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蛍が丘高校野球部の再挑戦 ~悪夢の舞台『甲子園』へ~  作者: 日下田 弘谷
最終章 蛍が丘高校野球部 最後の舞台へ
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プロローグ

8月31日



 夏休み最後の日。いつもなら炎天下、グラウンドに出て野球の練習をしていたであろう。


 しかし本日はそのようなことはなかった。


「だから等比級数の和の公式はだな・・・・・・」


「ふにゅう」


 新田春馬家にて(近江が残した)夏の課題を片付けていたところである。


 曰く進学校たる大野山南や琴ヶ浜女子などは「大学受験前の最後の夏。宿題など出さずとも勝手に勉強はするだろう」と宿題はないらしいが、蛍が丘高校の学生はそんなことしようものならば勉強などしないのである。だからこそ最後の夏にも容赦なく宿題が出るらしい。


「うぅ、野球したい」


「宿題片付けろよ。てか、その手じゃ無理」


 嘆く近江であるも、夏大会で負傷した彼女の右手首は未だ万全とはいかない。日常生活ではさほど支障がないレベルまで回復したようだが、油断は禁物なのである。


「ねぇ、春馬くん。ここなんだけど」


「あぁ、ここはだな」


 そして楓音が示したこちらも数学の問題である。と言っても真面目な彼女は既に夏休みの宿題を終え、センター試験に備えて自主勉強中である。ただちょうど彼女が示した問題は過去10年で最難レベルといわれた年のもの。近江の勉強を見ているよりは勉強になると春馬は、楓音の横に並んで座って問題を読み込む。


「ここを次の問い2の形式の分数に変換しようとすると・・・・・・」


 彼は問題自体に集中しているが、隣の楓音は少し緊張気味。春馬が自分のすぐ隣に座っており、少し動けばくっつきそうなくらいなのである。


「セ、センターは道筋が決まってる分難しいよね」


「そこは人と問題によるかな・・・・・・」


 彼女は無理やり勉強に集中して気をそらす。


 センター試験は楓音の言うとおり、最終的な答えに向けて誘導される形式だ。だからこそそのまま解けばいいから簡単というのも真理であるが、自分にとって解きやすい形を取れないという難しさもまた真理だ。なお今回は後者だったらしい。


 そうした経緯もあり問題にのめりこむ両名であるも、それを見て面白くないのは近江である。


「うぅ、春馬く~ん」


「最上、任せた」


「はいはい。どれよ」


 もう1人の勉強会参加者・最上。近江は覗き込む彼に問題を指差し指示しながらも、一方で別の不満をぶつける。


「むぅ、春馬君、楓音とずっと一緒にいるよね」


「時間を計ってみるか? お前といる方が断然長いぞ」


 それだけ手がかかる子ということである。それは近江の両親も分かっているようで、時折近江の親からお歳暮感覚で割りといい贈り物がくるくらいである。本当に近江の親も大変そうである。


「でもいいじゃん。今日は楓音はお泊りなんだしぃ。一緒にお風呂入れるよ? 一緒のお布団で寝られるよ?」


 その近江の発言に顔を真っ赤にする楓音。


「やるわけねぇだろ。おめぇじゃあるめぇし。まさ猿政の下敷きにするぞ」


「あれは痛かった」


 春のセンバツの時、春馬の布団にもぐりこんだと思ったら猿政のものであり、寝返りを打った巨漢に押しつぶされる経験をした近江。彼女と楓音を同じ世界の人間とするのは楓音に失礼である。


 それはさておき新田楓音。


 本日は新田春馬家にお泊りである。



 というのも・・・・・・


 楓音父「ちょっと出張で関東に・・・・・・」

 楓音母「知り合いの結婚式で北海道に行かないと・・・・・・」

 春馬母「あれまぁ。その日、ウチの夫も私も不在なのよねぇ・・・・・・」

 新田父「じゃあ皆が不在の間、2人で一緒に協力してもらう?」

 後でそれを聞いた春馬&楓音「「なんでやねん!!」」



 女子1人で数日留守番させることに不安を覚えた楓音の両親と、しっかり者とはいえ全家事を1人にやらせるには不安を覚えた春馬の両親による利害関係が一致したらしい。いくら幼児どころか新生児時代からの関係とはいえ、その発想に至った4人の大人たちの思考回路に近江並みの不安を覚えたのは春馬だけではなはずである。もっとも楓音は表向き動揺しながらも満更ではない様子だったとか。


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