第1話 蛍が丘高校野球部
島根県立蛍が丘高校。偏差値であれば県下で底辺中の底辺であり、進学校でもなければ、スポーツの強い学校でもない。野球部の去年度夏は県予選1回戦敗退。秋は県予選1回戦をギリギリで突破するも2回戦で敗退。サッカー部に至っては公式戦において0勝。バスケ部、バレー部などもほぼ似たり寄ったり。吹奏楽、演劇部、将棋部など文化系の部活も目立つような働きをしているとは言い難い。
地元で「蛍が丘に通っている」と言えば、鼻で笑われるようなところだ。
そんな学校がつい1ヶ月前から全国的に有名となった。
野球部の選抜高等学校野球大会。俗に言う春の甲子園へ、21世紀枠による出場である。
しかし野球部は甲子園出場相応の成果を残したわけでもない。他校の模範となるような何かをやっているわけでもない。
4月上旬。春休み中のグラウンドにて、蛍が丘高校の野球部、2年生に上がったばかりの9人は守備練習をしていた。
「セカンドぉぉ」
ホームのあたりで副キャプテンが二遊間へと球足の速い打球を放つ。するとセカンドの選手は逆シングルで捕球後、2塁ベースカバーのショートへとトス。ショートは即座の1塁へと流れるような動きで送球。
ありふれた野球部の光景である。あえて1つだけ他の野球部と違う点を挙げるとすれば、女子がいることであろう。
「ちょい送球低いから、もう少し高め意識な」
「りょうか~い」
共に二遊間を構成する男子部員に指摘を受けて返事をするセカンドの女子部員。
彼女――近江美優は、日本全国で初めて高校男子硬式野球の公式戦に出場した選手の1人である。一昔前までは女子が男子硬式の試合に出ることはできなかったのだが、近年、高校野球の規則が大きく分けて3つ変わることになった。1つ目は女子高生の出場許可。2つ目は選手兼任監督の立ち位置の明確化。3つめは越境入学、野球留学の人数制限である。
分かりやすく言えば、女子が男子硬式の試合に出場できるようになり、選手兼任監督がキャプテンと同等の位置であると定義され、野球を目的に県を越えた選手に対して出場人数規制が掛けられるようになったのだ。
蛍が丘には彼女のような女子高生球児や、ショートを守る新田春馬のような選手兼任監督が存在する。そしてこの学校には、
「外野暇ぁぁぁ」
もう1人、女子高生球児がいる。ポジションの関係、そして能力の関係で近江と比べて影が薄いのだが、ライトの彼女も高校野球史上、初めての女子野球部員である。
「うるさぁぁい」
「まぁまぁ。いいじゃないか。近江も落ち着けって」
「でも、でも春馬君。楓音がうるさいんだもん」
ライトの彼女の名前は新田楓音。春馬と同姓であることで親族かと思われることが多いが、生物学的にも親族ではなく、養子縁組のような意味で戸籍上でも親族ではない。要するにまったく血のつながりのない。もっとも、遠い先祖と言う意味でなら繋がっている可能性も少なからず存在する。
「でも、うるさくて集中できないよぉぉぉ」
「甲子園に比べれば相当静かだと思うけど?」
「むうぅ」
春馬にあっさり論破される近江。歯を食いしばって春馬を睨みつけるも、身長が150センチもない彼女には威圧感も圧迫感も恐怖も存在しない。存在するとすれば小さな彼女が精いっぱい背伸びをして威圧している事による健気さくらいのものだろうか。
「仕方ない。ほら、ライトぉぉ」
さきほどからノックを打っている副キャプテンは一二塁間を破るゴロを放つ。すると待ってましたと言わんばかりに楓音は打球へと全力疾走。球際で一瞬だけ走るスピードを緩めると、左手のグローブの先を地面に付けて少しの砂と一緒にすくい上げる。ボールを右手に持ち替え、中継の近江へと送球。
「甲子園でもあの守備だったら、まだ結果変わってたのにね」
「それは言うなって。野球を初めて1年で甲子園だし、あれだけの守備ができれば十分上手い方だろ。もともと楓音も運動神経がいい方じゃないし」
春馬の脳裏にはマネージャー希望の楓音が、近江によって無理矢理に部員にされると言う過去の映像が回想のように浮かび上がる。甲子園では10を越えるエラーを喫していたわけだが、それも野球経験と緊張を考慮すれば合格点であろう。
「たしかに一番の敗因はエースの大乱調だもんね」
「まったくだ。あの化け狐め、っと。あぶねぇなぁぁ」
「と言いながら捕るんだね」
雑談をしている春馬の元へと一発のライナー。それに少し反応が遅れながらも難なくキャッチするあたりさすがショートだ。だてに黄金の二遊間(近江自称)の片割れではない。何はともあれ、彼はそのボールを打った犯人へと目を向ける。
「あんだと、こらぁぁ。練習中にベラベラしゃべんなぁぁぁぁ」
「うるせぇぇ。火だるま狐がぁぁぁ」
先ほどからノックを打っていた副キャプテンは、エースの最上義光。春のセンバツにおける一番の戦犯とされている人間である。地区大会レベルであれば120そこそこのストレートと、ほとんど変化しないシンカーで防御率1点台と言う半ばミステリーをやらかすある種のトンデモ投手であったりするわけだが、全国の壁は高かった。
「お前だってリリーフして27失点だろうが」
「僕はアウト4つ取ってるし。本職はショートだし」
不毛な言い争いを続ける2人。外野に立っている3人はそれぞれ面白そうにそれを眺め、キャッチャーを含む内野陣もただただ聞くのみだ。それも長引くにつれて見苦しくなってくるわけで、サードを守っていた巨体の学生がマウンド付近で言い合いを続ける彼らへと歩み寄る。
「だいたいなぁ、一番美味いのはカレイの煮つけだろうがぁ。おめぇは鮭でも口に咥えてろ」
「鮭の何が悪い。塩焼き美味いだろう。絶品だろ」
「何を言うか。ベストはクジラの竜田揚げ……じゃない、じゃない。お主らはいったい何を言っとるのかの?野球の話からどうしたらそんな話になるのか説明をしてほしいものだのぉ」
「「マジすみません」」
『(やべぇ、横綱こえぇぇぇ)』
『(おい、新田。ここは停戦協定といこう。すべての骨を粉々にされる)』
『(りょ、了解)』
目で合図をしながらなんとなくだがお互いの考えを読み取り、威圧的な問いかけをしてくる猿政泰治から距離を取る。4番としての威圧感ではなく力士を彷彿とさせる体格による圧迫感が凄まじいのだが、それを口にした時点でどうにかされてしまうのではないかと言う気持ちもしてしまう。
「どうして仲良くできぬのだ」
「いやいや、親友だぜ。ケンカするほど仲がいいってやつだ。な、最上」
「おぅ。親友。できれば『もがみ』じゃなく『さいじょう』と言ってほしかったけどな」
即座に笑顔で肩を組む2人。
「それならいいが、別に試合で負けたのは2人だけの責任じゃなかろう。ピッチャーを支えられない野手にも問題があろうて」
真実を突かれて黙り込んでしまう2人。たしかにあの試合で負けたのはピッチャーだけの責任ではない。しかし、それを真に受けて野手に責任を押し付けてしまえば責任逃れをしているような気がしてしまう。さらに春馬は監督、最上はエースと言う立場がその責任逃れに対する意識を強くしたのだ。
「わすもサードとしての責務を果たしているとは言い難い。皆もそう。全員がベストなプレーをできたとは言えない。一見すればピッチャー1人の炎上かもしれぬが、ピッチャーを1人にしてしまった野手全員に責任がある」
「「さ、猿政かっけぇ」」
「そうだぞ。お前ら2人で責任負いすぎだ。そもそもピッチャーに責任があるって言うなら、その相方であるべきキャッチャーはもっと責任があるだろ」
「「そうだな。皆月が全て悪い」」
「ちょ、2人とも。さすがにそれは」
「うむ。なぜキャッチャーとあろうものが1番にピッチャーを支えてやれなかったのか。それは擁護できぬ的を射た指摘だの」
「さ、猿政まで?」
映画であればやられ役Eくらいの役柄を取得しているであろう弄られポジション皆月純。キャッチャーとしては平均以上の肩、かなり上手い守備力。チーム内打率は楓音に次いでブービー。平均的に見れば上手くないわけだが、正捕手と言う重要な立場だけで存在感を確立している悲しき部員だ。
レフトには因幡翔汰と言う、寡黙すぎて普段は存在感が皆無と言う人間も部内にはいるが、こちらは強肩かつ打順は2番。それもよくあるバント専門ではなくクリーンアップも任せられる打者と、試合ではそこそこの存在感を醸し出している。そこは非常に大きな違いである。
「新田殿には最悪、近江殿という相方がおるが、最上殿にはおらぬからなぁ。相方を見殺しにした時点でその責は重かろうて」
「いやぁ、俺は俺で投手陣を支えてるし、それに義光には春馬と言う親友が」
「お主は新田殿にどれだけ負担を掛ければいいのだ。監督、ショート、リリーフ。それだけやらせておきながら、まだ負担を掛けようとするとは」
「僕は別にそんなことないぞ。その程度の負担は気にするな」
「うむ、そうか? だが、皆、新田殿がいろんな負担を背負っているのは分かっておる。1人で背負い込むではないぞ?」
「そうそう。私もいるからね~」
春馬の背に触れるはキャプテン・近江。さきほどまでケンカをしていた2人の間に割り込み、春馬の方へと顔を上げる。
「問題解決した? そしたら練習始めよ。すごく暇ぁ」
「近江はまいどまいどマイペースだよな。最上、頼んだ」
「しゃあねぇな。まずはセカンいくぞ」
「はぁい」
彼女のマイペースに2人とも険悪ではないが難しい雰囲気を吹き飛ばされた。春馬がショートの守備位置に戻り、最上はマウンド前方に投げ捨てたバットを拾い上げて右バッターボックスへ。
「皆月、ボール」
「へい」
皆月からボールをもらった最上はセカンドへ。しかし打ち損じた打球はジャンプしたセカンド近江のはるか頭上を突き抜け、右中間へ一直線。普通ならば右中間をぶち抜き、ツーベースやスリーベースは免れない。が、
「大崎君、中継」
「近江さん。行くよ~」
50メートル5秒9(非公式)の快足を飛ばしてあっという間に打球に追いつくと、中継に入った近江へと送球するは大崎俊太。近江より少し大きい程度と体格に恵まれておらず非力な感が否めないが、蛍が丘の1番センターであり攻守共にその俊足を生かしての活躍が光る。
「お~い、最上ぃ。しっかり打てや」
「次こそセカン」
最上は春馬からの野次を聞き逃し再び守備位置に戻った近江へとボールを打つ。高く跳ねあがった打球は二遊間のややセカンド寄り。バウンドにタイミングを合わせて素手で掴むと、ジャンプして向きを変えながらの1塁送球。
「はい、セーフ」
チーム唯一の左利きで長身のファースト・寺越信也は、近江の送球を受けるなりサラッと口にする。
「えぇぇ、アウトだよぉ」
「いや、セーフタイミングだな」
近江の反論も最上が寺越に助太刀。
「アウトォォォ」
「いや、セーフ。ま、あんな打球をアウトにできる奴はほぼいないから気にすんな」
なお反論する近江をなだめると、一瞬だけ春馬に目を向ける最上。
「もう一丁いくか?」
「もう一丁」
すぐに近江の方へと向き直り問うと、返事を聞いて打球を一二塁間へ。左手を伸ばしてもぎ取ると1回転してから1塁へと送球。今度は十分アウトのタイミング。
「セーフ」
「絶対に今のはアウトぉぉ」
「悪い悪い。冗談だって、怒るなって」
「うぅ、春馬く~ん。寺越君がイジめたぁぁ」
「へい、最上。暇そうにしてる外野にも打ってやれ。特にレフト。因幡が暇そう」
泣きつく近江を無視して最上へと指示を出す。レフトの因幡は山際に沈みゆく夕日をみつめて、静かに何かを考えている様子。戦国時代あたりの茶人が、春の夕暮れを見ながら一句考えているようにも見える。
「無視しないでよぉ」
「分かった、分かった。あとで構ってやるから今は練習に集中」
「は~い」
こんなオール新2年生9人によって構成されたイロモノ野球部が、蛍が丘高校野球部である。
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「どうした、楓音。大丈夫か?」
「多分」
「保健室に行くか?」
「ごめん、少し放っといて」
春馬が肩に軽く手を乗せるも、彼女は面倒くさそうにそれを払いのけ、冷たく小さく低い声で口にしてから机に伏してしまう。
入学式前日の朝。今日は午前中授業で午後からは授業が無いとのことで、部活が無いメンバーや帰宅部はどこに行こうか、何をしようかと画策中。県内底辺の蛍が丘高校には、好き好んで勉強する人や、授業が無い事を悲しむものなどいない。にも関わらず楓音は朝から恐ろしいまでに憂鬱そうな顔をし、たまに体を動かすのだがそのたびにため息を吐いていた。
「楓音、どうしたんだろ? すげぇ怠そう」
「病気じゃなさそうか」
最上は自分の席に座ったまま、右後ろを振り向きながら答える。
「朝に弱い、ってわけじゃないよな。昨日まではピンピンしてたし」
「保健室はいいって言ったんだろ?だったら大丈夫だろうよ」
「でもなんだか心配だな」
最上の机に腰かけていた近江も首をかしげる。
「絶対に様子がおかしいよね? 楓音って持病持ちだっけ?」
「いいや。一応は監督として全員の健康状態は把握してあるけど、少し猿政が肥満なのと、近江が長期型回帰性突発欲情病な以外は野球部員9人に異常はない……はず」
楓音はついに重そうな腰を上げ、重い体を引きずりながら教室を出て行く。近江も熟練の探偵のように楓音の後ろに付いていき、教室のドアから顔だけを出して彼女の行く果てを見据えた。
「あれ? 近江さん、何やってるの?」
「た、探偵ごっこ」
しかしその迷探偵はあっさりと他クラスからやってきた大崎に見つかってしまった。
「新田君はいる? 校長先生からの伝言」
「春馬く~ん。校長先生からの伝言だって」
「はいはい。で、何?」
制服の上着から手帳とペンを取り出しながらドアの前まで来る春馬と、おまけの最上。
「4時間目が終わったら校長室だって」
「了解。てか、なんで大崎が?」
「出し忘れていた春休みの宿題を職員室まで出して来たら、校長先生と偶然会って」
「ふ~ん。あ、そうだ」
春馬は大崎を見て思い出した。
「大崎って、楓音と1年で同じクラスだったよな?」
「楓音さんと? そうだけど、何かあったの?」
「凄く体がだるそうなんだけど、前々からそうだったのかなぁって」
「1年の時からそう言う事よくあったよ? 決まって月初めとかだったかなぁ」
「決まって月初め、ねぇ。もしかしてすぐに調子よくなったりする?」
「普通は朝から帰る前まではかなり怠そうにしてたかなぁ。野球部の練習はなんとか頑張ってたみたいだけど。でも、だいたいは3日くらいで元気になってたかな?」
「なるほど。ありがと。だいたい理由は分かった」
「そう? よく分からないけど……とりあえずは校長室呼び出しの件、伝えたから」
「おぅ。そっちの件もありがとな」
やや駆け足気味に自分のクラスへと戻る大崎。春馬は頬をかきながら、振りかえった。
『(さすがに大崎も原因は知らないか。まぁ、普通は男子であれば保健体育でも習う機会はまったくないからな)』
するとそこにいたのは近江。
「ねぇねぇ。なんで? なんで楓音は機嫌悪いの?」
「お前って本当に女子か?」
「へ?」
制服の裾を掴んで揺さぶる近江に冷たい目を向けると、彼女の耳元に口を近づけて小さな声でつぶやく。
楓音の機嫌が悪い理由は、春馬や最上にとって分からなくても問題ない事ではあるが、近江の場合は分かるはずのもの。それどころか、近江にとっても月1のペースで経験があるはずであるのだが。
「あ、生、ふぎゃっ」
「あえて耳打ちしたのに意味ないだろうが」
「ひうぅ。痛い……」
「なんでお前が知らないんだよ」
「だ、だって、私、ほとんどそんなことないもん」
「個人差か?」
楓音の不調の原因は女子ならば九分九厘誰でもありうるもの。とはいえ、影響に関して個人差はあるようだ。
「小学校4年生くらいの時は凄く辛かったけど、野球してたら忘れちゃうし、すぐに慣れちゃった」
近江の発言からヒントをもらい、楓音の不調の原因を察した最上。
「なんで新田はそれを知ってんだ?」
「そりゃあ女子球児を率いる監督だからな。さすがにそこんとこ無知なのはまずいだろ。それより、さっきの断片的な情報で最上が答えに行きついたのが気になる」
「女子の知り合い」
『(ふ~ん。たしか最上は1人っ子だから、従姉妹とかかな?)』
この話もほどほどに最上の席に戻り放課後の練習について話していると、朝会が始まる前に楓音が教室へと帰ってくる。教室を出る前と一緒で体が重く怠そうで、顔にもいつものような元気はまったくない。
『(こういう時の対応の仕方、保健体育の先生にでも聞いとくかな?)』
近江と楓音を同じ女子としてひとまとめにするのは難しそう。こうなると近江は規格外として、楓音のような真の女子の扱い方について知っておいても、監督と言う立場上はまったくおかしなことではない。
『(校長に会いに行くついでに、保健室にでも寄っていくか)』
「で、新田。聞いてるか?」
「あぁ、悪い。なんて?」
「今日の練習なんだけど……」
「最上と近江に任せた。校長の話がどれくらいになるか分からないからな。上手い具合にやっておいてくれや。話が終わったら戻ってはくるけど」
「そうか? だったら適当にやっとくぞ」
「はいは~い。バッティングしたい」
「だとよ。それでいいか?」
近江の意見を耳にした最上は、春馬に確認を取る。
「他の部活に迷惑かけない程度にな。3時までは野球部で後はサッカー部って分けてあるけど、陸上部とかは普通にやってるから」
「じゃあ、守備練習な」
「守備ぃ? 春馬君がいない時のセカンド守備練習は面白くない」
「じゃあ他のポジションやってみれば? 外野とか、いっそ普段、新田の守ってるショートとか」
「あ、面白そう。やっていい?」
笑みを浮かべながらこちらも春馬に許可を求める近江。
「ご自由に」
「じゃあショートやってみる。春馬君の気持ちが分かったら、アピールしやすいもんね」
「「アピール?」」
「え、アピールじゃなくてその、なんていうんだっけ? 助けるやつ」
「助ける……アプローチとかアシストか?」
春馬が頭の英単語帳を探って単語をひねり出すと、近江は顔を上げて彼を指さす。
「そうそう。そのアシストしやすいし」
「アピールとアシストは間違えるなよ。球児としてもそいつはまずい」
「最上君だって間違えてた」
「いつ間違えたよ? 少なくともここ数年で間違えて使った覚えはない」
「1年学年末の英語のテスト」
「すみませんでした。なんで覚えてんの?」
間違えて使っていた。もっとも心の底から間違えていたわけではなく、『空欄に当てはまる単語を下記のものから選べ』と言う問題。単語ごとに割り振られたカタカナを書くタイプだったことを考えるに、九分九厘はうっかりミスであろうと考えられる。
「私が、高校球児なのに間違えちゃダメだと思うってツッコんだ記憶がある。野球だとアピールプレーとかあるから」
胸を張る近江だが非常に残念である。なぜそこまで覚えておきながら自分で間違えてしまったのだろうかと不思議だ。
「お前って奴は……まぁいいか。放課後は任せたぞ」
「へいへい。なんかあったらメールなり電話なりしろよ?」
「春馬く~ん。練習来てね。寂しいからね」
「前向きに検討させていただきます」
今作を大賞に送ったところ、評価シートで『無駄が多い』との意見を貰いました
まさしくその通りですね。
まぁ……あえて修正はしませんが。