プロローグ
総合鈴征学院、続いて蛍が丘高校の試合前ノックも終わり、あとは選手整列を待つのみとなった。両チームがベンチ前に並び、審判からの集合指示を待ちわびる。
「あいつが立花か」
「キャッチャーらしいと言えばキャッチャーらしいけど、らしくないと言えばらしくない感じだよな。あれ」
春馬と最上は相手ベンチの前に並ぶ、キャッチャー装備を付けた選手を凝視する。身長は170センチくらい。あまり大柄な体型ではなく、キャッチャーにしてはかなり華奢である。また、盛り上がり落ち着きがない相手の中では、比較的落ち着いた様子を醸し出しているのは、離れた蛍が丘高校選手陣にもはっきりと見て取れる。
「しかし、立花道雪ねぇ。こっちは最上義光だし、1回戦からイロモノ対決だこと」
「さしずめ、最上家VS大友家ってとこか?」
戦国好きの人たちからすればかなり有名どころの勝負。しかし一般大衆からすれば非常に地味すぎる戦いである。
「まさかと思うけど、実際に戦国時代でその2勢力って戦ったことあるの?」
「ないと思うぞ。最上家は今で言う山形・秋田。大友家は大分かな。ほぼ日本列島の真反対にあるわけだし。ただあえて言うなら、関ヶ原で最上は東軍、立花は西軍に属して戦ったってくらいかな。確か戦線が別々だったから直接衝突はないけど」
「そっか。近江。関ヶ原はどっちが勝った?」
高校では地理選択だが、中学で歴史はかじった春馬。もちろん答えはしっているが、勉強がてら、日本史選択の近江に問いかけてみる。
「え? せ、関ヶ原って確か……」
「ヒント。戦国時代。年号は1600年」
最上の出したヒントに顔を明るくした近江。春馬も最上も、さすがにヒント出しすぎか? と顔をしかめるが、
「織田信長」
「で、勝ったのは東軍だから、最上家の勝ちっちゃあ勝ちか。縁起がいいな」
勝手に死者を勝者とした近江を無視し、話を元に戻す。
「新田でも縁起を担ぐんだな」
「多少はな。昨日の夕食はトンカツだった」
「あ、私もトンカツ~。以心伝心? やっぱり私と春馬君は心通じてる~」
「以心伝心なのは僕と近江じゃなく、僕の母さんと近江の母さんだろうな」
1試合目からセンバツ出場校と地方の強豪の潰し合い。さらにその後には全国クラスの強豪が備えているにも関わらず、空気としては和み始めていた。
悩んで勝てるなら悩めばいいが、少なくとも悩むだけでは自体は好転しない。ならば……
「選手、集合」
「1回戦、全力で突破するぞぉぉぉ」
「「「おぉぉぉぉぉぉ」」」
今は目の前の1戦に全力を尽くすのみ。
ついに夏が始まります
久しぶりの野球描写にテンションが上がりました
楽しかったです
(小学生の作文)