夢十夜
こんな夢を見た。
目覚めると、そこは板の間に直接ひかれた布団の中だった。湯治場の廊下、そんな場所。
大勢の人の気配を感じる。ガラスが入った格子戸がガタガタと軋み(確かに軋んで開いたの音は聞こえない)、次から次へと人が出てくる。
老人、老婆……。中年の男、あるいは女。同年代の男、女もいる。若者もいる。子どももいる。中には、無表情の男に抱かれたまだ生まれたばかりの赤ん坊もいる。
彼等は何か親しげに喋り、笑い、あるいは泣いているが声が聞こえない。笑い声が聞こえない。泣き声が聞こえない。 全く無音の世界だ。何一つ、聞こえない。人の声も、窓の外の烏の鳴き声、雀のさえずり、川が流れる音一切しない。車のエンジン音など、勿論しない。
私は気づいた。そこは色もない。白と黒の世界……。
ここは、音も色もない世界。
人々は自分の側らを通り過ぎ壁に突き当たり、左に折れ、二・三段の階段を降りて廊下の奥に消えていく。次々と消えていく。
風呂場か食堂があるのだろうと思う。
やがて、不思議なことに気づく。
人々は格子戸から出てきて、左に折れ、廊下の奥に消えていくだけだ。廊下の奥からは誰一人戻ってこない。
自分は納得する。あの奥にあるのは風呂場でも食堂でもない。死人の世界だ。だから誰も戻ってこないのだ。
こいつ等、死人なのだ。そして、こいつ等、自分のことに全く気づいていない。
気づかれたら、こいつ等の仲間に引き入れられてしまう。自分も死んでしまう。
女が近づいてくる。体が動かない。自分に出来るのは、しっかり目を閉じ、眠っている振りをするだけ……。
背中に汗をかく。
自分の顔の数センチまで、女の顔が近寄る気配を感じる。でも、女は息をしていない。女の息を感じない。やはり、女は死人なのだ。女が“ふっ”と笑うのを感じる。
……。
女が遠ざかっていくのを感じる。自分は目をそっと開ける。もしかしたら、目の前に女の顔があるも知れない。それでも、我慢できなくなり目を開ける。
女の後姿が見える。女は自分が生きているのを気づいたのか分からない。女は気づいていながら、自分をからかっているだけかも知れない。後で戻ってきて、自分を死人仲間に引き込むつもりかも知れない。
死人たちの列が続いていく。長い長い時間が過ぎていく。
……。
突然、死人たちの列が途絶えた。でも、何時、また現れるかもしれない。自分はじっとしている。
また、長い長い時間が過ぎていく。
もう、奴等は現れない。そう、確信する。
……。
自分は布団を抜け出し立ち上がる。何時までも、自分はここにいるわけにはいかない。
ここにある扉は二つ。一つは入り口専用。もう一つは、出口専用……。
自分は二・三段の階段を降りて、廊下の奥に進んでいく……。
ヤフーブログに再投稿予定です。




