると考えている。それよりも商売関連で他のホームタウンを上回らなければ、今後の経済面で影響は免れないだろう?」


 ダンディーな声の持ち主はかなり経済に強いのだろうか?会議の間でも誰かと通話をしながらメモを取っているようだった。


「まぁアイツはいい、それよりもあんたがどうして領主になろうと思っていないんだよ!?」


 レナを指差して質問を投げ掛けるテッドにエレノアさんが


「ンフフ、テッドさんって案外ニブチンだにゃ!レナっちが言いたいことって、領主を決めるのはあくまでこのホームタウンをまとめる為に適した人材を決めるだけであって、結局プレイヤーを協力させる為にリーダーを複数決めないと、こんな人数を一人でまとめられる訳がないって言いたいと思うのにゃ!」


その発言にレナは言いたい事を取られたからか、ムスッと不満気な表情ながらも頷く。


「……まぁそんな感じです。確かに今後は領主を中心にこの街は動くことになるでしょうが、人口百万人を越える程の都市を一人だけで動かせるはずもありませんから、最終的にこのような会議で決めていくことになると思いますよ?」


「ぬぐぐ、じゃあ領主が出した方策を全部が全部通るって訳じゃないのかよ……」


 テッドの悔しそうな言葉にエレノアさんが腹を抱えて大笑いし始めた。


「にゃははっ!テッドさんってそんな野望を持ってたのかにゃ?どのみち会議で今後の動きとか決めるから、勝手なことしたら一発で領主をクビにされるよ?」


 足をばたつかせて笑い泣きしているエレノアさんに悔しそうな顔で何も言えなかったテッドだった。



「会議って感じしませんね……」


「まぁ、エレノアがこの場にいれば、かなりシリアスな雰囲気が緩んじゃうからね……」


 オレが呟くと、フーリエさんも、ただただ苦笑いで言葉を返すだけだった。



「じゃあ、テッドさんは私が外から来たギルドの仲間から情報を独占すると思ったんですね?」


「……ああ」


「んにゃ、テッドさんは、かなりうたぐり深い性格にゃ……」


「仕方無いだろ?俺だって簡単に領主の座を渡したくなかったんだ」


 そんな言葉にエレノアさんは苦笑していた。


「でも、戦ったらやられてたのは衛兵たちだと思うにゃ」


「俺が担当するグループから選んだ奴等だぞ?」


 テッドが目くじらを立てて言い返した。するとエレノアさんがこちらを指差して、その理由を説明し始める。


「まずはレベル八十の魔法使いがいること、それだけでもかなり不利になるでしょ?後はレナっちの部下が二人もいること。あそこのギルドのプレイヤーって元のレベルに十を足せって聞くほど強いらしいよ?」


「それでも、今日の衛兵隊は平均レベル五十オーバーを十人だぞ」


 なおも食い下がってくるテッドに、エレノアさんはまだ考慮する点があるようだ。


「あとは、そっちのお二人さんはSSR装備持ちにゃ」


「なっ、何っ!?」


 オレとイーヤを指差すエレノアさんの言葉にテッドは驚愕する。しかし、イーヤのブーツはともかく、オレのコートに関しては結構目立つ気がするのだが……


「ああ、セイリア君は『ヴァン・フレリア』、そっちの銀髪の子は『ブーツ・ドゥ・レニア』ね、特殊能力ってあったりするのかしら?」


 珍しく驚いた表情を見せるレナにオレは気になる言葉があった。


「この装備って特殊能力ってあるのか?」


 その言葉にレナは呆れた顔でかぶりを振る。


「教わらなかったの?SSR装備は、強化にかなりレアなドロップアイテムをたくさん使うけど、ある程度強化すると他の装備に無い『ユニーク・アビリティ』が付くのよ?」


「えっ??」


 まさかの事実にオレはグレースやフーリエさんに顔を向けるが、なぜか目を反らされてしまう……


「忘れてたんですか?」


「すまないね、ドロップアイテムの難易度が恐ろしく高いって噂だから教えなかったんだ」


 頭を掻いてばつの悪そうに謝るフーリエさん、オレはそんなフーリエさんにもう一つ聞いてみる。


「そのアイテムってどのくらいの物か聞いたことはありますか?」


「そうだね……確か、適正レベルが五十を越えるダンジョンでドロップ確率一パーセント以下のアイテムが最初の素材とか……」


「……はい?」


 そんなふざけた素材が最初の強化?オレは今着ているコートを改めて眺めてみた。


 未強化でもかなりのスベックなのを随分と前にグレースから聞いたが、この先は恐ろしく難しい強化をするのかと思うと少々気が重たくなった。


「まぁ、とりあえずはこの子たちはレベルとか見た目よりもずっと強いと思うのにゃ。今までのレベル制MMOなら、レベルが正義な感じもあったけど、このゲームはプレイスキルもかなり重要性が高いから、多分衛兵隊がやられると予想したのにゃ!」


 ピョコンと猫耳を折り畳んだエレノアさんにテッドは悔しそうな表情を浮かべる。


「そこまであんたはこいつらを買ってんのか?」


 「そうだね、ここの子たちの雰囲気は結構経験したプレイヤーのそれにゃ、だからこそレベルだけじゃ量れない何かがあると、わたしは思うのにゃ!」

 

 「そこまでしてどうして領主になろうと思わないんだよ……」


 さっき言ったレナの考えをまだ理解していないような口振りに、エレノアさんは苦笑いを見せてから、ティーカップから紅茶を一口飲むと、


「まぁ、さっきもレナっちが言っていたけど、領主になりたいとは思っていないけどね、ここのプレイヤーたちに領主になってほしいと望まれたら、その時は皆が全力で領主の役割を果たす所存にゃ!」


 「……じゃあ、やる気が無い訳じゃないんだな?」


 テッドの言葉にエレノアさんは頷くことで肯定を示す。更には通話しているカルヴァン、そしてレナもテッドの問い掛けにきちんと了承の意を表した。


 そんな意思を感じ取ったテッドが大きなため息をついた。


 「全く…… 俺も領主になりたい一心で色々と考えてきたけど、他の奴らは俺とは違う心構えでこの街のプレイヤーの事を考えていたのか」


 「んまぁ、わたしも本当なら領主なんてメンドーな事はしたくはないけど、皆と同じようにこの世界から早く脱出したい気持ちは同じにゃ!」


 その言葉にテッドはもう一度大きく息を吐くと、オレたちの方向を向くと、


 「……すまないな、お前たちを妨害するような事をして、ここで謝罪をしたい」


 頭を下げるテッドにグレースが口を開いた。


 「私たちはレナちゃんに助けを求めてここまで来ました。当然、これからはレナちゃんの助けをしていきますが、何もあなたを蹴落とそうとか考えていません」


 グレースが目を伏せる。そして、少しの静寂の後に言葉を続けた。


 「だから、他のプレイヤーにさっきみたいな暴言は口にしないでください……」


 先程テッドがレナに言い放った、自身の所属するギルドを自慢して相手を卑下するような物言いの事だろう、対するテッドも肩をすくめていた。


 「……ああ、分かったよ」




 一旦はかなり険悪な雰囲気になったものの、なんとか話の着地地点を見いだしたところで、次の話題を、手を挙げたカルヴァンが出そうとしたとき、


―― 何だ?この感じ……


 オレは変な違和感が体を駆け巡る感覚を得た。なんというか、体の奥底をゾワッと震わせるような不快な感覚だったのだが、他の皆は何も感じ取れなかったのか、淡々と話を進行していた。


 その時、会議室に声が響いた。


『皆さん、この世界で体験した二ヶ月余りの生活はどうでしたか?』


 その声はオレが、プレイヤーたちがこの世界に来て少しした後に聞いた、謎のくぐもった声だった。

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