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狼領主の末息子と魔法使いの弟子  作者: 深月 涼
アライス15歳、魔法使いの弟子になる
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アライスと秘密の衣裳部屋

 ニコに色々と見られてしまった翌日、なぜか家に、兵士のおじさん達がぞろぞろとやって来ました。

「お前本当に何やったんだ?」

 それはこちらの方が聞きたいです、義兄さん。

「とにかく、逆らうなどとは思うな。行くぞ」

「ちょいと!」

 兵士さん達の中で一番偉そうなおじさんが私の腕をつかむと、義母が目を吊り上げました。

 あっ、あの、手を離した方がいいですよ!

 義母は怒るとすっごく怖いんですから!

「あんたね、こんな小さな子に~~~!?」

「我々も~~~しかし~~~!!」

「けど~~~!!どこへ~~~、可哀そうだと~~~!?」

「~~~命令~~~」

「この子が~~~、役に立つ~~~!?」

「それは分からないが、~~~!!」

 あっという間に聞き取れなくなります。

 それくらい早口の怒鳴りあいでした。

 あ、おじさんの後ろに畑から戻ってきたらしい義父の姿が見えます。

 けれど義母とおじさんのやりとりに、口を挟む余裕も無いみたいですね。

 って、痛っ!

 兵士のおじさんは母と怒鳴りあいながら、それでもつかんだ私の腕を放そうとはせず、むしろこっちへ来いとぎゅうぎゅう引っ張って来ます。

「ヴァージル殿」

 義兄がそっと手を引いて促してくれたおかげで、私が痛い顔をしていた事に気づいたらしいおじさんは、やっとつかんだ腕から力を抜いてくれました。

 それでも、放された訳ではありません。

 これ以上ここにいても、家族に迷惑がかかるだけでしょう。

 義父も義兄も、困った顔でこちらを見ていました。

「あの、逃げません。行きます」

 こくり、とうなづくと、おじさんたちは明らかにほっとした顔をしました。

 義母はやっぱり怖い人です。

 けれど、少しだけ聞き取れた単語の意味を考えると、もしかして私のことをかばってくれたのでしょうか。

 けれど、今の義母のすごくむすーっとした表情をみていると……無事におうちへ帰れたら、またお説教の予感しかありません。

「大丈夫だって、たぶんな」

 義兄さん、それってこれから行く先の事ですか?それとも義母の事ですか?

 どちらにしろそれ、フォローになってませんよ?

 

 連れて行かれた先は、かつてこの世界に来た一番最初に訪れた場所……お城でした。

 どうやらおじさんたちは、ここでお別れのようです。

 義兄と何か話した後、集団で戻って行きました。

「こっちだ。はぐれないように手をつないでいくぞ、いいな?」

 私は義兄に手をひかれ、お城の中をおじさんたちとは反対側へ進みます。

 石造りのお城の中は冷たいような、少し怖い感じがしました。

 絨毯の変わりなのでしょうか、入口から入ってすぐの広間、その床一面にワラが敷き詰められています。

 周りでお仕事しているらしい召使さん達の視線がちょっとだけ突き刺さるようで、居心地が悪くて少し首をすくめました。

 縮こまって歩いていたら、義兄に「ほら」って、余計強く手を引かれます。

 真っ直ぐ前見て歩けって事みたいですね。

 ……って私、今どれだけ小さい子扱いされましたか……?


 ―――ちゃんと分かっています。ここはご領主の住んでいるお城なのだと。

 ……けれど、この世界に来て1年。今更、捕まってしまうのでしょうか?

 何もしてない、とは思うんですが。

 ―――変化があったのはニコとの事くらいで、他には特に、思い当たる事はないです。

 そういえばニコは、いいところのお坊ちゃんっぽい服装でしたね。

 毎日のように遊んだりおしゃべりしてましたから、すっかり頭から抜け落ちていたみたいです。

 もしかしたら、昨日の“アレ”……お風呂のぞきの件で怒られるのでしょうか?

 よくもウチの息子に変なもの見せたな、とか?

 そもそも、ニコの家族がどんな人なのかもわかりません。

 もし偉い位の人なら、それくらいの事を言われても、仕方ないのでしょうか?

 ご領主さまの評判は悪くありませんが、他の人は別、だったりするのでしょうか。


 この世界では、身分の差は絶対です。

 どんな理不尽なことを言われても、身分が上だから許されるような事もあるようです。

 だから、義母にも口すっぱく言われました。―――お城の人間には逆らうなって、目をつけられてはいけないよって。……家に迷惑をかけるな……って。

 私、気がつかない内にやっちゃったんですかね……?

 

 ニコも、嫌な風に思ったのでしょうか?

 もう、遊びに来るつもりがなくなってしまったのかもしれません。

 考えもお色気も、色々足りない子供だと呆れてしまったのかも?

 そんな場合じゃないのは分かっています。

 分かっていたけれど、心の中がちょっと痛かったです。


「こっちだ。俺はここから先は行けないからな、このおねーさんにしっかりついて行くんだぞ」

 義兄に手を放されたのは、お城の中に入って一番最初の広間を抜けた先でした。

「あなたがアライス?ふーん」

 金髪のばいーんきゅっどいーんなおねーさんは、私の事をじろじろみてから「行くわよ」とそっけなく言ってお城の奥に行こうとします。

 私は慌ててその後をついて行きました。


「ここよ。くれぐれも粗相のない様にね。……イライザ入ります」

 こんこん、とノックした後、部屋の中から「入ってちょうだい」と声がかかり、案内のおねーさんは私を部屋の中に押し入れました。それから自分の(色々な部分が)おっきな体で扉を塞ぎます。

 いえあの、そこまでしなくても逃げませんよ?


 通されたのはお城の1室。

 さすがに広間ほどの大きさはありませんが、それなりの広さの部屋の床には、色とりどりの布―――ドレスが拡げられていました。

 ……ここは何をする部屋で、私は何の為に呼ばれたのでしょう?

「貴女がアライス?」

「あ、はい」

「わたくしは、マリアと申しますわ」

「わたくしはエリザベス。貴女には、特別にリズと呼ぶ事を許しますわ」

「わたしはベアトリス。ビーって呼んで」

「わたくしはブリギットですわ。よろしくしてくださいましね」

「あ……はい」

 とたんに上がる「きゃー」という何だか可愛い悲鳴。……悲鳴?

 あの、本当に何なんでしょう。


 体にぴったりとしたドレスは7分丈の袖から先が着物のようにひらひらしていて、胸元から胴のあたりまでは紐でぎゅって縛っています。

 なので、腰から下がふわっと広がっていて……とどのつまりはすっごい強調されている訳です。

 綺麗なおねーさま……いえもう、見た感じからしてお姫様です。そんな方ばかりが4人。

 その周りには、控えているみたいな侍女の人が何人もいました。

「男の子みたいな恰好をしていると聞いたけど、髪の毛は長いのね」

「ふーん?髪の毛は少し痛んでいそうだけれど、この程度なら香油でどうにかなりそうだわ」

「肌もわたくしたちとは違う色をしているのね。ふふ、“彼”は彼女の“こういう”部分に惹かれたのかしら?」

「マリア様ったら、まだ“そう”と決まった訳ではありませんのよ」

「あらでも、そうだったらいいと思わなくて?」

「……殿方たちが面白がるのも、分かる気はしますわ」

「「そうよねー」」

 ……何か、はしゃいでませんか?

 囲まれて、圧倒されてしまいます。

「けれど女の子に、この格好はないと思わない?」

 ……あらら?なんだかコワイカオ。

 お姫様たちが視線を周りに向けると、侍女っぽい女の人たちが急に雰囲気を変えました。

 じり。

 なんとなく、ですが後ずさります。

「あらあら、逃げなくてもいいのよ」

「コニー、アナ……やっておしまいなさい」

 へ?

 侍女の人たちの中でも若い2人が私の肩をガシッとつかんで……え、服、脱ぐんですか?え、こっちのこの大きなタライで体洗うんですか?え、今、ここで?

 いえあの、お風呂はうれしいんですけど……。


 控え目ですがちゃんと嫌だと主張した私の意見は、まったく聞き入れてもらえませんでした。

 身分なんて大嫌いです。

 強制的に服を脱がされ、タライの中にほうり込まれました。……当然ですが衆人環境です。罰ゲームか何かですか?

 あ、見ている前で服が回収されました。

 あの、微妙に期待する展開なのですが。そして同時に嫌な予感もするっていいますか。


「さて、ちゃんと汚れも落ちたわね?」

「あら、ちゃんとすれば綺麗な髪をしているじゃないの。ただやはり、黒という色は珍しいわね」

「ドレスの色はどうしましょう?髪や瞳に合わせるとなると……」

「そうねえ、少し悩むわねえ……」

 ごしごしと拭われて、肌や髪に何か塗られます。

 これって香油、という物では……?

 向こうにいた頃、母がこういう物を集めるのに凝っていたんですよ。

 それにしても、久しぶりの熱いお湯はいいですね。

 できれば半身浴でなく肩まで十分浸かりたいところですが、それがどれほど贅沢なのか、今の私にはよくわかりきっています。

 いつか家に作りたいですね、日本式のお風呂。


「コルセットは必要?」

「胸が強調できないものね。かといって無理に縛りあげれば骨が折れてしまいそうよ」

「そもそも、どれを着ても胸が余りそう」

 ため息をつかれました。

 何でしょうか、心がざっくりえぐられた気分です。

 日本人は海外の人と体形違うから、仕方ないんですよ!

 ……そう言いたかったですけど、言える雰囲気でもなく……。

 そもそも無礼な口をきいたら、今度こそ牢屋行きかもしれませんしね。


 ……どうも捕まったんじゃないみたいなのはわかるんですけど、これはこれで宇宙人な扱いの気分です。

 侍女の女の人たちに着せかえさせられながら、遠い目をしてしまいました。

 ドレスのお姫様たちは、それを見ながらああでもないこうでもないと言っているみたいです。……疲れたのでいちいち翻訳はしません。

 平民の服はなんとか見慣れましたけど、今でもドレスとか騎士の服見るとコスプレだなってつい思っちゃいますね。

 そんな私も現在進行形でコスプレしてますが。

 もしかして、こんな恰好をするという事は、これからさらに何かあるというのでしょうか……?


「けどもう少し~~~」

「あら、ジェフは~~~」

「これじゃあサイラスの~~~」

「いいではありませんか、下手に~~~」

 腰紐をぎゅうぎゅう絞られる間、お姫様方からマシンガントークの洗礼を受けました。

 何とかお姫様方が結婚してここにいる、という事はわかったのですが(旦那さんらしきお名前が出るようになりました)そんなにいっぺんに言われても名前、覚えきれませんからっ!

「~~~~~~よね?」

「あら~~~くすくす」

「お2人とも~~~でもニコがどう思うかしらね。貴女はどう思って?」

「あの、もっとゆっくり、もっとはっきり話してください!お願いします、私には分かりません!」

 まだまだ英語……いえ、似ているだけで別の可能性もありますが、私には判断付かないので英語って事にしておきますけど、ともかくこちらの世界の言葉は不慣れなんですから……ってえ、ニコ?

 何でニコの名前がここで出るんですか?

「あら、やっぱりニコの名前には反応するのね」

「ふふっ、かわいらしい事ではないの」

「……あやしいのではなくて?」

「色っぽい話があるんじゃないかって事?無い無い。だってあのニコだよ?」

 ……なぜ、お姫様達がそんなに親しそうにニコの話をするのでしょうか。

 先ほどからの流れからいって、もしかしてこの中にいるどなたかが、ニコのお嫁さん?


 このあたりでの結婚は、びっくりするほど早いです。

 農村だって事もあるでしょうけど。

 私はまだまだですが、村には私と同じくらいの年頃で、すでに『お母さん』な女の子もいます。

 ……というか、義兄がチャラチャラしすぎなんですよ。だから余計に義母の機嫌が悪くなるというのに。

 って、そうじゃなくてですね。

 だからニコだって、結婚していてもおかしく……ないのかな?って思っちゃったんです。

 考えておいて何ですが、なんだかとっても複雑な気分です。


「あの、ニコって……」

「出来たわね、どう?」

「そうね、いいのではなくて?それでは“向こう”もお待たせしているでしょうし、そろそろ参りませんこと?」

「うふふ、よく似合っていてよ」

「ええ、先ほどのよりはよっぽどマシという物」

「きっとビックリするわよ」

 問いかけた答えは、あっけなくはぐらかされてしまいました。

 確かに、汚れていない服を着る機会はこちらに来てからずっとありませんでしたし、スカート自体久しぶりです。

 足元がスースーしてておちつかないまま、お姫さま達と一緒に大移動が始まりました。

 前も後ろもお姫様方に挟まれていて、さらにその周りには侍女さん達がぞろぞろついて来ています。

 部屋に案内してくれた侍女さんもいます。

 けど、この人ずっとむすーっとした顔しているんですよね……。

 そういう人なのかな……?


 で、この行列、どこに行くんです?

 先ほどのようにはぐらかされるかもしれない覚悟で聞いてみたところ、今度はあっさりと答えが返って来ました。

「この地を治める領主さまに謁見するのよ」

「お優しい方だから、緊張しなくても大丈夫」

「あ、でも、わたしたちの旦那様には色目使っちゃダメだからねー?」

「いやですわ、ビーったら。それを言ったらむしろスタンリー様の方が……」

「ブリギット様は、もう少しご自分の旦那様を信用なさってあげて!」

 ほえ、ご領主さまに会うんです、か?

 ああ、ならわざわざ着替えたのも納得です。

 確かにあの格好のまま会うのは何というか、お奉行さまに引っ立てられた罪人か、偉い人に何かお願いしに行く農民の図、ですからね……って、えぇ!?


 アタフタ動揺しているうちに、大きな扉の前までやって来ました。

 何故だかいい匂いまでしてくるような……?

「参りましたわ」

「さ、通してくださいな」

「お待ちしておりました。それでは……奥方さま方、ご到着~~~」

 覚悟も決まらないまま開かれた扉の先には、大勢の人たちが両脇に並んでいました。

 そしてその一番奥にはイスに座った義父くらいの歳の男性。

 一段下がった場所には、若くて着飾っている男性たちが――――――あ、れ?


「ニコ……?」

 目が合って、びっくりした表情のニコラスが、そこにはいたのです。




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