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狼領主の末息子と魔法使いの弟子  作者: 深月 涼
アライス15歳、魔法使いの弟子になる
8/16

魔法使いの弟子と狼領主の末息子




やや変則的ではありますが、タイトル回収という事で。




 目が覚めたら、藁の上に布をかぶせたベッドの上でした。

 直藁じゃない!?

 慌ててがばっと起きると、隣りから「目が覚めたか」という声が聞こえました。

 え、ニコ……?

 何故ニコが、ここに?


「状況はわかるか?」

「ええと、すみません、ぜんぜんわからないです」

 ベッドの横に置かれた椅子。

 そこに座って腕を組んでいるニコ。

 この状況はいったい……。

「お前、酒飲んでぶっ倒れたんだよ」

「ふえっ!?」

 あ、思い出しました。

 そういえばお夕食に招かれて賑やかに食事をしていた際、年齢の事について話が行った後、お酒を飲んだんでしたっけ。……割に拒否できない空気の中で。

 私のせいじゃない、と言いたいところですが、この場合拒否できなかった自分の方が悪い事になるんでしょうか。

 そういえば、周囲の壁はお城の中の壁と一致します。

 ということは、ここはまだご領主さまのお城の中なのでしょうか。

 しかも今ニコが座っている位置からして、もしかして。

「ええと、看病、してくれていましたか?」

「……看病と言うほどの事はしていないが……まあな」

 苦い顔をされてしまいました。


「どこまで覚えている?」

「あー、……ええと」

 直前の記憶を掘り起こします。

 すぐに出てこないあたり、本当に突然倒れたんでしょうか?

「お酒を飲んで、その辺からよくわかりません」

 正直に話したら、ため息を吐かれました。

 あー……これはもしかして本人の記憶が無いだけで、実は色々とやっちゃいけない事をした、とかですか?

 キスとかハグとか……脱いじゃうとか。

 脱衣はいやですううう、なんて思っていましたが、不幸中の幸いか、そこまでヒドイものではなかったようです。

「お前は……あー、突然、そう、『突然(・・)』に異国の言葉で何か変なこと言い出してな。そうかと思えばいきなり歌い始めるしで、仕方ないから(・・・・・・)俺がここまで運んだんだ」

「そうですか……それは、ありがとうございます」

 妙に強調されたアクセントだなあとは思いましたけど、実際の英語とはまた違うので、まだまだ私の知らない言い方とかあるのかもしれません。

 ご領主の息子さんであるニコと私では、受ける教育もぜんぜん違いますからね、仕方ないです。


「なんだか迷惑をかけてしまったみたいで、すみません」

「うん、それはいいんだ。……体の方は大丈夫か?頭が痛いとか」

「いえ、特には……」

「そうか。……マリーン様の薬が効いたのかな」

 改めて、自分の体について考えてみます。

 ……変なところは無いみたいですね。

 あ、でも、元気ならベッドから出た方がいいんですか?この場合。

 だって相手はご領主さまの息子さん……ニコですけど。

「あ、まだ寝てろって!無理すんな」

「はあ、でも……」

「いいから!」

 起き上がるのはダメですか。

 ではここは、お言葉に甘えておこうと思います。

 お布団が居心地いいとかじゃないですから!

 というか、シーツ1枚あるだけでもベッドってずいぶん違うんですね。

 ちょっと感動です。


「……とりあえず、今後お酒は無しでお願いしますね」

 ベッドの背もたれに背中を預けて(木のベッドですが、普段の生活からしたらそれだけでもすごい事なんですよ!)ニコとのお話を続行します。

「酒が無い?」

「ですから、私はお酒を飲みませんので、それで許してくださいという事です」

 禁酒宣言というやつですね。

 そうしたら、とたんにニコが吹き出しました。

「っはっは!!真面目な顔でそんな事言うやつ、初めて見たぞ!」

 あはは、と笑うニコですが、私にとっては大事なことです。

 だってもう変なところ見せられないですし、見せたいとも思いませんから。

「それがいいかもな」

「ですよね?」

「ああ。じゃあお前、今後一切酒禁止な」

「はい、わかりました」

「……そうだな、俺もしばらく酒は止めるか」

「えっ?」

 えっと、私だけの話しゃ無かったんですか?

 疑問に思う私に、ニコは若干ふてくされたように言いました。

「だって、酒飲むと身長縮むんだろ?」

 縮みませんよ!……伸びなくは、なるかもしれませんが。


「あー、それで、これからの話なんだけどな」

「はい」

 少しだけ雑談をした後、少しだけ改まった空気の中、ニコの話を聞きます。

 もしかして、これが本題ですか?

「お前、これからマリーン様のところに住み込んで修行することになったから」

「修行、ですか?」

 鍛冶や裁縫でも習うんですか?

 ときおり村の中でもそういう話を聞きますから、修行については特に不思議に思う事はありませんでしたが……。

「お前、忘れてんのか?マリーン様が父上に言っていただろう?お前の事『預かる』って」

「『預かる』……ああ、そういえば!」

 マリーン様とは、どうやら例のあの不思議なイメージのおじいさんの事みたいです。

 あの時は少し難しい言い方してましたし、よくわからないなーと思いながら聞いていましたけど……なるほどー、そういう意味だったんですか。というか、本気ですか?

「住み込みという事は、母や父には……」

「そうだな……荷物の準備もあるだろうから1度戻った方がいい、のか。なら、その時に話をしておいてくれ。……2日あれば大丈夫か?」

「はい。それくらいなら」

 元々私物と呼べるようなものはそれほどありませんし、着替えや身の回りの物をまとめればすぐにでも引っ越しが出来るでしょう。

 勝手に決まったお引っ越しに義理の両親は驚くかもしれませんが、ニコの話はご領主さまの意思なのですから、お断りするも何もありません。

 いつものごとく怒られるのは仕方ないですしちょっと怖いですけど、これで最後と思うとやっぱりちゃんと挨拶しよう、と思うのでした。


「それで、修行というのは何をするのですか?」

「……お前、知らないで今まで頷いていたのかよ!」

 時たまこうやって驚かれる事があるのですが、こうしていると昔日本にいた頃に見た芸人さんのツッコミみたいです。

 もしかして、ニコったらそっち方面の才能あるのかも?

「ジェフ兄上が時たま本を抱えて通っているから、たぶん勉強……に近いんじゃないのか?」

「勉強?」

「算術とか、薬学とかの」

「……難しい言い方だと、よくわかりません」

「あー、計算とか、薬とか?」

「……『マジですか』」

「は?」

 おっとうっかり、です。

「分かるとは、思えないです」

 だって私は計算方法どころか、まず単位すら知らなかったんですよ?

「そうか?お前頭いいんだし、すぐに覚えるって!」

 尻ごみする私を安心させたかったのか、ニコはにっこり笑いました。……別にシャレじゃないです。

「いい加減に言いますね?」

「何だよ、怒ってんのか?」

「知りません」

 科学全盛の時代からやってきた子に、ファンタジーな薬草の扱いが分かるとは思えないんですけど。

 お気楽に言ってくれるニコにちょっとムカついたりもしましたが、最終的には『決められた事だから』とあきらめざるを得ない現実がそこにはありました。

「心配すんなって。俺も出来るだけ顔を見せに行くからさ」

 不安がっていると思われたのでしょうか。

 穏やかな顔をして、ニコはそんな風に言いました。


「いいんですか?」

「当り前だろう?」

 当り前。

 その言葉がどれほど嬉しかったのか、きっとニコには分からないでしょう。

 知っている場所を離れる事が心細い気持もなくは無いですが、それよりなによりニコとまた会える方が、きっとこれからも友達でいられるという事の方が、私にとっては大切でずっと重要だったみたいです。

「……心配、ですか?」

「何が?」

「その、お酒で失敗しましたから、何かするんじゃないかって」

 一応、そういう理由をくっつけてみます。

 もしかしたら、自分でも思った以上に不安なのかもしれません。

「馬鹿だな、そんなんじゃねーよ」

 返ってきた言葉は、あまりにもあっけなくて。

「……友達なんだから、会いに行くのは当たり前だろ」

 ……きっと私は、この言葉が聞きたかったんです。

 お父様―――ご領主さまに言われたからではなくて、彼の口から、ちゃんと。


「本当はさ」

 少しだけ、照れくさそうに頬をかくニコに目を見張ります。

 そんな姿を見るのは初めてでしたから。

「本当は、少し怖かったんだ。……お前と俺はその、違うだろ?」

 それは、身分の差の事なのでしょう。

 この世界では―――この国では―――この地域では、絶対ですから。

「兄上にちょっとだけ言った事が、あっという間に大きくなっていって。……もしかしたらこのまま2度と会えなくなるのかも、って思ったら、怖かった。……結構」

「……ずいぶん素直ですね」

「うるせーよ」

「あと何言ったんですか。変なこと、言ってないですよね?」

「うううううううるせーな!」

 ……あやしい。

 ここ2日くらいびっくりする事だらけですけど……ってあ、そういえば私、ニコにヌード見られていたんでした。

 ……お金取りましょうか?

「そっ、それにっ、お前がドレスなんか着るから!」

 え、それ、今関係あります?

 大体ドレスはドレスコードと言いますか、ニコにとってはお義姉さまがたがですね。

「……女らしい恰好していて大人しいお前なんて……変だろ」

 それ普段どう思っているってことなんですか。

「……悪かったですね、男みたいで」

 実際男の子の恰好していましたけど。

 仕方ないじゃないですか。下着は義母の使い回しですし、服は義兄のお下がりなんですから。

 怒ったふりしてそっぽ向くと、何故かニコが慌てました。

「ちっちが、そのっ……似合ってたから!似合ってたからその、普通じゃないっていうか、だな、びっくりしたっていうか、だな」

 しどろもどろに説明するニコがなんだか妙におかしくて、私は仕方ないなあと優しい気持ちでフォローしてあげる事にしました。

「そういうのは“馬子にも衣装”って言うんです」

「……御者の服?」

「はい。こちらの言葉で言うと“立派な衣服が人をつくる”という感じでしょうか。……あまり偉い人ではなくても……しっかりした服を着ればそう見える、という昔の言葉です」

「……ふーん。……それって、お前の国の言葉か?」

「そうです」

 立派な衣服は~の方は、外国語の翻訳ですけど。

 ニコは、ほえーっと感心したみたいに息を吐きました。


「やっぱお前、色んな事知っているんだな」

「そうですか?」

 首をかしげます。

 だって全然実感ないですから。

「私は、元の国では知らない方ですよ」

 何せ、義務教育途中で放り出してますからね。

「伝えたくてもどう言っていいのかわからない事とかもありますし……この国の事自体よく知っているとは言えませんから、きっとその内がっかりするかもしれません」

 知りたいと思っても、知れるような人も物もありませんでしたから……って、これは半分くらい言い訳ですかね。

 日々の暮らしに追われて、家の仕事をするだけで精いっぱいな日がほとんどでしたから。

「そんな事はない!現に今も、俺はお前に教わったぞ!」

 目を輝かせるニコに、私はやっぱりこのままニコと友達のままでいたいという気持ちを強く持ちました。

「ニコ」

 私の少し真面目な声に、ニコも姿勢を正してくれます。

 こういう、身分にこだわらず人の話を聞いてくれようとするのは、ニコのいいところだと思うんですよ。

 どうか、変わらずにいて欲しい。

 そう願ってやみません。

「私は、ニコのお父さんに、ニコと友達になってほしいと言われました」

「うん」

「でも私は、私自身の意思で、ニコの友達になりたい……いいえ、友達の、ままでいたい(・・・・・・)です」

 そう言うと、ニコはちょっときょとんとした顔をした後、とても嬉しそうに笑いました。

「よし、ならそれで決まり、だな!」

 それは、とってもまぶしい笑顔でした。



 そうして。


「ふむ。お前さん、こういう事は向いておるようじゃのう」

「はあ……」

「何じゃい若いのに。もっとしゃっきりせえ!」

 ばしん、と背中を強くたたかれます。

 気合い入れたんでしょうけど、正直痛いです、師匠。


 数日後、私は正式に師匠……マリーン師匠の弟子となりました。

 家を出ると言った時、母は怒らず無言のままでしたが、最後の日のお夕飯はいつもより品数が多かったです。

 父も特に何も……「そうか」の一言で終っちゃいましたけど、あ、でも久しぶりに頭をなでてくれました。


 師匠の家では、私のやる事は普段と変わりありません。

 朝早く起きて水を汲み、薬草園に水をまいた後、残しておいた火種から火を焚き湯を沸かします。

 それから朝食を作って食事にした後、午前中は洗濯と掃除。

 農作業や家畜の世話が無くなった代わりに、午後にはこうして師匠によるつきっきりのお勉強が始まります。

 自分でもびっくりなんですけど、意外と勉強、嫌じゃないんですよね。

 学校に行っていた時は、勉強より遊ぶことの方が大事だった気がしますが……。

 師匠には今、文字やこの国の歴史を教えてもらっています。

 それから、薬草に関する事とか。

 お世話しているから必要なのは当たり前ですよね。

 どんな形が何の葉っぱで、どんな効果があるのかとか。

 少しずつ少しずつ覚えて行っているところです。

 師匠は、おっかなびっくり生活を始めた私にも優しく、時にはこうして気合いを入れて……くれます。うん。

 たぶん、ペースを考えてくれているんだと思います。

 最初っから詰め込みすぎないようにって。

 話してみると結構気のいいお爺ちゃんと言いますか、気がつくとおしゃべりしすぎてしまう事もあって。

 うっかり現代知識とか持ち出しちゃったこともあるんですが、おじい……いや師匠、分かってくれたんですかね?その時はなんだか流されちゃったんですけど。


 で、こんな風にお勉強を続けていると……。

「アライス!」

 ニコが顔を出します。

「ニコラス様」

 師匠、顔、渋いですよ?

 顔の中心にしわを寄せているのは、私がここにきてから毎日のようにニコが遊びに……いえ、顔を見せに来ているからなんじゃないかと。

 そんな風に思う訳なんですが、どうなんですか?師匠。

「顔を見に来ただけだ、すぐに帰るってば!」

「本当でしょうな」

 そのやり取りに、くすっと笑いがこぼれます。

 だってまるで、どこかのいたずら好きな王子様とお付きのじいやさんみたいな会話なもんですから。

 そうそう、それから―――

「よう、元気してっか?」

「あ、おにーさん」

「ランス、お主(おんし)がおって何故連れてきたんじゃ」

「いっやー、だってそれが仕事ですもん」

 ねー、とニコにふるのは、一応まだ義兄のランス兄さん。

 警備の兵士さんからニコの付き人になったんでしょうか、私が師匠のところに来てからずっと、必ずニコと一緒に顔を出してくれます。……ですが。

「2人とも、サボりはよくないですよ」

「……言葉覚えたら口に容赦が無くなったね?お前さん」

「……だな」

 何2人して分かりあっちゃってるんですか。

 1年一緒にいただけとはいえ、一応こっちの家族の事を知れるのはいい事なんですが、お仕事はちゃんとしないとまたお義母さんに怒られますよ?

 ……堪えない気もしますが……。



 こうして―――私が『魔法使い』マリーン様の弟子になり、植物だけではなく鉱物や動物について学んだり、言葉や計算の問題が少しだけ複雑になったり、ちょっとだけ技術について触れてみたり、国のあれこれについても勉強したり、触れてはいけないと言われていた師匠の棚の整理を任されるようになった頃―――



 気づけばこの世界に来て、2年が経っていました。








きんぐくりむぞん!!




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