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狼領主の末息子と魔法使いの弟子  作者: 深月 涼
アライス15歳、魔法使いの弟子になる
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アライスと突然の異世界

 14歳の誕生日、どうやら私は次元の壁を越えたらしい、です。

 

 寝て起きたらすっごく臭い場所で、見回してみたら馬小屋でした。

 ぽかんとしていたら第一村人に発見され、そのままお城の門番さんらしき人たちに引き渡されました。

 そこに私の意志はありません。

 ……そもそも見た目明らかに外国人でしたし、当たり前かもですが日本語通じなかったですし。

 一応説明できそうなとこだけでも、と不慣れな英語でしゃべってみたら首を傾げられました。

 おっかない顔で、何言ってんだコイツ?みたいな。

 通じているのか通じてないのか兎に角引っ立てられて、牢屋にぶち込まれました。

 正直このまま殺されるのかと思いました。

 パニックで泣いて叫んでわめいて母を呼び、よく分からないまま何度も神様にごめんなさいを言いました。


 どれくらいでしょうか、泣き疲れて意識を失くして、目覚めて、牢屋から出されました。

 看守らしいおじさんから戦士っぽい鎧と鎖帷子のお兄さんに連れられて、私は初めてまともに外の世界を見たのです。

 後ろには城、目の前には畑。牛や羊が放牧されて、ぽつぽつと粗末な木の家が建っています。

 ヨーロッパ……にしては、服装が皆コスプレしてました。

 鎧に布の服。ついでに通じない言葉。

 ……これが最近はやりの『異世界トリップ』というやつでしょうか。ナニコレファンタジー。

 あまりの絶望感にふらふらすると、付き添いのお兄さんが支えてくれました。

 ありがとうと言ったけど通じて無かったみたいなので、さんきゅーと言うとにっこり笑いました。あれ?

 よく聞いてみると、なんとなく知った単語が出てきます。

 ですが中学2年の英語力では、ちょっと早口になっただけで途端に分からなくなります。

 ……もとからそんな、英語の成績良い方ではなかったですし。

 知ってる単語だって、たかが知れてます。

 ちょっと自分の不勉強っぷりに自ら軽く首を絞めてしまいました。同行者に気づかれないようキュッと。

 完全に全くわけのわからない異世界、というわけでもなさそうだな、とその時には思いました。

 ……ですが私、世界史もよくわからないんですが。

 

 連れて来られたのはお城から少し離れた一軒のボロ屋で、中に居たのはきつい目のおばさんと、ちょっと困った顔のおじさんでした。

 おばさんとお兄さんの怒鳴り合いの末、私はそのお家でお世話になることが決まったようでした。

 大丈夫なのか不安になりましたが、他に行く当てもありません。

「お前、名前は?」

「新井鈴花です」

「……アライス……?よし、じゃあお前の名前はアライスだな」

 私のつたない英語は、名前さえまともに呼べないほどひどいのでしょうか?


 こうして私の、農家の子としての生活が始まりました。

 この世界で私の義母となった人は、凄くおっかない人です。すぐ怒鳴るし、叩くし。

 でも、私が何も知らなくても何もできなくても、決して出て行けとは言わなかったのです。

 義父は、基本的に私としゃべろうとしない人でした。

 毎日朝早くから夜遅くまで畑で仕事をしていて、私は見よう見まねで義父の手伝いをしました。

 ここに来たばかりの頃は毎晩のように泣いていて、そうすると義父が黙ってそばまでやって来て、硬い手のひらで不器用そうに頭を撫でてくれました。

 私をこの家に連れてきた義兄は、普段城で門番の仕事をしているらしく、基本的に家にいません。

 でも、お互いに言葉が通じない中で、義兄は、義兄だけは優しくしてくれました。

 しかしそんな義兄も、1ヶ月2ヶ月経つ内に家に帰って来なくなりました。

 偶に用事があってお城の方に行くと、いかにも欧米人らしい、ないすばでぃな綺麗なお姉さんと一緒にいたりしたので、義兄は義兄で元気にやっているのでしょう。

 

 そうして1年近くが過ぎ、言葉が不自由なりにそこそこ落ち着いて生活できるようになった頃、私に羊が与えられました。

 と言っても私の羊ではなく、要するに近所の羊たちの世話をしろという事でした。

 それからは羊飼いが私の仕事になりました。

 最初は近所の大人が付いていましたが、最近は一人です。

 偶に近所の子供の面倒も一緒に見ます。歌を歌う、とか地面に絵を描く、とかボール遊びのまねごとをするとかくらいですが。

 草刈り前の野っぱらで、ミステリーサークル作りもしました。

 ……多分子供達分かってなかったと思いますけど。


 話を聞く限りでは、この世界は凄く昔のヨーロッパに思えます。

 ただ時折、お城の魔法使いがまた何かしたとか、領主の息子がドラゴンを退治しただとかの情報が入ってくるので、どう判断して良いのか分かりません。

 なにせ忙しい両親に代わって情報源になってくれたのは、一緒に遊んでいる子供達でしたから。

 

 『彼』に初めて会ったのは、そんな日々が日常になった頃です。

 いつもの通り羊の番をしていた時でした。

 この近所では見かけない、泥で汚れていたりつぎはぎだったりが無いちゃんとした……といってもどこかのRPGの勇者や戦士みたいな、そんな服を着た同年代くらいの少年は、私に近づくと馬に乗ったまま話しかけてきました。

「お前か?何処から来たのか分からないアヤシイ奴というのは」

「……ええと、多分私です」

「多分?まあいい、名前は?」

「あ……私はアライスです」

「?ずいぶん馬鹿丁寧な言い方をするんだな」

「あー、ええと、……私はうまく言葉が話せません」

「ふーん?遠くから来たのか?」

「……ええと、多分、そうです」

「……はっきりしない奴だな」

「ごめんなさい」

「……簡単な言葉なら分かるのか」

「多分、分かります」

「多分?」

「あー、……すみません。はっきり言うの、難しい、です」

 日本人だった頃の癖みたいなものでしょうか。

 義母にも散々注意されましたが、初対面の人と話す時にはつい正確に言おうとして、かえって勿体つけた言い方になってしまいます。

 少年はようやく馬から降りてきました。どうやら本格的に取り調べのようです。

「まあいい、何処から来たのか話せるか?それとも記憶がないのか?」

「……記憶は、あります。……故郷は東にありました。ここからとてもとても遠くです」

 この辺りで馬に乗る人はほとんどいません。それこそ城勤めの兵士達とかでないと。

 今さら取り調べ?と思いつつも、逆らったら何されるか分からないので、素直に答えました。

 故郷は東の遠くの島国で、どうやって来たか分からないと言うと、その国について聞かれました。

 科学や機械の話を上手くできるとも思えなかったので、戦がなく平和だが災害がよく起こる場所で、農家は水を張った畑に作物を植えている、と説明すると興味を持ったようでした。


「すみませんが、この国についても聞いていいですか?」

「この国?」

「はい。私はこの国がどこにあってどんな国か知りません。私は知りたいです」

 今いる場所について義母や義兄に聞いてみた事もありましたけど、ほとんど遠出もしない、出来ない農民という身分のせいなのか、あまり詳しい話は聞けませんでした。

 わかるのは、この辺の土地は領主さまが治めていて、どこか遠くに国王さまが居るらしい、という事ぐらいです。

 地名も心当たりの無いものです。

 まあ海外の地方名なんて、よっぽど有名でもなければ全然知らないんですが。

 ちょっと馴れ馴れしいかなとも思ったけど、チャンスは逃したくありませんでした。


 少年は気にした様子もなく分かったと頷いてくれました。

 彼によれば、この国はブリタニアと言うらしいです。

 そしてここの領主さまは、キャルヴィン=ディー・バーレイという方らしいです。

 残念ながら、どちらにも聞き覚えはありませんでした。

 ご領主さまには息子さんが6人いて、かつ上の4人の兄君はそれぞれ領地をもっているらしいです。ほほー、それはすごい。

 何度か戦はあったけれど今は穏やかで、ここの領主さまはとても素晴らしい人だと少年は誇らしげに語ってくれました。

「平和な土地ですね。ここに来たのは幸運でした。話してくれて有り難うございます」

「ああ気にするな、大したことは話してない。……いつもここに居るのか?」

「そうですね……。この辺、です」

「そうか、また来る」

「はい、楽しみに待っています」

 自然と言葉が出ました。

 お互いにちょっとびっくりした顔をして、その後同時に吹き出して笑いました。

「俺も楽しみにしてる」

 じゃあまた、と馬の向きを変えたところで大変なことに気が付きました。

「あの!名前は何ですか、教えてください!」

 少年は顔だけ振り向いて言いました。

「俺はニコ。ニコラスだ!」

 それが、今後長い付き合いになる少年の名前でした。





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