95話・魔法戦。
―レフィ=パーバド―
「解」
麻理さんが、そう言うと、辺りが明るくなった。つまり、先ほどの魔法が解除された。完全な暗闇の中にいたのもあって、少し眩しい。声のした方を見て見ると、麻理さんは、いつの間にか、巫女服姿になっていた。
「その姿は?」
「まぁ、気分転換というのもありますが、これは、戦闘服のようなものです。少しくらいなら魔法も弾きます」
なるほど……でも、何故巫女服……というのは突っ込まないでおこう。というより、そんな余裕なんかない。今も、男からの攻撃は続いている。まるで機銃のように細かく小さい火球が大量に飛んできている。私は、暴風の盾で、麻理さんは、先ほど説明居してくれた巫女服の効果かなんかで弾いているが、相手にとって、こんなの攻撃の内にも含まれないだろうし、いずれまた大きい魔法が飛んでくる。
だから、こっちから打って出なければいけない。
「その風は、速く。その風は、鋭い。……故に、強く屈強な戦士を屠らんとする刃となりうる。その刃を我がもとに……疾風の刃」
私の元に風が吹き、目の前にいくつか風の刃が出現する。
「発射っ!」
そして、その風の刃たちを男目掛けて打ち出した。
この魔法は、攻撃範囲の関係で対象に出来る数が少ないけれど、恐らく私が今使える魔法の中で一番の攻撃力の高いものだ。
近づく風の刃に対し、男は全く動かない。
「ふーむ……なるほどな」
しかし、その刃は男に届くことはなかった。
「アイスウォール……」
風の刃は、突如現れた氷の壁に阻まれ、消えた。
あの男は、どうやら、氷魔法も使えるらしい。
「……よし、こうやるのか」
男が私に手を向ける。そして……向かい風が吹いた。
「お返しだ、出来ているか分からないがな……疾風の刃……発射」
次の瞬間。血が舞った。
私の目の前には……麻理さんがいた。
「どうやら、あの男は、魔法を盗むことも出来るようですわね」
麻理さんが血を吐きながらそう言った。……お腹がずたずたに引き裂かれている。
ふらついた、麻理さんがこちらに倒れて来たので、慌てて受け止めた。
「す、すいません」
「そ、その……」
「大丈夫、今の私は、大丈夫ですから」
と言って、麻理さんは、立ち上がった。
「で、でも、その傷……私を庇ったから……」
「問題ありませんわ」
と、お腹の傷を指差す。その傷は、徐々に回復していっている。
「そ、それは……?」
確か、麻理さんは曹駛と違って、一度死なないと回復しないはずじゃ……
「ですから、今の私は特別です。心配なさらないでください……それよりも、反撃、するんですよね、レフィさん」
その言葉に対して、小さい頷きで返す。
「じゃあ、数秒間、あの男の相手をできますか?」
「え?」
「少し、ほんの少しだけ時間が掛かりますので」
途端、魔力の波が麻理さんからあふれ出た。魔力圧で、隣にいる私は一瞬くらっと来たが、麻理さんに言われたとおり、男をなんとかしなければいけない。これほどの魔力の波に気付かない訳が無い。
魔法を使えば、コピーされて逆に使われてしまう可能性がある。なら、近接戦で……
小さい声で出来るだけ早口で、詠唱をした。全身から魔力を持って行かれる感覚。やっぱり、本来的には、私は風魔法以外を使うのは駄目なのかもしれない。私が使った魔法は……
「ソードメイク」
土魔法の初歩も初歩。杖を包むように土が現れ、剣の形になって、硬い金属に変化する。解除するまでは、私の杖はこの剣で、この剣こそが私の杖だ。そして、あの男と戦う武器でもある。
「はあああっ!」
ずっしりとした両手を構え相手に向かって走り出した。相手は、火球をいくつかはなって来たが、暴風の盾がそれを弾き返す。
「とったっ!」
剣を男に振り降ろす、だが、そう簡単に決まる訳が無い。
男もまた剣を創りだし、私の剣を己の剣で受け止めていた。
「氷の剣だ、格好いいだろう」
男は、見た目にそぐわず、子供のような笑みを見せながら、そう言った。
「そうね、あんた以外が使えば格好いいかもしれないわっ!」
そう、言って一旦間合いを取ろうとした……が、剣が離れない……剣が動かない。まるで、剣同士がくっ付き合っているかのように……まさかっ!
「おいおい、そりゃ酷いってもんだ、この剣は俺くらいしか使えねぇよ、そもそも、この剣を使うための魔力が無いだろうからな」
これは、氷の剣と私の剣を凍らせて一体化させたとでもいうのだろうか……
「ということでな、まぁ、可愛い女の子を殺すのは心が痛むが、死んでくれ」
私の背後にいくつもの氷の剣が出現した。
「えっと、なんていうんだっけ? ……確か、発射……だっけ?」
直後、その剣たちが私に向かって発射された。




