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メダリオン~白と黒の協奏曲~  作者: たんぽぽ
第一部 第三章 『現実化への一歩』
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第二十六話『リリヴィオラ到着』

 ウォーミリル出発から二日後の午後五時、オレ達の目の前には今までとは比べ物にならないほど美しい街が見えてきた。

 大きな平原にあるセレトニ川という川幅が一キロメートル程の大河の向こう側なので、まだ街まではそれなりに距離はあるのだが、そこからでも分かるほどの荘厳さがその街にはある。


 建物の色は光の領地らしく透き通るような白、そこに綺麗な夕日が当たることで、街全体を夕日と同じ橙色へと染め上げられて一層の絶景を生み出していた。高さも六~七階の建物がちらほらと確認でき、今までのホームタウンとは全体的に比べても一つ格が違って見える。

 そんな絶景の街を目前にした川を船で渡る間に、グレースが光のケットシー族について教えてくれた。


「ケットシー族は全体のプレイヤー数もかなり多いほうなんだけどね、その中でも光属性は一番多いらしいのよ。運営のサイトでは三百万人に迫るくらいって公開されていたわ」


 いつも通りに髪を指に巻き付けるスタイルで話すグレースも、街というより都市という言葉が似合うリリヴィオラの様子にどこか圧倒されている様子だった。


「ここにレナがいるのか……」


「今はレベリングする人たちを連れて円環山脈の方まで出ているみたいで、帰ってくるのは夜の十時を過ぎるみたい。レベルもここ二ヶ月で五十越えてるみたいよ」


「ごっ、五十!? あいつ二ヶ月前は三十六だったよな? レベル高いのにオレとそこまで変わらないペースだろ?」


 オレの驚きの言葉も、フーリエさんとシズクは至って冷静だった。


「まぁ、僕もその頃のレベルならそんな感じで上がってたよ」


「私もこの世界に来たときはレベル三十三だったが、外にほとんど出てなくても四十までは上がったぞ」


「えっ……ええ……」


 先輩二人の体験談にオレも言葉が出ない。結局この二ヶ月強でレベルは三十を超えたのだが、これはオレがレベル一からのスタートを考えれば相当遅いのだろう。


「だがレベル五十を越えると急激に上がらなくなると聞くぞ。そこはどうなんだ?」


 クラヴィスが双眼鏡でモンスターが出てこないか見張りをしながらそう言うと、最大であるレベル八十のフーリエさんがその質問に答えた。


「そうだよ。五十までは僕も三ヶ月かけて上げたけど、そこから七十五、更に八十まで上げるのに三ヶ月ずつ、しかもプレイ時間も最初の三ヶ月よりもずっと増やしてるな」


「五だけ上げるのに三ヶ月も必要なのか? さぞかし総プレイ時間も恐ろしいのだろうな……」


 デネボラがうつ向いてぶつぶつとなにやら言っている。一瞬聞こえた「三十二」という言葉から自身がレベル八十まで上がるのに必要な時間を計算しているのだろうか?


「それは現実世界の話だよ。セイリア君だってこの旅はモンスターよりもPVPの方がよほど多かったんだ。レベルが上がらなかったのも仕方がないさ」


 そんなレベルについての話で時間を潰し、船に乗って三十分、川を渡り終えた後に船着き場へと降りると、そこには大きな金属製のフレームで造られた頑丈そうな扉が目に入ってきた。

 リリヴィオラを防衛する門は重装備のプレイヤーが十人規模でモンスターから警備しているようで、この街のプレイヤーが出入りする度に厳しくチェックをしているようである。


「済まないが、ここがリリヴィオラかな?」


 フーリエさんが黒い帽子を脱いで先頭にいた鎧で身を固めたプレイヤーに問いかける。

 相手の表情は分からないが、特徴的な耳からフーリエさんがウンディーネ族のプレイヤーだと判断できたようで、思わぬ訪問者にかなり面喰らっていた。


「こんな所までどうしてウンディーネ族が?」


 慌てる番人Aの様子を見た番人BとCが加勢にやって来る。


「すごいな、二ヶ月でほぼマップの反対側からプレイヤーが来たのか……」


「おい、後ろにはヒューマン族もいるぞ。他のプレイヤーはこんなに早く他プレイヤーとやり取りを始めているのか?」


 武器こそ構えてはいないがかなり警戒しているようだ。別にゲームからの脱出の為に頑張る同じ仲間なのに、そこまでする必要は無いのでは?

 そんな思考でオレはフーリエさんと番人のやり取りを見ていた。すると加勢のためかグレースとシズクが前に出てくる。


「あの……ここにクリスタルローズのギルドマスターが居ると思うんですけど、私とそっちのシズクちゃんはギルドの一員なんです」


「そうだ、皆は怪しい者ではない。できれば通してはくれないか?」


 番人A、B、Cは一斉に顔を見合わせる。後ろにいた残りの七人の番人らもその様子を見ていたのだが、手を出してくる気配は無い。


「」


 番人Aがここで待つように指示をした。恐らくはこの場の責任者か?


「一応隊長に連絡してレナさんに直接聞いてもらう。そっちのお嬢さんたちの名前を教えてもらえるか?」


 かなりグレースたちを疑っているようだ。なぜ同じプレイヤーにここまでするのかは分からないが、ここでいざこざを起こすのも良くない。


「私はシズクでこっちのヒューマン族はグレース。できれば手早く頼む。こちらとしても長旅だったんだ」


「ああ、分かったよ」


 その言葉を最後に番人Aは後ろに下がりフレンド通話を始める。グレースとシズクは神妙な面持ちでその様子を見守っていた。


「大丈夫ですかね? なんか不穏な感じですけど……」


 オレは戻ってきたフーリエさんに二人が心配で様子を訊ねてみた。フーリエさんも同じ考えだったようで、困惑した様子で頭を掻いている。


「うーん、なんか街にあったのかな? 別に僕たちを警戒する理由なんて無いと思うし、何よりレナさんから直接話が行っててもおかしくないと思うけどね」


 見事な推測だが、オレにはあの番人達が怪しく見えて仕方無かった。なんというか、分かってて通せんぼしているような……。そもそもグレースやシズクは有名ギルドの所属だし、しかもそのリーダーのいるというのに、信用されていない事が問題だ。


 そうして五分後、番人Aが戻ってくるなり、金属製の兜によってくぐもった怒声でクリスタルローズの二人を指差す。


「隊長はそんな人たち知らないとレナさんから報告があったそうだ! 貴様ら嘘ついたのか!?」


「何言ってるのよ? だったら私から直接レナちゃんに通話したっていいのよ!」


「なっ、なにぃ?」


 あまりにもおかしい言葉にグレースが怒りの表情で噛み付いた。動揺する番人Aの声からして、レナに直接聞こうとしたのは想定外らしい。それでも番人Aは引き下がるどころか、手にしていた槍を構えると、大きく声を張り上げる。


「おい正体不明のプレイヤーだ。スパイの可能性がある! 即刻追い出すぞ!」


 まさかの実力行使に出たのだ。二人の言葉を信用していないところから、中に入れるとまずいことでもあるのだろうか?

 グレースとシズクはもちろんのこと、クラヴィスとデネボラの中二病コンビも戦闘体勢に入ったことで一戦交えようかというような緊迫した雰囲気になったその瞬間、どこかから大きな声が飛んできた。


「スットォーップ!」


 女性の声がしたかと思えば、先頭にいたシズクと番人Aの間に一人の猫耳女性が上空から落ちてきたのだ。

 服装は白を基調としたコートにシンプルな刺繍が所々を飾り、同じような様式のスカートを身に纏う。耳には小さな白猫のイヤリングが確認でき、白くしなやかな手首には金色の細やかな加工が施された腕輪(バンクル)が見てとれた。


 あまりに突然の事に少しの間辺りの時間がストップしたが、女性を確認した番人達がすぐに敬礼のポーズを構える。


「おっ、お疲れ様ですエレノアさん!」


 エレノアと呼ばれた女性は黒いブーツの鋲を鳴らして番人Aに詰め寄った。


「ちょーっとキミたち、荒っぽいことしよーとしたよね? なんでかにゃ?」


 ……にゃ?


 まさかの語尾にオレは困惑した。『にゃ』などと猫言葉を使うのを見たのは初めてだったし、いざ実際に聞いてみると違和感しかない。

 しかし番人Aの声が震えていたことから、ただ者では無いのだろう……。


「あっ、その……わっ、我々は怪しい者を排除しようと……」


「でも、そっちの栗色の髪の子は証拠を見せようとしてくれたよね? 何で確認する前に排除しようとしたのかにゃ?」


 グレースを指差して同じような栗色で長めの癖っ毛から出ている猫耳を揺らして突き詰める。その質問に番人Aは無言だった。


「にゃははっ、どーやらキミ達悪い人じゃなさそーだね? というか良く知った顔もあるしー」


 変な猫耳女性がこちらを振り返った。どこかうら若き乙女のような顔つきには、キラリと紅い瞳を輝かせる悪戯な雰囲気を感じる。


「もう大丈夫にゃ! キミ達も武器を下ろしてほしいにゃ」


 戦闘体勢だった四人に武器を下ろすように伝え、番人達を扉の横に移動させると小さく手招きをする。


「んじゃ、こっちにきてきてー」


 そう言ってケットシーの女性はぴょんぴょんスキップしてからオレ達を門の中へと入れてくれた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「うっわ……すごいなここ」


 雪のようなまっさらな白に精緻な装飾が込められており、どの建物も目を見張るような芸術品と化している。

 そんなメインストリートを歩いているオレの感嘆の声を聞いたのか、エレノアさんが自慢気な顔で振り向いた。しかし目線はすぐにオレの身に付けている物へと移っていく。


「キミの着ているコートはヴァン・フレリアだね? 綺麗な緑色してるじゃないの。いいにゃ、いいにゃー!」


 目をキラキラ輝かせてオレのコートを舐めるように観察していると、次はイーヤの足下へと視線を変える。


「あーっ! キミのやつもブーツ・ドゥ・レニアだね! 綺麗な水色だぁ……可愛いにゃ!」


「スパシーバ……えーっと、ありがと、ございます!」


 ごくごくたまにロシア語が漏れるイーヤ。そして最後に一番後ろにいた水色髪の魔法使いに狙いを定めた。


「そしてお久しぶりだね、フーリエくん! やっぱり他の子はいにゃいようだね?」


 好奇の目でフーリエさんと親しげに語りだしたエレノアさん。それに対するフーリエさんもいつもの優しい笑顔で返事をする。


「まあそうだね。まあ一人でも新しい世界をこの身で体感できて、すごくいい経験なっているよ」


「ふふっキミらしいや。それじゃ、早くタウンホールに行こうかにゃ」


 ―― フーリエさんとエレノアさんって知り合いなんだな……。


 そんなのんきな感想を胸に、オレはリリヴィオラの芸術的なメインストリートを歩いていく。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 歩き始めて一時間が過ぎた。ようやく遠くにタウンホールが見えたところで、エレノアさんが近くの馬車をチャーターしてきた。


「やっとこれ見つけたから、皆乗ってー」


 ――まさか一時間歩いてもたどり着かないなんて……。


 街に入る前から歩きっぱなしのオレの脚は既にヘトヘトだったが、これはかなり助かる。皆も同じだったようで、すぐに全員が乗れるほどの大きな馬車に乗り込んでいった。

 ゆっくり馬車に揺られて窓の外の景色を眺めながら、オレはエレノアさんに一つ質問してみた。


「ここの領主ってどんな人なんですか?」


「ああーそうだねぇ……」


 そう言うとエレノアさんは一つウーンと悩んだ表情を見せた後に「そうにゃ!」と、手をパンと心地の良い音を鳴らして答える。


「執務室に来たら分かるにゃ!」


「ええ……」


 答えになっていない答えにこれ以上はオレも質問を避け、十五分程馬車に揺られて目的地のタウンホールに到着した。

 時刻は夜の六時半。冬が近づいたことで五時を過ぎると暗くなってくるので、この時刻にはすっかり日も落ちていたのだが、タウンホールは白い壁がほのかに光を放ち、美しい夜景を演出していた。


「ここの建物の壁って全部光を溜め込む性質があるみたいで、夜中の一時位までは街灯要らずで明るいよぉ」


「かなり便利な素材だね。これは面白い」


 フーリエさんが興味ありげに観察しながらタウンホールに入ると、エントランスは豪華絢爛の言葉が一番似合う内装だった。

 かなり高い天井からは水晶でできたようなシャンデリアがいくつか吊り下げられ、床は建物と同じ素材だが外よりも発する光が弱い。どうやら素材の違いで明るさが変更できるのか?


「ほらほら早くするのにゃ! 豪華なのはここだけにゃ!」


 そんな言葉を残して駆け足と入り口近くの階段を上っていくエレノアさん。彼女のスカートがひらめくことで、マズイ光景が見えそうになったオレは目のやりどころに困っていた。


「はーい到着にゃ!」


 そう言って止まったエレノアさんの前にあった扉はかなり大きい。エントランス以外の階はどれも他のタウンホールと変わらないような内装だったが、この部屋だけはかなりの広さがありそうだ。


「ほう……光の領地なのにここは地味だな」


「確かに我も街中ではあまりの光に浄化されるかと思ったが、ここなら闇の力を思いっきり使えるぞ!」


 中二病の二人が嬉しそうにそれぞれの杖を構えるのを尻目に、オレ達はエレノアさんの後に執務室の扉をくぐる。

 内装は至ってシンプルなのだが、今までは領主の好みらしきインテリアになっていたのだが、ここは少しばかり違う点がある。


「ちょっとこれは殺風景すぎませんか?」


 グレースがいつもの癖を披露しながら苦笑する。そう、中は机に最低限のオフィス用品はあったのだが、壁紙などのインテリアが一切なく、ただの石造りの部屋だったのだ。


「ここの、領主さん、地味なの、好きですか?」


 イーヤもあまりの地味さに顔をしかめてエレノアさんに質問を投げかけてみる。するとエレノアさんはその質問を待っていたかのように嬉しそうに猫耳を動かし、とんでもない事を口にしたのだ。


「えっとね……ここの領主ってまだ決まっていないんだよぉ」


 その言葉に全員が凍りついた。唯一言葉を出したのはグレースの隣にいた忍猫だ。


「それでよくこんな大きな街を維持できたな……」

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