プロローグ 死に霊の悪夢
全国で約4000校が目指すひとつの頂点。
夢の舞台――甲子園
多くの高校球児たちが汗を流し、涙を流し、そして笑みをこぼし。結果はいずれにせよ、全ての球児たちが素晴らしく気持ちのいい夢を見てきたことだろう。
しかし必ずしも夢とはいい夢だけではない。
2回の表。茨城県・龍ヶ崎新都市学院大学附属高校の攻撃。6番の1年生の打球が甲子園のバックスクリーンで跳ねる。
「今日これで3本目、か」
キャッチャーは呆然とボールの行き先を見据える。そしてその視線をわずかに上へと逸らすと、ねずみ色に染まった空と、スコアボードの見たくもない数字が目に入ってくる。
『42』
おそらくは春のセンバツ史上、それどころか春夏通じて最多となる大量得点だ。エースが初回でアウトを1つも取れずに15失点でノックアウトされ、続いてマウンドに立ったリリーフも1回と3分の1を27失点。
スタンドを見つめるのは、バカバカしい試合展開に応援をやめる生徒の一方で、必死で「頑張れ」「まだこれから」と気休めにしか聞こえない声援を送る保護者や教員たちだ。しかしそんな声援もまったく届かない。
ダイヤモンドを回るバッターが2塁ベースをしっかりと踏むことすら確認せずに、マウンド上で項垂れるピッチャーへとゆっくりと歩み寄る背番号4のセカンド。彼の背中に書かれた6の数字に軽く手をやる。
「もう、ダメだよ。諦めよ」
男ばかりであるはずの甲子園のグラウンドには不釣り合いな高い声。
「……試合放棄」
「うん……このままだと、壊れちゃうよ」
甲子園大会初となる試合放棄を決意させる一言。彼は右腕を振り上げると、マウンドを力強く殴りつけた。
「また……今度は力を付けて頑張ろう」
島根県・蛍が丘高校。1年生9人で挑んだ春のセンバツは1回戦の2回途中42-0で試合放棄。
この試合は夕方のニュースより『死に霊の悪夢』と名付けられることとなった。
とりあえず、投稿作を改稿・添削および「小説家になろう」の表示形式に変更しつつ更新していく予定
明後日までには大賞への投稿分を全部上げる!!(願望)