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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
第1章 復活戦!! VS強豪・大野山南高校
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第4話 勝負の始まりは前日から

 運命の試合を明日に備えての練習。入学式以降も少しは時期を逃した新入部員を期待しながらも結局は1人もおらず、結果的に今まで通りの9人で今年も開始となったわけなのだが。


「なぁ、新田ぁ」


「んん? なんだぁ?」


 最上の語尾を伸ばした問いかけに、春馬もあえて語尾を伸ばして答える。


「ぶっちゃけ思ったんだがさぁ」


「おぉぉ」


「各ポジションに控え要員って言うかぁ、2人以上守れた方がよくねぇ?」


「……やべ。しゃべり方に騙された」


 得意な勉強は何? とか、好きな野球選手は誰? とか、軽い感じの内容かと思いきや、わりと深刻な問題であった。


「そうか?」


「結構、深刻な申告だろ」


「僕はあえてそのダジャレをスルーする。思ったんだけどさ、ピッチャーとショートは僕と新田ができるだろ?」


「うん」


「でもさ」


 皆月を指さす。


「キャッチャーは他にいなくね?」


「いないな」


 寺越を指さす。


「ファーストは他にいなくね?」


「キャッチングセンスある奴ならある程度はできるだろ。つーか、猿政が経験者」


 続いて近江。


「セカンド」


「僕と大崎」


「サード」


「僕とお前と大崎と因幡」


「外野」


「近江が中学校まで外野手。僕は、ちょっとライン際に切れるのが苦手だからセンター限定になるかな。楓音はレフトが苦手だからライト・センターで、あとはお前と、皆月。寺越は中学校で外野じゃなかったかな。つまり猿政以外は外野ができる」


「意外に埋まってるな」


「去年の春にポジション被りまくりだったのを、スッキリする様にコンバートしたからな。大概の奴は複数守れるだろ」


 特にセカンドは春馬・近江・大崎の激戦区であった。結果は肩の強い春馬をショートへ、足の速い大崎をセンターへコンバートで解決したわけだが。


「あえて問題を挙げるなら……キャッチャーか?」


「だな」


 キャッチャーは皆月以外の全員に経験がない。春馬も中学までに8つの守備位置に手を出したことはあるが、唯一手を出していないのがキャッチャーである。


「あ、ちょうどいいところに来た」


「……どうした?」


 春馬は冷たいオーラをまとった因幡を呼び止める。因幡は小柄であるものの、外野からホームまでノーバウンドの好返球を見せるほどの肩を有する。単純な能力の問題ではかなりキャッチャーの適性が高いはずだ。


 春馬と最上は経緯を説明。因幡は2回ほど頷くが、最終的には静かに横へ首を振った。


「……それはダメだ。俺は、助走を付けないと速く投げられないし、外野手だからモーションが大きいから、ランナーに走られ放題だ」


「そっか。因幡には適してると思ったけど」


「すまない。……だが、俺個人の意見だが、猿政はどうだろう?」


「猿政かぁ」


「いや、新田、因幡。猿政は向かないだろ」


 最上が首を振る。


「あいつは体が大きすぎて、屈伸運動が辛いだろ」


「だとすると、猿政、因幡と現役キャッチャーの皆月を除いて強肩と言うと」


 春馬と最上はお互いを、因幡は両手で2人を指さす。


「「お前」」


「お前ら」


 ピッチャーとしての強肩を持ち、小柄ではないが屈伸運動も苦としない。控え捕手としては適性が高いとは言える。


「でもなぁ」


「新田の気持ちは分かる。僕もピッチャーとショート兼任でキャッチャーとかやりたくねぇし」


「俺も、2人には負担が重すぎると思う……」


「「「う~ん」」」


 悩む3人。そんなところで小さい女子が飛び跳ねながらやってくる。


「ど~したの~」


「……春馬。近江は?」


「いやいや。因幡さ、自棄にもほどがある。近江がランナーを刺せるとはおもえねぇし」


 そもそも近江が中学校時代に外野からセカンドに転向したのは、肩が同級生に比べて非常に弱いからである。だというのにわざわざ強肩が求められるポジションへと転向させようというのは、まったくかみ合わない話である。


「なんなら、やってみるか?」


 最上の提案に因幡と春馬の視線が近江へと向けられ、それに驚いた彼女は身を引かせる。


「え……何? 何されるの?」


 男子3人からの視線に、今から地下実験場に連れて行かれて改造されるのではないかというほどまでの恐怖心を抱きつつある近江。そんな彼女や最上たちへと春馬が指示を出す。


「近江、ホーム。最上、1塁。因幡、セカン」


「よっしゃ。任せろ」


「……分かった」


 大崎と因幡が飛び出すも近江は呆然。


「ほら。キャッチャーしろ」


 腕を掴まれ連行される。


「キャ、キャッチャーぁぁ? なんで?」


「なんでも。はい、早く」


 春馬はみんなが練習を始めようかとする中でマウンドに上がり、因幡は2塁ベース上へ、最上は1塁ベース上。近江は普段のグローブを手にホーム後方でしゃがみこむ。


「えっと、要するにランナーの最上君を殺せばいいの?」


「おぅ。殺してキツネそばにすればいい」


「マジで殺さないでくれよ?」


 最上は一歩一歩と小さめのリードを取り始める。


 野球を知らない人にとってはかなり物騒な会話にも聞こえるが、併殺・封殺などの言葉のように、野球ではアウトにすることを『殺す』と表現することがある。当然ながら今の会話もまさしくそれである。


「……春馬。シャレにならない」


「ちょ、シャレにならないのかよ。頼むからシャレになってくれ」


 そして準備万端と構えた最上へ、「いったい何をする気なんだ」と、他の野球部員5人の視線が集まる。


『(さて、因幡もOK、最上もOK、そして近江もOK)』


 全員が準備をしたのを見て、春馬がセットポジションに入る。


 長い空白の時間。1秒、2秒、3秒……とにかく長い。


 そして5秒が経った時だった。


『(よし、GO)』


 春馬の左足が小さく上がり、それに合わせて最上がスタート。彼は近江の方へと視線を向けたまま2塁へと疾走。


『(さぁ、刺せるかな?)』


 クイックモーションから春馬の右腕が振り下ろされる。そして投げてすぐに春馬は送球路を空けるために1塁側へと回避。近江は春馬の投球を中腰で捕球をすると、極限まで無駄をなくした小さな送球モーションで2塁へと送球した。


『(え?)』


『(やべっ。これは間に合わねぇ)』


『(……ナイスコントロール)』


 マウンド後方でバウンドした送球は、2塁ベース上、タッチしやすい低めへときれいに決まる。


「……タッチ。キツネそば」


 最上はスライディングも、ボールの入った因幡のグローブは、最上の右足とベースの間に挟まっている。


「すげぇ。近江が最上を刺した」


「近江殿。やるのぉ」


「近江さん凄い」


「うわぁ。俺の立場ねぇし」


「近江ちゃん、送球はやっ」


 寺越、猿政、大崎、皆月、楓音と各々の感想を述べるが、全員が一様に驚愕や賞賛の声。


「近江すげぇぇぇ」


「えっへん」


 そして春馬の賞賛に対してはマウンドへ駆け寄るなり精一杯に胸を張る。


「もう、新田。こいつキャッチャーにしようぜ」


「「「あ、キツネそば」」」


「もう調理済みかよ」


 だがさきほどの送球を見た限りでは近江のキャッチャーはありだとは言わざるを得ない。たしかに肩が弱いと言うのは否めない事実だが、捕ってからリリースまでの迅速な動き、無理をしないワンバウンド送球、そして抜群のコントロール。それらを総括すると大崎クラスでもスタートのタイミングや、ピッチャーのクイックの上手さによっては刺せるかもしれない。


「だけどなぁ。キャッチャー近江は怖いんだよなぁ」


「何が?新田も見ただろ。あの送球。キャッチングセンスなんて新田と双璧だろ。だったら迷う事なんてない……」


「クロスプレー」


「わけがない。迷うよな、それは」


 近江の身長は約150センチ。それでも横に大きいならまだ分かるが、むしろ縦に長いスリム体型。体重もどれだけ重く見積もったところで45キロと言ったところだ。そんな相手に猿政のような巨漢がぶつかってきたとすれば……


「やってみるか?」


「「「イジメ?」」」


 今度の最上の提案はなかなか笑い事では済まされない。高校野球であればまずタックルは無いだろうが、彼の言う「やってみよう」とはおそらくタックルなどの過激な本塁突入。そんなものを小さな女子にかました時点で、傍から見ればひとつの暴力行為である。


「つーか、言うほど大きな問題はないだろ。そもそも1試合でホームクロスプレーになるのはそこまでの回数ないぞ」


 本塁クロスプレーはホームにランナーが帰って来るたびに行われるわけではない。悠々ホームインと行った時にまでクロスプレーはしないし、それに最上の去年度防御率(甲子園大会を除く)は奇跡の1点台。仮にクロスプレーが非常に多い展開になったとしても、せいぜい1試合で3個が上限ではないだろうか。


「それもそうか」


「……それに春馬。これは緊急捕手でレギュラーじゃない。ついでに、プロ野球じゃともかく、高校野球でそんな激しいクロスプレーはない」


 因幡のもっともらしい指摘に頷き納得する春馬。


「近江はキャッチャーやってみたい?」


「イエス、ウィードゥ」


「Weは私たちだから、正しくはIな」


 彼女は春馬の指摘も聞かずに破顔する。


「えへへ。一回、キャッチャーやってみたかったんだぁ」


「ふ~ん。ピッチャーじゃなくてキャッチャー?」


「ピッチャーもやってみたい」


「考えとく」


 要するにいろんなポジションをやってみたいもよう。そう話が発展しかけた時、最上がふと気づいた。


「それで新田。こいつキャッチャーにしたらサインどうすんだ?」


「遠隔リードでよくないか? 僕なり、最上なり、皆月なりが近江にサイン出せば。そもそもお前と皆月ってノーサインだろうが。わざわざサインなんて気にせずともよかろうに」


「知ってたのか?」


「そりゃまぁ1年間一緒に野球やってるし、ポジションがサイン筒抜けのショートだし。皆月にストレートとシンカーだけで抑える頭は無いと思うし」


 言い換えれば最上のボールはノーサインでも捕ることができると言う考えもある。彼の持ち球はほとんど曲がらないシンカーただ1つ。それもストレートとまったくと言っていいほど球速が変わらない魔球と言えば魔球。


「でも新田の変化球はノーサインじゃ捕れないだろ。つーか、僕のシンカーもキャッチャー視点ならそこそこ変化する、って皆月は言ってたぞ」


「嘘つけ。変化の鈍いシンカーのくせして意地張りやがって」


「ムービングファストと言ってほしいな」


「ムービングスローの間違いだろ。120そこそこでファストって言ってたら、強豪校のピッチャーにしばき倒されるぞ」


「まぁまぁ落ち着けって。義光のシンカー、マジで捕る側にすれば思いのほか沈むぞ?」


 ケンカに発展しそうな2人の仲裁に皆月が入ってくる。


「マジで?」


「おぅ。当然だけど捕る場所は打つ場所よりも後ろだから。打つ点ではせいぜいストレートと比べてボール1つ沈む程度だろうけど、捕る点では2つ3つくらい沈んでるんじゃないか?」


「皆月はよくそれをノーサインで捕れるよな」


「誰でも捕れるって。こいつ、ストレートとシンカーで投球フォーム違うし」


「へぇ。こいつが?山陰の狐にあるまじき大失態だな」


 そうは言うものの、1年間一緒にプレーしてきて気付いているのがキャッチャーだけと言うフォームの違いであれば、そこまで大きなものではないはずである。仮に大きなものであれば後ろを守る春馬はまず気付いているはずだ。


「いいだろ別に。そこそこは抑えているんだから。そんなことよりも、近江にキャッチャーやらせるなら多少なりともコーチしないと。さすがに急造捕手にするわけにはいかないし、下手すれば怪我に直結するポジションだからな」


 最上は小さく息を吐く。


「新田。今日は近江を借りていいか? ちょいとコーチする」


「最上がやるより皆月の方が良くないか?」


「キャッチャーの練習にはピッチャーいた方が良いだろ。それに皆月もいた方がいいけど、1人の練習相手に2人体制は残った側の練習は人数が少なすぎて辛いからな。必要とあらばその時に引き抜かせてもらう」


「そいじゃ、近江は預けた」


「えぇぇ、春馬君のコーチがいい」


 文句を漏らす近江であったが、


「僕でもいいけど、最上と皆月の方がキャッチャーのコーチとしては適任だと思うぞ。僕なんて高校に入ってピッチャー始めたばっかりだし」


 あっさりと断られてしまう。


「少年野球の時にピッチャーしてたよね?」


「少年野球の経験なんてノーカン。それに続けているんだったらともかく、中学の時に野手転向したから。はい、ともかくさっさと練習再開するぞ。最上と近江は端の投球練習場でキャッチャーの練習。あとのメンバーは各々個別練習。人数少なくて回らないからな」


「わ、私も春馬君と練習を……」


「おい、近江。行くぞ」


「ひゃわぁぁぁ」


 抵抗するも最上に猫のように首根っこを掴まれ、投球練習場の方へと連行されていく。今こそ後ろ髪を引かれる思いで連れ去られているが、いざ練習を始めれば誰も及ばないほどの真剣さで打ちこむことであろう。


 いつも近江に付き合わされているが今日は1人でフリーの春馬へ、ここぞとばかりに楓音が走り寄る。


「春馬く~ん。トス上げて~」


「バッティングか?」


「バッティング。もしかして他にやりたいことあった?」


「いいや。別に。そのかわりと言っては何だが、あとで僕にもトス上げてもらっていいか?」


「もちろん」


 楓音は笑顔で答えるとティーバッティングのためのバットを取りに、春馬はネットとボールの確保へと向かう。


 ボールケースを両手で持ったままバックネット裏に来るなり、端の方からティーバッティング用ネットを引っ張り出す春馬。そして左打ちの楓音のためにネットの左側にボールケースを置いてその上にまたがる。左バッターにとってみればレフト方向からボールが来るような感じだ。


「お待たせ~」


 楓音はバットを、軽いものと普通のもの2本を両手にして持ってくる。そして普通の重さのバットを近くに置いて、ネットの前でバットを構える。


「準備いいか?」


「いいよ~」


 その声の直後にボールを下から放り投げると、楓音はしっかりと真芯で捉えて打ち返す。打球はネットのど真ん中に鋭く突き刺さる。そして春馬が続いて2球、3球と投げていくと、楓音も時折フォームを乱しながらもほぼ10割をネットの中へと打ち返していく。


「しっかしバッティングよくなったよな。1年前、最上のインハイストレートにビビって涙目だったのが嘘みたいだ」


「ちゃんとバッティング練習してるからね。よく近くのバッティングセンターにも行ってるし」


「何キロ?」


「140のストレートと、120のカーブのミックス」


「打てるのか?」


「最近は、なんとか芯で打てるようになったところかなぁ」


「また成長したな」


 話もほどほどにトスを上げると、楓音は流れよく打ち返す。


 野球経験自体は1年間しかない。しかし野球そのものに対しては小学生時代から興味があっただけあり成長が非常に早い。それどころか野球規則に関しては最上並に詳しく、バントや走塁技術で言えばチームトップクラスであろう。


 楓音が春馬のティーバッティング。最上と近江のキャッチャーコーチ。因幡と猿政の70メートルキャッチボール。寺越、大崎そして時々近江のコーチに駆け付ける皆月による守備練習と、各々が自分のやるべきこと、やりたいことを見つけて練習に励みながら時間が刻一刻と過ぎていく。


「あと……5球」


「はい。ラスト5」


 楓音のティーバッティング(2回目)も終わりにさしかかる。打つごとに安定してくるバッティングフォームで、既に50スイングもはるかに越えたあたりだ。


「かのぉぉぉぉん」


 急に聞こえた大きな声に驚いた楓音のバッティングが狂わされ、一瞬だけボールをミートするタイミングが遅れてしまった。打球は流し打ちになって、ネット左に座っていた春馬めがけて一直線。


「うおぉ、あぶっ」


 間一髪。ボールは瞬時の回避行動をとった春馬の左腕をかすめた。


「うあぁぁぁ。かのぉぉぉぉん。私の春馬君になんてことぉぉ」


「なんで僕がおめぇの私物になってんだ。つーか、近江が大きな声で驚かせたのが悪いんだろうが」


 駆け寄ってくるキャッチャー防具装備の近江に対し、転がり落ちた春馬が睨みを利かす。


「怪我は無い? 怪我してたら泣くよ?」


「案ずるな。避けた」


「すごっ」


 体をさわろうとする近江に対し手を払いのけて答える春馬。普通でも、普通でなくても避けられる人はいない。避けたというよりはボールが当たらなかったというのが正しい。


「ご、ごめん。本当に大丈夫?」


「大丈夫だって。ほとんど当たってないから。それに悪いのは近江だから」


 楓音はボールがかすったように見えた春馬の左腕を手に取り、そのあたりを右手で軽くなぞる。傷も腫れてもなく、触れられたことによって痛みを感じている様子もない。


「本当に怪我はないみたいだけど……ごめんなさい……」


 責任を感じて落ち込みうつむく楓音。そんな彼女の頭に春馬は手を乗せると、2度、3度と軽く叩いてやる。


「気にすんなって。怪我はなかったんだから」


「あぁ、楓音だけずるいぃ。私もぉ」


「そうだな。近江も来い。ついでにヘルメットも取っとけよ?」


「えへへ。ペコリ」


 近江がヘルメットを外し口に出しながら頭を下げると、春馬は楓音の頭から手を引き、


「うっせぇんだよ。このバカがぁ」


「ふぎゃあぁぁぁ」


 拳骨が近江の頭へと垂直降下。痛々しい音がすると同時に、近江が地面に倒れ込む。


「ひぎゅぅ……痛い」


「わざわざ大声を出すんじゃない。僕だってビビったぞ」


「ごめんなさい……」


 悲しそうな目で落ち込みうつむく近江。ほんのり上目づかいで春馬を見上げる。


「即座に最上の元へ戻るか、もう1発欲しいか選べ?」


 さきほどの楓音を真似したものの、あいにく彼には通用せず。むしろさらに怒らせてしまっている。


「うやぁぁ。ごめんなさぁぁぁぁい」


 ヘルメットとマスクを忘れず拾い上げ、投球練習場の方へと飛んでいく。そんな彼女にあっさりと背を向けて定位置へと戻る。


「さて、さっさと練習再開するぞ」


「しゅ、春馬君? いいの?」


「怪我は大丈夫って」


「近江ちゃんの方。あそこまでやったら嫌われちゃうんじゃ」


「あいつは大丈夫。基本、マゾヒストだから」


「嘘っぽい」


「嘘。だけど、多少殴ったくらいなら気にすることはない。本当に嫌われそうになったら後々が面倒だし、頭を撫でて機嫌を取っておけばいいし」


「近江ちゃんって軽い?」


「頭撫でたら簡単に懐く」


 もっともクラスメイトであれ友人であれ、親族か恋仲でもない限り異性の頭を撫でることは意外にハードルが高いことでもある。実際、春馬は近江と楓音を除けば異性の頭を撫でたことは1回もない。


「だから、微妙に最上にも懐いてるだろ?」


「春馬くんには圧倒的に及ばないけどね」


 春馬と近江は傍から見る分には恋仲とそん色ない。実際に近江は春馬に対して『大好き』と宣言をしており、春馬もなんだかんだ言っておきながら『最上以上のいい相方』という評価をしているというように、内面的な意味でも非常に相性がいい。ただしじゃあ恋愛感情があるのかと言うのはNOであり、どこまで言っても2人は友達関係としてのベストなのだ。


 彼はキャッチャー練習をする最高の相方へと目を向ける。


『(明日は意地でも勝たないとな。世間に女子野球を認めさせるためにもな)』

ようやく試合描写です

長かったです(ルビの修正しかしてないけど)

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