91話・岩兵。
―武元曹駛―
このまま、一気に決め……たいんだけどなぁ……
どうやらそうはいかせてくれないらしい。
「曹駛」
「なんだ」
「分かってるだろ」
「………」
まぁ、分かってはいる。
あいつの余裕な態度。これで終わりってわけじゃないだろうな。
でもよ、ドラゴン三体倒して、それが時間稼ぎって、信じたくないっていうか……
まぁ、でも時間稼ぎなんだろうな。
俺は、気づいていた。
鷸の後ろに聳える巨人に……
「はぁ、そいつ、死んでなかったのか?」
いや、先ほどまではいなかったはずだ。
つまり、俺が、ドラゴンを相手している十数秒の間に、新しいのを呼んだか……復活したか……
まぁ、考えたくないが……恐らく、後者……
「さて、再戦だ」
と、同時に、大きな腕が振り降ろされる。
地面をえぐり取るその腕は、岩だった。比喩ではなく、岩。
ならば……万物爆弾化の部分発動で……よし、出来た。
辺りに炸裂音が響く、それと同時に、その腕ははじけ飛んだ。俺は、巻き込まれたけど。この大きな腕一本と引き換えならば……なっ……!
はじけ飛んだと思っていた……けど、また、弾け飛んでいった粒が全て集まって行き……また、元に戻った。そこにあるのは、無傷の岩の腕だけだ。
そして、俺も復活する。
なるほど、俺とは別ベクトルとはいえ、こいつもまた不老……か、どうかは分からないが、不死っぽいようだな。
それにしても、こいつは生物なのか?
勝手に鷸の能力は、生き物を使役するとかその辺だと思っていたが、こいつは生物には思えない。まぁ、人間を操れるのかどうかは分からないが、そこは、あの女が操るから気にする必要もないのだろう。
「どうした、そんな驚くこともないだろ、お前も不老不死のようなものだし」
「いや、お前は生き物しか操れないと思っていたからな」
「……まぁ、確かに、生き物じゃないと言ったらそうなるかもしれない」
「いや、生き物じゃないだろっ……これはっ!」
躱すので精一杯な、その巨大な腕を躱しつつそう答える。
しかし、どうしたものか。不死性って言うのは、相手にすると厄介なものだな。自分自身が持っても、微妙っちゃ微妙な能力なのにな。
「仕方ない……」
纏うは炎。
って、格好つけている時間も余裕もねぇ!
飛んでくる拳を躱しつつ、強く念じる。
「来いっ! イフリートォ!」
そして、更に念じる。
「完全憑依、武具融合」
出し惜しみは無しだ。そんなことできる相手じゃない。
鎧の形が変わる、武器の形が変わる。左手は変形したランスに覆われ、右手には、複数の輪が現れる。体は変形した鎧が覆う。その鎧からはちらちらと火が漏れ出す。
身体が軽くなる。
巨大な岩の拳が飛んでくる。だが、躱す必要なんてない。
その岩の拳は、俺を避けるかのように、俺に触れる前に熱せられドロドロに溶けた。
俺は、左手を振るう。俺を包み込む歪な岩の拳は、真っ赤になってはじけた。
「これならどうだ……って無理だよな、爆破で無理だったんだから」
どろどろに溶けた、溶岩は俺の意志で操ることが出来なかった。その時点で、なんとなくは気づいていたが、やっぱ復活した。
溶岩は目に見えないような粒子になって元の形に戻ったんだろうな。パッと消えて、パッと元に戻ったし。
「さて、どうしようかな」
「……それは、こっちの台詞でもあるな」
俺の独り言に、鷸がそう返す。
「どうしようも何も無いだろ、軽く千日手だぞ」
「……まぁ、そうだな」
この間も、岩の巨人は攻撃してくるが、なんてことはない。その攻撃は俺には届かない。
届く前に溶けてしまうから。
「……じゃあ、仕方ない、もうちょっと増やすか」
「なっ……!」
あいつ、またなんか呼ぶつもりか?
なんて思っていると、高速で何かが飛んできた。だが、それも俺に届くことはない。これはあの謎の鉱物の巨兵とは違い、俺の力で溶かしてしまえばコントロール可能な物質だ。だから、返してやった。
断末魔が聞こえる。えっと、あの燃えているのは……ああ、砲台ヤマアラシか……まぁ、俺には効かんな。というか、大体のは今の俺には効かん。
ブシュゥゥゥゥゥ!
謎の煙が発生した。いや、これは、水蒸気か。えっと、その原因は、恐らく、俺の後ろ。
振り向けば案の定。後ろには物凄い勢いで水が飛んできていた。……で、俺に届くことなく蒸発と……
水龍か何かを呼んだのだろうか。この水蒸気がいい感じに視界を邪魔して、全く前が見えんが……
「本当に厄介だな、高速で飛ぶ物質も、水も駄目とは……」
「まぁな、そんな簡単に攻略されても困るぜ、ここ数年かけて完成させた俺の最強を簡単に倒されたら、人生やっていけないぜ」
それにしても、どうしたものか、これじゃ本当に埒が明かない。
何か考えないといけないだろうな。
「あー、まぁ、一応、やるたけやってみるか」
俺は、集中し始める。
その間、防御面は弱まるが、防御も何も、今のところ相手の攻撃は俺に届きすらしない。
ならば、その心配はいらないだろう。
集中する。そう、集中。
イメージだけ、強めていく。そして、発動する。
「ムスプルヘイム」
辺りは、溶け始める。熱で、溶け始める。地面が溶け、足場が無くなる。それだけじゃない。あの巨兵も溶け始めている。どうやら、色々とやって抗っているようだが、もう両足は誘拐した地面に呑みこまれ、溶けかかっている。それは地面に消化されているようにも見えた。
腕が溶け、頭が溶け、身体が溶け。ついには、液体になった。
「さてと、これをどうしようかな」
そんな、真っ赤な世界で、一つ、不可解な黒い球があった。




