私の騎士
笛の美しい調べ…それは、この世のものとは思えない。そっと、そっと、狭い窓を覗くと息を飲むほどの光景が眼下に広がっている。私に与えられた部屋と対象的なそれは虚像に彩られたような明るい世界。地に生える草の多さがこの国の豊かさを彷彿とさせた。
よく見るとたった一人,銀の甲冑が佇んでいる。あの音色はそれが主のようだ。あれを見ると、私はもうすぐ断首台に立つらしいと思わずにはいられないのだ。
12の春を迎えた日、私は幽閉された。隣国の城、奥深くに。先祖代々の因縁関係によるものと、父の無礼に始まった不仲が原因だった。父の態度が改められなければ、私は処刑されることとなっている。それが6年たった今日なのだ。
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「ねぇ、そろそろ起きないの?」
耳にかかる吐息を押し退けて、私は狸寝入りを決めこむ。
「起きないと、殺しちゃうよ。…良いの?本当に??」
何を言うのだろう。私は殺されるのだと言うのに。
「……ん……」
温かいものが唇を掠め、慌てて飛び起きる。
「な、何をするのよ!」
自分でも、羞恥心で頬が熱くなるのを感じた。
「……抜け出しちゃおうよ、今すぐに。僕は君の唇を奪った。ならば、君は僕の妻なのだろう?」
「誰が……んっ……」
唇にまた温かいものが触れ、言葉を遮った。突然の不意打ちをした上に、妻になれだなんて……誰がこんな人の妻などになるだろうか。
「僕についておいで。美しい花を独占する権利は父には無いからね。」
「イヤよ…!貴方の親切には感謝するけれど、妻になんかならないわ!」
彼は吐息をつく。名残惜しさをその瞳に灯して。
「……君には “血塗られた断頭台 ” なんて似合わないのさ。」
口付けが手の甲に落とされる。
「……健気に咲く僕の花。…君に、僕の命を捧げることを誓うよ。」