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プロローグ 始まりは突然に

初心に帰って、転生もの(転移?)を書かせて頂きました。

随時更新予定ですので、ブクマ登録、評価・コメントお待ちしております。


 事実は時として、小説より奇怪な結果を及ぼす事がある。


その言葉の真意を知らない、伊賀沢陽介いがざわようすけは、その身を以てその言葉の意味を知る。


 陽介は幼少期からゲームに傾倒し、小中高の現在に至るまで、人生の大半をゲームと共に暮らしてきたと言っても過言ではない生活をしてきた。マルチジャンルなオールラウンダーで、特にアクション系のRPGや横スクロールは得意中の得意であった。


そんな陽介は、「Star Mythology」というオンラインゲームと出会う。


 数年前にサービスを一度終了するまで、約十年間、最初期からゲームを続けていた陽介は、「Star Mythology」、通称「スタソロ」の超古参ユーザーだ。記念装備や廃版アバター等、希少価値の高いアイテムや装備は勿論、強化合成難度の高い重課金装備も大量に保有していた。


 当時世界で最も流行ったオンラインMMORPG、スタソロ。何よりも、三頭身の愛嬌溢れるキャラクターデザインや、アバターの豊富さ、イベントの充実、特殊技能系のスキルや副クラス、とやり込み要素満載のそれは、日頃あまりゲームをしない人間や、女性にも人気を博した。


何より、ストーリーの奥深さと対照的なゆるふわっとした雰囲気に惹かれる人が多かったのだろう。


 結婚システムや、親友登録など、コミュニケーションツールとしての面白さも充実していた。その点では、コミュ力の低さに定評のある陽介は出番無しどころか、日陰者扱いだ。とは言え、それによるメリットもあるので、リアルの友人にこっそりと通知を送ったりもしていた。


しかし、数年前、スタソロは突如サービス終了した。

事前告知は受けていたものの、腑に落ちない人間は多かったらしい。

ネット上で論議を醸したり、運営へのサービス継続を志願するメールを送る者も居た。


勿論、陽介も相応の対応はしたが、それでも結局サービス終了という結果に落ち着いた。


かれこれ数年。燃え尽きた灰のようになった陽介は、珍しく届いた郵便物を手にした。

そこには。


『おめでとうございます。この度、「Second Story」としてサービス再開予定である「Star Mythology」のオープンβテスター一万名を選出した結果、オープンβテスターに選ばれました。付属のCDファイルをご使用のパソコンでダウンロード後、ゲームを起動して下さい。尚、初回特典として「精霊の導き」効果を付与させて頂きます。詳しくはゲームをプレイし、ご自身でお確かめ下さい』


思わず目を疑った。


 冷やかしではない。付属のCDには「Star Mythology ━Second Story━」と記載されている。そもそも、これが嫌がらせや悪戯の類であったとしたら、何故陽介がスタソロの熱狂的ファンである事を知っているのか、がまず第一の疑問だ。その後幾数にも疑問は重なり、結果としてこれが冷やかしの類ではない、という結論に落ち着くのである。


何はともあれ……陽介は高速で二階の自室に飛び込んだ。

逸る鼓動を抑え付けながら、震える指先でディスクをセットする。

やや耳障りな起動音と共に、データファイルのダウンロードが開始された。


「……スタソロが、またサービスを開始したんだ…!」


じわじわと、沸々と、込み上げて来る高揚感に思わず頬の筋肉が緩む。

久しく味わっていない、未知なるゲームへの飽くなき探究心。

今まさに、陽介はその葛藤の渦に巻き込まれ、歓喜に思わず叫びだしたくなっていた。


『ダウンロードが完了しました』


簡素な一文を見た瞬間、即座にスタートボタンをクリックした。


『警告 ━Warning━』

『このゲームを本当にプレイしますか?』


何だこれは、思わず陽介は首を傾げた。


 その警告は「グロテスクなシーンや暴力的シーンがありますので、ご注意下さい」のような、事務的な忠告ではなく、善意によるものに近い。プレイする事に対して、プレイヤーの賛同を得るなんて前代未聞と言える。完成し終えたデータではないのだろうか、陽介は静かに「Yes」を押した。


『最終警告』

『このゲームをプレイ後、暫くの間戻る事は出来ません。プレイしますか?』


しつこいヤツだ。今回は運営の開発チームが総入れ替えでもあったのだろうか。

そう思わされるほどに、今までのスタソロとは毛色が違うのだ。

兎に角、早くプレイしたい陽介は、カチカチッと苛立ちまぎれに「Yes」を押した。


『前回のデータを引き継ぎますか?』


「……前回、って事は前のデータか? 何だ、引継ぎ可能かよ。ラッキーだな」


陽介は心の底からそう感じていた。

相応の資金を貢ぎ、相応の対価として希少な装備を大量に買い揃えた廃課金アカウントだ。

引き継がない手はないだろう。


「Yes、っと」


『では、「Second Story」━━Ep1:世界崩壊より、ゲームを開始致します』


「…な、なんだ、仰々しいな」


カウントダウンが始まり、徐々に興奮が増していく。

カウントはどんどん目減りしていき、とうとうカウントが1になった時。


「あ………れ……?」


目の前がぐらり、と歪んで、陽介はその場にどさりと倒れ込んだ。

ぼやけていく視界、意識の手綱を放すまいと懸命に瞼を押し上げるが、ぷつり、と意識が途切れた。


誰も居ない個室で、ただ一つのデスクパソコンがウィンドウを明滅させている。


『ヨウスケ・イガザワの≪オールドヘブン≫転送完了、ゲームを終了します』


ぶぅん、と情けない音を上げて、ウィンドウが暗転した。


かくして、伊賀沢陽介は、敢え無くゲームの世界に転生する事となったのである。



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