第2話 恋する野球博士
文化祭も間近に控え、2時間目の現代文も終わりをつげての休憩時間。
「楓音。大丈夫か? 生きてるか?」
「大丈夫だから……放っておいて」
先月のこの時期はゴールデンウィークであったことから、2ヶ月ぶりとなる楓音の超絶不調期。春馬も彼女のそれにはまったく慣れず、どうしても放ってはおけない気持ちがある。
気にかけてもらっている楓音はと言うと、声を掛けられても素っ気ない返事。机に伏しながら時折ため息はかかさない。病気なのではないかと思わざるを得ないほどの状況。いや、もはや病気であった。近江はさておき、春馬たちのクラスの女子達。彼女らにも機嫌のすぐれない日もあろうが、すくなくとも楓音のような異常すぎるまでの絶不調期が存在しているような様子はない。
春馬が楓音の机の横で心配そうに見おろし、彼女の前の席の近江、左の席の最上も目線だけは向けている。
「はぁ……」
ゆっくりとしんどそうに頭を上げると、黒板の右上にある掛け時計の時間を虚ろな目でチェック。
「うっすら目の下にクマができてないか?」
最上がつぶやき、春馬も彼女の目の下を凝視してみるとたしかにうすく黒いラインのようなものが入っている。
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「うんうん。大丈夫、大丈夫。だから放っておいて」
「でもなぁ、さすがにクマがでるって」
春馬が彼女の肩に手を掛けた時だった。
「だから、放っておいてっていってるでしょ」
勢いよく立ち上がった楓音は左拳をわずかに引いて、真っ直ぐな軌道で春馬の右頬へとそれを突き刺す。
非力な女子相手とはいえ、完全無防備で無警戒だった春馬はいとも簡単にバランスを崩し、後方にあった最上の机を押し倒すように床に倒れ込んだ」
「春馬君っ」
「に、新田ぁ」
大きな音にクラス中の視線が窓際前列に集中。春馬を殴った楓音も、なぜ自分が彼を殴ったのか分からないというような驚きの表情。右手で口元を隠しながら左手を彼へと伸ばすのだが。
「いてて……」
春馬が目線を上に向けると、動揺した楓音には自分を睨みつけているように感じてしまったのだろう。一瞬だけ体を震わせて身を引く。
「楓音っ」
そして近江の怒るような声に緊張感が最大限まで達した楓音は、何も口にしないままわき目も振らずに走って教室から飛び出してしまった。近江は彼女を止めようとするも、それよりも殴られた春馬が気になって追いかけることはしない。
「怪我はない?」
「ちょっといいとこ入ったかも」
右頬に手を当てる春馬。口を切っていることもなく、殴られたことによる直接的な外傷は少し赤くなっている程度。大きなけがではない。
「あっ、擦りむいてる。待っててね。絆創膏持ってるから」
「保健室に行くか?」
「いいや。この程度の怪我なら、野球部の練習でもちょくちょく作るし……」
「あ、近江、待て。先に軽く消毒してしまおう」
絆創膏を貼ろうとする近江を制し、最上はカバンから消毒液を出すなりティッシュに少しだけつけ、彼の擦りむいた左ひじを消毒。しみるような痛みから、瞬間的に春馬の顔が歪んだ。
「なんで最上君、そんなもの準備してるの?」
「誰かが部活で怪我したときの準備。よし、これでいいだろ。近江、任せた」
「うん。最上君、ちょっと春馬君の左腕を支えてて」
慎重に絆創膏を貼りつける。こちらもあまり大きな怪我ではない。
―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――
楓音は左手を握って俯きながらに見つめる。
どうして殴ってしまったのか。彼は自分を心配してくれていたのであって、嫌がらせをしてきていたわけではないのに。
腕には彼を殴った時の感触が、目を閉じると自分を睨んできていたあの目が、耳には近江の怒号が。頭に残ったあらゆる感覚が一気に押し寄せてくる。それを打ち消すように、大きなチャイムの音が鳴り響いた。
『(あっ……授業、始まっちゃった)』
普段は真面目に授業を受けている楓音。居眠りは何度もあるが、授業に意図的に出なかったことは1度もない。しかし今日は教室に戻りたくない。正しくは今、このタイミングで春馬に会いたくないのだ。
チャイムが鳴り終わりゆっくりと目を開ける。するとそこに薄汚れた青色ラインの上靴が目に入ってきた。チャイムで足音が聞こえなかったようだ。
顔を上げるとそこにいたのは……
「楓音。やっぱ、ここにいたか」
「……」
無音の叫び声をあげ、そして春馬の横を通り抜けて逃げようとする楓音。春馬はそんな彼女の左腕を即座に掴んだ。
「や、やだ。離して」
とにかく今は逃げたい。彼と一緒にいたくない。
手を払おうとするも男子と女子の力の差は歴然。右手で腕を掴んでいる春馬は、左手を上げる。
『(やだ、やめて……)』
さっきの仕返しに殴られる。そう悟った楓音は目を閉じ空いた手で頭を隠す。
殴られる覚悟を決めて彼の拳を待つ……が、それはいつまでたってもこない。それどことか壊れ物を扱うような手つきで左肩を掴まれ、押し倒されるように段差へと座らされる。
「体、重いんだろ。だったら無理して立つなって」
春馬の言う通りにし、フェンスを背に段差へと座る。彼はその横に並ぶように腰かけた。
「な、殴らないの?」
怖がりながら片目を開けるも、まったく春馬に怖さは無い。
「なんでお前を殴らないとダメなんだ?」
「その……仕返し」
「仕返し? 殴った方が良い?」
首を振る楓音。好き好んで殴られたがる女子は、いないわけではないが少数派だろう。
「別に殴ったところで何も好転しないからな。それに、放っておけって言ったのに、僕がちょっかいだしたのが悪いからな」
「でも、春馬くんは私を心配して。それに殴っちゃった……」
言い切る前に彼は彼女の頭の上に左手を乗せて2度3度と撫でる。
「その程度は気にすんなって。僕も気にしてないから」
「でも、でも、殴っちゃったんだよ? 春馬くん、右頬が腫れてるし……」
「だから、そこは気にするな。この程度、野球部の練習でもたまにあるから」
「うん……でも、気になっちゃう……」
「う~ん。要するに……」
春馬は悩みながら片目を閉じる。
「仕返しされないのが心配なんだろ? 何かがありそうで」
そこで1回頷く。普通なら仕返しされる状況。だが、そこで仕返しされないのは、楓音にとってむしろ恐怖を感じたのだ。何かあると。
「じゃあ、仕返しと言っちゃなんだけど、ひとつ要望聞いてもらおうか」
「その……あまり酷い事は……」
「しないつもりだけど、楓音がどう思うかは知らん」
春馬は楓音の目の下に浮かんだクマを見つめながら、
「ちゃんと寝てる?」
「あんまり……昨晩、あまり寝付けなくて。授業中も眠くはなるけど、話を聞かないとダメだから……」
「ふ~ん。じゃあ決定だな」
春馬は楓音の頭を掴むと、思いっきり自分の方へと引き倒す。
「へ、え、えぇ?」
焦る楓音をよそに、自分のふとももの上に楓音の頭を押し付ける。
「ひざまくらくらいしてやるから、昼寝しとけ。そのうち倒れるぞ? それとも男臭い僕のひざまくらは嫌か? 嫌なら嫌でいいけど」
「嫌……じゃない」
動揺から抵抗していた楓音もすぐに体から力を抜いて目を閉じる。
「でも、本当にこれが仕返しなの?」
「お前が僕を殴ったのと、お前が僕の言う事を聞くので貸し借り0だろ?」
そう言われると釣り合うのだが、殴った挙句にひざまくらをしてもらうのは、果たして貸し借りで天秤が釣り合うのかと言われると難しい。
「春馬くん……ごめ、ごめんなさい」
「泣くなって。ほら、ハンカチ貸してやるから涙拭け。今日は使ってないから、その点は気にすんな」
「でも、私を心配してくれて、探しにきてくれて、それで殴ったのを許してくれるくらい優しいのに」
「優しいかろうがどうだろうがは人の問題。それでその人が免罪されるわけじゃない。今回は完全に僕の非。つーか、そこまで僕、優しいか? 最上の方がよっぽど温厚だろ」
「ううん。春馬くん、優しい。近江ちゃんが懐くのもよく分かる」
「まぁ、そう言われて悪い気はしない、か」
照れて楓音から目を逸らす春馬。
「春馬くん」
「何?」
「その……手、握ってくれたら嬉しい」
「こうか?」
楓音が伸ばした手を掴む春馬。掴まれた楓音としては、さきほどのような恐怖心は無く、むしろ彼の手から暖かさが伝わってくる。
「あっ」
「次はどうした?」
「じゅ、授業、出なくていいの?」
「僕は1年生の時からサボり常習犯だから、楓音さえ問題なければ大丈夫」
「私は……今は春馬くんのひざまくらで寝てたい」
「そっか。じゃあ、そろそろ静かに寝ようか。しゃべってばかりだと時間の無駄だぞ」
「うん」
楓音派春馬の手を両手で握り、胸元で使い抱え込むと目を閉じる。それに対して彼は彼女の頭を軽くテンポよく撫で始める。
「気持ちいいか? 嫌ならやめるけど」
「ううん。続けて……」
特定の時期になると夜は布団に入っても2時間以上、時には一晩中寝られなかったこともある楓音。しかし今は非常に眠れそうな気配が漂い、目を閉じて5分も経たないうちに意識が薄れていくのを感じる。
『(うぅ、気持ちいぃ。すごく寝やすいよぉ)』
しいて問題点を挙げると、肩より下がコンクリートの床に接しており痛いくらい。それもひざまくらの心地よさによって相殺され、ほとんど気にならないほどだ。
「お願い……ひとついいかな?」
「そろそろ寝ようや」
「うん。だけど忘れないうちに……」
「手短に。それ言ったら、ちゃんと寝ろよ?」
「きっと、これからもこんな不機嫌な時、あると思うんだ。その時は……」
「その時は?」
「また、ひざまくらしてくれる?」
「それで楓音の不眠が解決するならやってやるよ」
「ありがとう」
「おぅ。それじゃ、おやすみ。起きるまで一緒にいてやるから安心して寝とけ」
「うん。おやすみなさい」
さきほどまでの不機嫌さもどこかへと消え去り、静かで規則的な呼吸に代わりながら防御力0の無防備さで睡眠状態に移行していく。そんな楓音を撫でていると、春馬の目の上で何かがちらつくような気がした。ふと見上げると、3メートルほど高い場所から、金髪、サングラスでタバコを咥えた、いかにもな不良学生が顔を覗かせた。そして彼はサングラスを外して、口パク&ボディランゲージで春馬へと伝える。
『(俺、どっか行った方がいい?)』
『(いや。そこにいてもいいですよ? でも、こいつにはバレないように。それとこれはシークレットで)』
『(OK)』
『(それと、煙草はダメ。屋上が閉鎖されますよ?)』
『(ゴメン。最後の一本。これでやめる)』
彼はタバコを潰して携帯用の吸い殻入れに放り込むと、春馬がいる方とは反対側にあるハシゴを降りて下に降りる。そして影からそっと顔を出しながら春馬にアイコンタクト。
『(じゃ、俺は戻っとくわ。さすがに気まずいし)』
『(ありがとうございます)』
春馬も軽く頭を下げる。
彼は3年生の不良少年。生徒会副会長の春馬とは接点のなさそうな感じもあるが、春馬も相当なサボり常習犯であるため、意外にも蛍が丘の不良集団とは仲がよかったりする。当然、喫煙・飲酒は野球部への問題になるため、春馬がやっている不良らしい行為と言えば授業サボりくらいのものである。
極力音をたてないようにしたような、ドアを開け閉めする小さな音がして、屋上は春馬と楓音の2人だけになった。
「今まで頑張って耐えてきたんだよな。よく頑張った」
楓音の風に揺れる髪をなぞる。
温厚な楓音が他人に手を出すのを今までに見た事が無い。そんな彼女が他人に手を出すほどの状況だったのだ。4月の大崎の話からして、1年生の時から不機嫌な時期があったと言う事である。つまりそれは長年の間、不眠を解消できずに、しかしそんなキツイ体調であるにもかかわらず、野球部の練習や授業など頑張ってきたことを意味するのだ。
「今度からは1人で悩むなよ?」
―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――
「いいなぁ、いいなぁ」
「……」
無視する様に本を読む春馬へ、近江が顔を近づける。生暖かい彼女の息がかかるほどの至近距離であり、体に関しては既に密着している部分もある。
「いいなぁ、いいなぁ。楓音だけズルい~。私もやってほしいなぁ」
「……」
春馬もほんのり苛立ってくるが、本にできる限り集中して意識しないようにする。読んでいるのは、つい去年引退したプロ野球の書いた守備の意識に関する書籍である。
「お、近江ちゃん……春馬くん、困ってるから……」
顔を赤らめながら止める楓音を、近江は鋭い目で睨みつける。
「いいよね、楓音は。春馬君にひざまくらしてもらったんだもん。私だってひざまくらしてほしいもん。春馬君のおひざでお昼寝したいもん。手を握ってもらって、頭なでなでしてもらいながらお昼寝したいもん」
なぜ近江美優と言う人間は、妙なところで勘が鋭いのかと思う春馬と楓音の両名。なぜか2時間目、3時間目と続けて授業にいなかった2人を探し始めた近江。いとも簡単に屋上で見つけてしまったのだが、ちょうど彼女の目に入ったのは、春馬に頭を撫でられながら、ひざまくらでお昼寝している楓音の姿であったのだ。それを見て何も思わない近江であるわけがないのだ。
「ねぇ~、聞いてる?」
「聞いてない」
「聞いてよぉ」
「やだ」
「聞かなかったら、春馬君と楓音が付き合ってるって言いふらす」
「言いふらしたら、今度からは絶対に頭を撫でてやらない」
「あうぅ、そんな事言わないでよぉ」
近江、返す刃で撃沈。
「それで、何? いい加減読書に集中させろよ」
「私にもひざまくらして?」
「最上に頼め。あいつならやってくれる」
「悪い。そいつは断らせてもらおうか」
春馬の期待をコンマ2秒で裏切る最上。こちらも有名プロ野球選手が書いたバッティングに関する本を読みながら、視線を外さずに答えた。
「だって。と言うわけでひざまくらしてよぉ」
「やだ」
「なんで? 私の事嫌い? もしかして楓音みたいな体型のいい人が好きなの?」
「別にそう言うわけではないけど、話がそれで解決するならそう言う事にしておこう」
近江は周りを見渡しながらクラスメイト女子の胸部あたりをチェックする。
「うぅ、なんでみんな、あんなにはっさくがいいの?」
「はっさく?」
「あれだ、新田。あの……『発育』だ」
「なぁ、なんでお前、それが分かるの?」
「文脈」
学問的な頭の良さでは春馬の方が遥かに上だが、今のような学問以外の頭の良さでは最上の方が上なようで。
「って言うか近江ちゃん。みんなの発育がいいって言うよりも、近江ちゃんの発育があまりにも悪すぎ……」
「うにゃああああ」
「わぁぁぁぁ。待って、待って。ごめんってぇぇぇ」
「私よりも胸大きいからって調子に乗るなぁぁぁぁ」
楓音に飛びかかる近江。急襲に楓音は回避行動を取りきれず、胸を揉まれたり、体を触られたりとやりたい放題。
「スケベ親父だなぁ、こいつ」
最上は本から視線を逸らして、馬鹿と被襲撃者を傍観。一方で春馬は、ようやく近江から解放され本を読み続ける。
「なるほど。あえてグローブは閉じずすくい上げる感じか」
「これ以上、新田の守備が上達したらどうなるんだろ。本当の意味で守護神か?」
「なれるものなら守護神になりたいかな。それより近江。あまり騒ぎすぎると右手首悪化するぞ」
「大丈夫、大丈夫」
春馬の忠告にもそう答えて、楓音への襲撃を辞めない近江。
「ねぇねぇ、春馬君」
「なんだ?」
「春馬君って、胸が大きい人が好きなの?」
「たまに近江が男子なんじゃないかって思う事がある。週3くらいで」
それはもはや『たまに』なのだろうか?
「ねぇねぇ、どうなの~」
「どうでもない」
春馬は近江を無視して本を読み続ける。だが彼の後ろの席には、火に油を注ぐキツネがいるのである。
「たしかこの前のセンバツの時、夜に男子勢で話したよな。みんなはどれくらいの胸のサイズが好きなのかって」
「オイこら、最上」
春馬の反応からして事実である。
「それで? それで?」
「新田はなんて言ったかな?巨乳でもペッタンコでもなく、服の上からラインが分かるくらいがいいって言ってたな。たしか誰だったか、共感してた記憶がある。その直後に、ブレザーの上から浮かび上がる体のラインの良さに関して何人かで語り合ってたし」
「うるせぇ。お前は服の上からはパッと見分からないけど、よくよく見ればあるくらいがいいとか1人で演説してただろうが。このロリコンギツネ」
近江は楓音から離れると、自分の胸元を確認。そこには関東平野が広がっていた。続いて楓音の胸元をチェック。そこにはエベレストやキリマンジャロ、富士山や日本アルプスには及ばないものの、絶妙な高さを有する中国山地があった。
目を鋭くした近江は楓音の脇の下から腕を入れると、彼女の胸をわしづかみ。
「お、近江ちゃん?」
「むぅ……やっぱり大きい。春馬君は楓音くらいが好きなの?」
「新田的には楓音くらいがベストなんじゃないか?」
「おいロリコン。余計な事を言うな」
楓音は頬を赤らめ、近江は不機嫌になり始める。
「あのさ、なんでさっきから僕の事をロリコンって言うんだよ。別にロリコンじゃないけど?」
「小学生の彼女がいたんだろ?十分にロリコンじゃねぇか」
「それは弁明の余地が欲しい。だって当時は僕も小学生だぞ?同世代だからいいじゃん」
「いいや。お前はロリコン。それで決定。数学の公理くらい確実」
「ふざけんな。たしか、数学の公理って証明されてないだろ。無効だ。そんなもん」
「いや、この前証明されたぞ。それでアメリカの数学者がフィールズ賞もらってたじゃないか」
「マジかぁぁぁぁ。やっちまたった。間違った知識を使っちまったぁぁぁ」
論破される最上。だが、実は春馬の話は嘘であったりする。
しかしそうとも知らない最上は敗北を感じて机に伏してしまう。
最上義光・討死 再び神の国・出雲の地に散る
「うぅぅ、楓音、ずるい。こうしてやるもん」
「ひゃっ、や、やめてぇぇ」
抱きついて楓音の胸を揉み始める近江。しかしそうしている分には最上にも、そして春馬にも無害であることは言うまでもない。
「あとはこうしてバウンドに合わせつつ」
楓音の悲鳴を耳にしながらも、特に気にする様子もなく本へと視線を落とす。こうした騒がしい中でも読書ができるのは、1年間の特殊な訓練のたまものである。
「ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして珍しく、近江のような悲鳴が教室にこだました。
はい、そこ。サブタイトルがネタバレとか言わない