アライスと新しい友人
あの日から、何度かニコと会いました。
子供達と一緒になって遊んだこともあります。
お仕事は?って聞いたら、ちょっと気まずそうに視線を逸らされました。サボりですか?
お互いに色々な話をしました。
私の故郷の事、他の国の事、私がここにきて不便だと感じた事についてもいくつか話しました。お風呂関係だとか、水道の話とか、あと紙について。
ニコは私が文字を書けると分かると、すごく驚きました。
不味かったかな?でも多分、大したこと出来ませんし。
話を聞く限り、お米はやっぱりこの辺では難しいようです。凄く残念です。
ドラゴンはさすがにいないみたいですが、世の中には魔女と呼ばれる人がいたりだとか、実際お城に魔法使いが居るのは本当だとも言われました。
ちなみにその魔法使いさん、白髪のおじいさんなのだそうですが、魔法を使うっていうよりあやしげな薬とか作ってるみたいです。
時折お城の方へ来て、ご領主さまのからご相談を受けて予言したり、遠くのものを見たりするんだとか。
疑うわけではないのですが、正直実感がわきません。ホントだったらすごいんですけどね。
ちなみに、一般的には魔法は使えないのが普通みたいです。
ちょっとは期待したんですけどね……。そー、ですよねー……。
ニコはいつも明るい感じで、ここに学校があったらクラスのリーダーみたいな感じでしょうか。
家族はお父さまと若い後妻さん、それに歳の離れたお兄さんがいっぱいいるらしいです。
農村は案外子供多いですよ。
明るい金の髪に、空色の瞳。身長は私と同じくらいでしょうか。ええと、150、160?
見た目がっしりした体ではないけれど、てのひらが固くてざらざらしているのは剣の訓練をしているからでしょう。1度だけ剣をつけてきた事がありました。
ずいぶん仲良くなれたと思います。
撫でたり手をつないで誘ったりするだけじゃなく、ふざけて叩いたりするあたり、最近ニコは遠慮が無くなったというか。
……いつもズボン履いてますし、もしかして私、男の子だと思われているのでしょうか。
「ようやく、この時がやって来ました」
人目のあるときには使わない……使えない、お久しぶりな日本語でつぶやき、ふふふ、と不気味な笑みを浮かべます。
何の事かというと、私の家には……というか、このあたりの農家だと普通、お風呂がないんですよ。
それでも隙を見て水浴び、とか濡れた布切れで体をこする、とか頑張ってきたのですが、どうしても耐えきれなかったのでシャワーを作りました。
といっても、穴があいて要らなくなった樽をもらったので、水汲み場にしてる近所の泉から少しだけ離れた丈夫そうな木の上に設置し、細工して底の板を引いたら水が漏れるようにした簡単なものです。大変でしたけど。
まさかこんな所で『テルマエ』の知識が役に立つとは……。
樽だって本当は修理しなければならないのですが、無理を言って貰った物です。
農家は基本的に物を大事にしないとやっていけませんからね。使い捨てなんてもっての外です。
川から持ち込んだ石を組み、小さな竈を設置して水を沸かします。泉の水で温度を調節して準備完了!
苦労したけどそれだけの価値はあると信じたいです。
いつも忙しくて時間がかかりましたが、ようやく今日から試運転です。
まだ夕方とはいえ、遅くに外に出るのが危険なのは分かっています。特に視界のきかない森の中は。
しかし逆に誰もいないという事で、私は心もち急いで服を脱ぎ、シャワーの下に立ちました。
自作の石鹸を手に持ち、いざっ!
「うーん……」
……シャワーというか、勢いの無い打たせ湯というか。
水は有限ではありません。気を取り直し、布切れを濡らし体をびしゃびしゃにします。
一度水を止めてから濡らした石鹸を擦りつけます。最後にもう一度水で流して完了。
水量には不満が無いわけではないですが、悪くない気分です。
泡立ちの悪い石鹸をなんとか泡立たせるべく、体のあちこちを撫でくり回しながら鼻歌を歌ってみたりしました。
がさ。
「!?」
とっさに悲鳴が出掛かりました。実際少し漏れましたが、絶叫しなかっただけましです。
「……何やってるんだ?お前」
設置してあるシャワーもどきを見ながら現れたのはニコでした。
ニコは周囲をぐるりと見渡し、最後に衝撃で固まった私を見ると、
「えっ……」
同じように固まりました。
意識を取り戻したニコが最初に行ったのは、「まず服を着ろ!」という絶叫でした。
その後、お前はこんな所で何をやってるんだ、から始まり、夜の森は危険だと、無防備すぎると怒られました。
最近は、義母に怒られることも少なくなっていたというのに。
聞けば、ニコは見回りの帰りに馬に水を飲ませようとここまで来たようです。なんてツイて無い。
当然ですが、シャワー計画は凍結です。
でも、私がお風呂に入りたくて入りたくて仕方ない事は訴えました。どうにかなりませんか?本当に。
「……で、確認しておくが、お前は女、でいいんだな」
「はい。……分かりませんでしたか?」
「悪かったな」
「いえ、私も分かりにくい恰好をしていました」
「何か理由があるのか?」
「いえ、多分、特にありません。最初にこの土地に来た時、義母に貰った服がこの格好だったので。それからずっとです」
「……」
ニコは少し考え込みましたが、すぐ立ち上がりました。
「とりあえず、今日はこのくらいにしておく。いいか、こんな事もう絶対するなよ。男の前でそんなに簡単に肌をさらすな!」
痴女みたいな言い方をするのは止めてください。
大体タダ見したのはそっちの方じゃないですか。
立ち直るのに時間がかかったのはこちらの方です。お金取りますよ!
……ああ、とっさに反論できるほどの英語力の無い自分が恨めしいです。
「ほら、何してる、行くぞ」
「え?」
目の前には差し出された手。おずおずと握ると、そのまま引っ張り上げられました。
お説教中は正座だったんですよ、私。
そのまま泉近くに繋いでいた馬に近寄ると、結んでいた紐をはずし、改めて手を取られました。
「お前の家はこの近くだな?送って行くから案内しろ」
辺りはすっかり暗くなっていたので、素直に甘える事にしました。
それにしても、ずいぶんな変わり様です。
今日の事が無ければ、きっと現地解散だったでしょう。
私が女子だと分かって、彼の中の紳士心が目覚めたのでしょうか?
それとも、女の子にはいつもこんな風に優しいのでしょうか。
おや?
最後の最後に、何か引っかかる様な言葉が浮かんだ気がします、よ?




